第11話「ああ、平和の為に、そういう事にしておこう」

学食において、メニューはバラバラ、3人は各自思い思いのモノを食べる。


海斗君が、にっこり笑う。

そして、いきなり颯真君の話を振って来た。


「ふたりのクラスの転入生、女子たちに凄い人気だな」


対して遥が、


「うん、そう、ウチのクラス女子95%がキャーキャー言ってる」


と、答えると、


「そっかあ……俺のクラスの女子たちも、遥のクラスに見に行くって騒いでたな」


「へえ、海斗のクラスの女子も颯真君が人気なの?」


「おお、転入生は颯真君って、いうのか? ……ああ、モノ凄いよ、ウチのクラスの女子にも大人気だ」


「モノ凄い、大人気かあ……じゃあ海斗も、以前はそうだったから、颯真君の気持ちがよ~く、分かるでしょ?」


「ま、まあな……」


「実は……もてたいでしょ? 私以外の女子にさ」


「あはは、勘弁してくれよ、遥」


彼女の遥から、突っ込まれ、海斗君は苦笑し、ご飯を「もぐっ」と食べた。


……そう、高校入学直後、イケメンでスポーツマンの海斗君はもてた。

1年生ながら、陸上部で抜きん出て来ると、なおさらだった。


当然女子たちが、海斗君を放っておくわけがない。


今の颯真君みたいに、女子たちは押し寄せた。

遥という『ステディーな彼女』の存在を知らなかったから。


しかし、海斗君は、


「ごめん! 申し訳ないけど、俺には大好きな彼女が居るから」


と女子たちのアプローチをきっぱりと断ったのだ。


そして、同じ学校の事もあり、やがて遥と海斗君の交際は……知れ渡った。


しかしふたりは、清く正しく美しく、堂々と校内で接した。

両親公認の事もあり、学校も文句を言わなかった。


遥に嫉妬して、いじわるをしようとした女子も居たが、

海斗君がびしっと! かつ誠実な態度で接したので、納得して撤退したのである。


遥も……

海斗君と恋してから、凄くキレイになった……そう思う。


その遥も、にっこり。


「私はね。颯真君ラブの95%女子に入ってないから、大丈夫。安心して、愛してるよ、海斗」


「あはは、そうか、ありがとう、遥、大大感謝だな! 俺も愛してるぞ!」


軽口を叩く、遥と海斗君。


付き合って、3年目。

ふたりとも、余裕があるなあ……って感じ。


正直、うらやましい。


ここで、海斗君が提案して来た。


「なあ、また楽葉原へ遊びに行かないか」


遥は速攻OK!


「うん! 行く! 行く! 当然、凛も一緒ね♡」


……私は、いつも即答しない。


「ええっと……いつも私と一緒に遊んで貰って、凄く嬉しいんだけど……」


口ごもる私に、遥は腕組み。


「おいおい! だけど、何?」


対して、私は、おうかがいを立てるのだ。


「少し心苦しくて……やっぱり、私、ラブラブなふたりのお邪魔虫じゃまむしじゃない?」


すると!

遥は、ぶんぶんと首を横へ振った。


「凛ったら! 何言ってるの、違うって! 『おたく師匠』の凛が居なかったら、楽葉原の探索が完璧に不可能じゃない、私と海斗は! ねえ、海斗」


「ああ、『おたく師匠』の凛ちゃんが居ないと、俺たち、楽葉原で、迷子になっちまうからな」


私が、遥と海斗君の『おたく師匠』??


いやいや!

そんな事は全くない!


海斗君は私に勝るとも劣らない『おたく』だし、

もはや遥も彼氏と私の影響で、立派な『おたく』だ。


ここで、凛が「あ!」と小さく叫ぶ。


「ああ、迷子と言えばさ、思い出したんだけど、海斗」


「ん?」


とここで、今度は遥がおうかがいをたてる。


「凛、颯真君の『正体』だけ、海斗へ言っても構わない?」


「う、うん……」


正体だけ……そう、私が6歳の頃、迷子になった話は、過去の『思い出話』または『笑い話』としてこの3人で共有していた。


恋云々こいうんぬんは内緒だとしても、

颯真君が、私を助けてくれた『王子様』だったくらいは、

海斗君へ言っても構わないかあ……


「うん、遥、話して良いよ」


私が了解すると、遥は笑顔で頷く。


「OK! ……海斗、颯真君はさ、凛を助けた王子様なんだよ」


「え? 颯真君が王子様? 凛ちゃんを助けた?」


ぽかんとする海斗君。


すると遥がもどかしそうに言う。


「ほらあ! 私と凜が出会う前、6歳の迷子事件……前に、凛から聞いたでしょ? 私と一緒にさ」


不満そうにほっぺたをふくらませた遥。


そんな遥に、慌てる海斗君。


「お、おお、そうだ! 思い出した! 遥と一緒に、凛ちゃんから聞いたな! それ本当かよ、凄いな」


「うん、本当に凄いよ、10年ぶりの劇的な再会なんだもの」


「成る程、10年ぶりの再会か! それ、運命的だな! とてもドラマチックじゃないか」


「でしょ! やっと分かった?」


「あはは、分かった、分かった。俺も6歳の頃、親に連れられて、そのショッピングモールには、良く行っていたよ」


「へえ、そうなんだ、海斗も行っていたのね、ショッピングモール」


「ああ、行ってた。その時さ、凛ちゃんを助けたのが、もしも俺だったら、先に凛ちゃんと知り合っていて、遥にはこうして、捕まってなかったのかもな」


「何それ? 私に捕まったって、ひっど~い。私の方が、無理やり海斗に捕まったんでしょ?」


「ああ、平和の為に、そういう事にしておこう」


「何が平和の為よ! こら、海斗! ぶつよ!」


遥が拳を振り上げたので、海斗君はごめんなさいポーズ。


「おいおい、勘弁、勘弁」


あはは、面白い!


遥と海斗君の会話って、かけあいの漫才みたい。

3人は、大笑いした。


と、その時。


颯真君が、女子多数、そして、女子にくっついて来た男子数名とともに、

学食へ入って来た。


そして、遥、海斗君と大笑いする私を「じいっ」と……見たのである。

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