第9話「凛ちゃん、おはよう!!」

結局、私、お母さん、はるかの3人でいろいろと考えた。


だが……

その日は颯真そうま君を取り囲む95%クラス女子を上手くスルーして届く、

ベストなアプローチ方法が浮かばなかった。


こうなったら、まずは地道に行こうと私は決めた。

颯真君から好かれるよう自分の魅力を磨きに磨いて最高に! 

つまりMAX状態へ高めるのだ。


頑張れ!

頑張るんだ、私!


負けるな私!

負けないぞ、私!


自分を激励する、そんな私の心に、お母さんの言葉がリフレインする。


「ええ! そうよ! 例えば、素敵な笑顔を見せられるようにする! 丁寧な言葉を使う! あいさつをしっかりする! ありがとう、ごめんなさい、をちゃんと言う! 話し上手よりも、聞き上手になる! ポジティブ思考を持つ! とかね!」


そして、


「まず清潔感を持つのが大事。肌、髪、爪、は特にキレイに! メイクはナチュラルで魅せる! 制服は毎日、アイロンがけをしてよれよれのものを着ないように! 制服以外の時のファッションは白か、パステルカラーの服を着る!」


書いたメモも改めて、見直す。


という事で、アプローチ方法の名案を考えながら、

やれる事――『自分磨き』をじっくりやろうと、私は決めた。


一緒に、お母さんのアドバイスをメモっていたはるかも、

「『自分磨き』を、一緒にやるよ!」って言ってくれた。


そして、


「颯真君って、凛の事、可愛いって言ってくれたんだよね! 大丈夫だよ! 頑張ろうね、凛! もっともっと可愛く素敵な女子になろう! 私と一緒にね!」


って、励ましてくれたんだ。


よっし!

ふたりから、アドバイスされて、励まされて元気が100万倍!


明日から……いいえ!


たった今から、頑張ろう!


そう決意した私は、遥とハイタッチして、決意を新たにした。


翌朝!

いつもギリギリに起きる私は、1時間も早く起きた。

それも目覚まし時計未使用で。


何にも知らないお父さんは、大きく目を見開き、口ぽかん。


「おいおいおい! 朝から一体、どうしたんだ、りんは? 天気予報はピーカンの晴れなのに、大雨でも降るんじゃないのか?」


と凄くびっくりしていた。


おいおい、お父さん!

可愛い娘が一生懸命頑張っているのに、

大雨でも降るんじゃないのか?とは、失礼な!


……けれど、私の『秘密』を知るお母さんは、

満足そうに「うんうん!」と頷いていた。


そんなこんなで、早々に朝食をすませ……

私は朝の支度したくをする事に。


ええっと……メモメモっと。


私は、母の告げた言葉をまとめた、秘密メモを見ながら心の中で復唱する。


素敵な笑顔を見せられるようにする! 

丁寧な言葉を使う! 


あいさつをしっかりする! 

ありがとう、ごめんなさい、をちゃんと言う! 


話し上手よりも、聞き上手になる! 

ポジティブ思考を持つ!


そして、


まず清潔感を持つのが大事! 

肌、髪、爪、は特にキレイに!

メイクはナチュラルで魅せる! 


ウチの高校は紺色の制服だから、白か、パステルカラーの服着用はムリゲーだけど、

全身をさわやかイメージでまとめよう!

当然、昨夜のうちに、アイロンがけは終えてある。


着替えながら、にんまりにんまりと笑顔の練習。


着替えた後、メイクし、鏡とにらめっこ。

念の為、お母さんにフルチェックして貰いOKが出て、準備完了!


万全の態勢で、出撃!!


「いってきま~す!」


私は、いつもより100万倍元気良く、登校したのである。


さあ!

戦闘開始!


登校し、自分の教室に入って……

何度か、す~は~、す~は~と、大きく深呼吸し、気合を入れ直し、


「お、お、お、おっはようございま~す!」


大きく嚙みながらも、何とか、大きな声であいさつした私。


普段、引っ込み思案の私は、教室中に聞こえるとか、

こんなに響く声であいさつした事なんかない。


うわ!

すっごく、緊張したっ!

簡単、楽勝だと思っていたけど、あいさつをきちんとするのって、結構大変なんだ!


と、改めて思った。


以前、『ことわざマニア』の遥が言っていた。

まさに言うは、やすく、行うは、がたし……


つまり、口で言うだけなら簡単だが、実行するのは難しいって事だよね。


そんなことわざ通りだと。


そして、学んだ!

地道な事でも……

今まで、ちゃんとやっていなかった事を、いちからやるのは、とても難しいと。


大きな声を発した私の挨拶を聞き、すかさず、親友の遥がフォロー。


「おはよう! 凛!」


と、笑顔であいさつして来れた。


「張り切ってるね! 朝から気合が入ってるね!」


と、私を見つめる彼女の瞳が、アイコンタクトで告げている。


凛のあいさつに釣られたのか、更に何人か、クラスメートが、


「山脇、おはよう!」

「おっはよう!」

「おっはあ! 山脇!」


などと、私へあいさつを返してくれた。

正直、結構、嬉しかった。


「あいさつして本当に良かったあ」と、思った。


そして、更に更に良い事が!

早くも起こったのである。


既に席に座り、大勢のクラス女子達に囲まれていた颯真そうま君が、


「凛ちゃん、おはよう!!」


と、私へはっきり聞こえるように、とても大きな声で挨拶してくれたのである。

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