第7話「ではでは、凛。早速、恋の作戦会議をしようか」

抱きついて号泣した私を、はるかはしっかり受け止めてくれた。


そして彼女も号泣。


お母さんの前で、ふたりは抱き合って号泣してしまった。


そんな私達を見て、お母さんはとても喜んだ。


自分の娘が最高の友達に恵まれた事を。

また、10年越しの娘の初恋が実るかも……しれない事を。


お母さんは心の底から嬉しそうに笑い、


「分かった! お母さん、貴女達の味方になる。遥ちゃんと同じく、全身全霊ぜんしんぜんれいで凜を応援してあげるわ」


と、固く約束してくれたのだ。


「あ、ありがとう! お母さん! ありがとうございます!」


心を込めて、お礼を言う私。


だが、お母さんは、私にしっかりとくぎを刺すことも忘れなかった。


それは、とても厳しい口調である。


りん、良い? 改めてしっかりと、お母さんの話を聞いてくれる? 今度は私から大事な話をするからね」


「う、うん……」


うわ!


厳しい表情のお母さんに気圧されそうになる。


私は口ごもりながら、小さく返事をした。


傍らで、はるかも黙って聞いている。


お母さんは「ふう」と息を吐き、話し始める。


岡林颯真おかばやし・そうま君との事は、親友のはるかちゃんと、母親の私が凛の味方をするし、今後、貴女を応援してくれる人も、大勢現れるかもしれない」


「………………………………」


「でもね、最後は自分自身の力で勝ち取るものなの。これは恋愛だけでなく、世の中で自分にかかわる全ての事だと、お母さんは思うわ」


「最後は自分自身……」


「ええ、そうよ、凛。遥ちゃんと私は貴女を助ける事は出来るし、アドバイスも出来る」


「………………………………」


「でも、人任せにせず、まずは自分自身で努力をしなくちゃいけないし、何かを決める状況になったら、考え、最終的に選択するのは貴女なのよ」


「………………………………」


「そうじゃないと、もしも悪い結果が出た時に、自分以外に原因を求める事になってしまう」


「………………………………」


「あの人がベストタイミングで助けてくれなかった、この人がもっと強く私の背中を押して欲しかった。もっと上手く行く良いアドバイスがあったはず、……とかね」


「………………………………」


「はっきり言って、そんなの、全てがたわごとよ。ふざないで! 他人のせいにしないで! 甘ったれないで! と、言いたいわね」


「………………………………」


「お母さん、あまり好きな言葉じゃないけれど、あえて言うわ。自分の人生だもの、『自己責任』でしょって」


「……………自分の人生、自己責任……」


「ええ、当然よ。自分の事なんだもの、自分で決めた事に責任を取るのが当たり前。上手く行かなかった原因を他人のせいばっかりにしたら、下手をすると、恋に破れるだけでなく、すべてを失ってしまうわよ」


「……………す、全てを失うの? こ、怖い……」


「ええ、怖いのは当たり前だし、怖がるのは良いと思う。慎重に行動するようになるからね。そして、逃げちゃダメとも言わない。人間って弱いし、完璧でもないから。でもね、最後に責任を取るのはしょせんは自分、自分の人生の責任を取るのは凛、貴女なのよ」


お母さんは、私の目をまっすぐに見ながら、はっきりと言い放った。


「……自分の人生の責任を取るのはりん、貴女なのよ」


いつもニコニコしていて、ここまで厳しく人生について言われた事などなかった。

なので、逆にお母さんの『本気』を感じた。


きつい事を言われて、メンタルには結構なダメージを受けたけれど、

「熱いエールを送られた!」と思って、ポジティブに頑張るしかない。


でも、今は『いつもの穏やかなお母さん』に戻っている。


「ではでは、凛。早速、恋の作戦会議をしようか」


しれっと言うと、お母さんは、いたずらっぽく笑った。


「まずは、颯真そうま君の情報収集が大事ね」


「え? 颯真君の情報収集?」


「うん、『敵を知り、おのれを知れば、百戦してあやうからず』ね」


「えええ!? な、何それ?」


「昔の人が言った言葉よ。敵の実力や現状をしっかりと把握して、自分自身のことをよくわきまえて戦えば、何度戦っても、勝つことが出来るって事!」


「ええっと……難しいな。それに颯真君は敵じゃないけど……」


「うふふ、敵っていうのは、もののたとえよ。まずは、岡林颯真おかばやし・そうま君の詳しいプロフィールが必要ね。性格、嗜好、趣味、そして凛の事をどう思っているのか」


「な、成る程、そういう事かあ、情報収集って事ね」


「ええ、情報収集。まあ、ドラマの刑事みたいに、いかめしく根掘り葉掘り聞くんじゃなくて、凜が颯真君と、フレンドリーに直接話すのが一番ね」


そう、お母さんが言うと、「はい!」と遥が手を挙げた。


「なあに、遥ちゃん」


「あのぉ、いきなり話の腰を折って、申し訳ないんですけど、今後私も、彩乃あやのママに、いろいろ恋愛相談していいですか?」


え?

付き合っている彼と、凄くラブラブカップルなのに、遥に悩み事があるのかしら?


対して、お母さんは快諾。


「ええ、ノープロブレム! 全然、構わないわよ」


「やったあ! ……という事で、話を凜の恋に戻しますと、彩乃ママのアドバイスを活かす為には、大きな問題が立ちはだかっていまして」


「え? 遥ちゃん、大きな問題って?」


「はい、彩乃ママ。凛と颯真君、隣同士の席なのに、上手くコミュニケーションが、取れてないんですよぉ」


うっわ!

遥に、私の現状報告されちゃった!


お母さんは不思議そうに首を傾げる。


「へ~、隣同士の席なのに、上手くコミュニケーションが、取れてないの? それ、どういう事」


と、ここで遥は、私へ振って来た。


「ええ、じゃあ凛、彩乃ママに分かりやすいように、現状を説明して」


「うわ! 私が?」


「あったり前でしょ! 自分の恋愛なんだよ。さっき彩乃ママから、厳しく言われたばっかりじゃない! もう忘れたの?」


「そ、そうだった、ご、ごめんなさい!」


大いに反省した私は、現在の状況をお母さんに告げたのである。

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