第4話 金田アリス
今の学校は、真緒とは会えないつまらない場所になってしまった。元から、そんなに好きな場所ではなかったが、楽しみの60%は減った。
一応言っておくと、俺は真緒が好きだ。
「これって恋なのか?」とかどうでもいいことは考えたことがない。あんな魅力的な女子とお近づきになったのに好きにならない理由がない。
そんなつまらない学校だけど、将来を考えて通学は続けているし、部活も続けている。
真緒を傷つけた場所に、通いづつけている自分にウンザリしながら、今日も騒がしい教室に入る。
「赤井、おはよー」
「おはよ」
陸上部でも一緒の金田アリスに挨拶を返す。
いわゆるボーイッシュと呼ばれる活発なタイプ。嫌味なくらい整った顔をしている彼女は、女子にしては短すぎる髪型をしている。
ショートカットなんてもんじゃない。スラムダンクの主人公と言えば分かりやすいだろうか。
バスケをやるわけでもないのに、女子らしい綺麗な長髪をバッサリ切って登校した時は、学校中が震えた。
虐待か?ヤケか?罰ゲームか?
色々な噂が広がったが、本人は「イメチェン」と一言で終わらせるものだから、真実は闇の中だ。
ショートカットを通り越して短髪と言うべきこの髪型だが、こいつがすると最先端のオシャレに見える。この見た目でコミュ力が備わっていれば、カースト上位が狙えると思うのだが、空気を読むのが苦手なことで損をしている。
あれは、1年の4月上旬。誰もが自分の立ち位置を見極めるのに忙しかった時期に、当時はロングヘアの美少女だった金田は派手なグループにいた。
思春期の女子が5人以上揃ったら、声量を調整できなくなるのは、どの学校でも共通するだろう。
そんな、クラス全体が諦めている騒音を、金田は注意してしまった。
「うるさいよー」
決してキツイ言い方ではなかったが、そのグループから、はぶられるには充分な一言だった。
それからも、無理に友達を作る努力をしない金田は、ボッチという立ち位置にいる。
しかし、その姿に悲壮感はなく、一人で楽しそうにスマホをいじったり読書をしたりする金田の扱いが、みんな分からないようだった。
そんな金田は、何故か俺には頻繁に話しかけてくる。
「前に教えてくれた小説読んだよー。ちょっとムズイけど面白かったー」
「もう読んだのか?」
「ボッチだから時間があるんだよー」
少し前にボッチがロックバンドを組むアニメを観てから、自分がボッチであると公言するようになった。
金田の場合、後藤より山田タイプだと思うが、本人が楽しそうなので放っておく。
一人が平気で、顔もいい。
俺のように、「立ち位置」なんて下らない概念に気を取られない強い女。
いいなぁ。
こんなふうになれたら、ちょっとは息がしやすくなるのだろうか?
「赤井!ちょっときてくれ!」
「おー」
友達3号が読んでくる。俺はすぐに金田から離れて、そいつの元へ向かう。
真緒がいない教室が大嫌いなはずなのに、俺は友達という便利アイテムを手放すことができずにいる。
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