第30話 十蔵の指導 現実編3
「では、気を取り直して指導をしていこうかのぉ」
十蔵さんは切り替えるようにそう声を上げると人を呼ぶように手を叩いた。
「何かご所望でしょうか?」
どこに居たのか、影からスッと執事さんが現れた。
「十色を連れてきてくれるかのぉ」
「畏まりました」
頭を下げるとまた影のようにスッと居なくなった。
凄いな執事さん。
あの動きはきっと只者ではないんだろうな。
しばらくすると十色さんが道場へと入ってきた。
「じいさん、もう話の方は終わったのかい?」
「うむ。ちとワシと手合わせしようではないか」
「じいさんと? まぁ、構わないよ」
二人は向かい合って構えた。
「じゃあ、私からいくよ!」
一瞬で十蔵さんの前へ行くと踏み込んで掌底を繰り出す。それを受け流して、体制を崩させたところで中段突きを放つ。
十色さんは身を翻すことで避ける。すると、飛び上がりながら前蹴りを放つ。十蔵さんは読んでいたようにそれを下からすくいあげた。
足を上へ弾かれ、空中に放り出された十色に十蔵が回し蹴りを胴体へ放つ。
ドスッ!
重い音がしたが、十色を見ると何とか腕でガードしていた。
だか、その衝撃の重さに吹き飛ばされる。
ズダンッ!
即座に受身を取り立ち上がる十色さん。
その目には闘志が宿っていた。
ゴクリッ
俺はその雰囲気に思わず唾を飲んだ。
すごい威圧感だ。強い人達はみんなこんな気を発するんだな。
「この位にしておこうかのぉ。いいウォーミングアップになったわい」
「なんだ、もう終わりかい?」
「十色はのめり込むと長いでのぉ」
真ん中から十色さんは端の方に座った。
ちょっとむすくれている。
勿体ないで気持ちがノッてきたところだったんだろう。
これからだという所だったのにといった感じにみてとれた。
「では、疾風君、ワシが相手をしよう。遠慮はいらないでのぉ。ワシに万が一当たったとしても平気じゃて。思う存分、かかってきなさい」
自信満々にそう言う十蔵さんからは威圧感が放たれていた。
十蔵さんの前に行くと、目を瞑って気持ちを落ち着かせる。
自分を許す。自分をしがらみから解放するんだ。
「押忍!」
気合を入れて構える。十蔵も構えたまま二人は間合いを計るように回りながら様子を見る。
「来なければ、ワシが攻めるぞい?」
「フッ!」
その言葉と同時に俺の顔目掛けて上段突きが放たれる。容赦ないその一撃。咄嗟に受け流す。
チリッ!
頬を拳が掠める。
ドッと冷や汗が背中に流れる。
今のが当たっていたらタダじゃすまなかった。
鼻が折れていたかもしれない。
こっちを信じて本気で来てくれているんだ。
油断してはダメだ。
俺も本気でやらないと。
「そりゃ!」
上段蹴りを放つ十蔵さん。何とかガードする。
腕に伝わる衝撃が重い。
「くぅっ」
蹴りが重い……。
俺は下がってしまう。
十蔵さんは容赦なく肉薄して中段突きを放つ。
この極限の状態で、集中力が上がってきた。
ゲームの時の感覚のように、攻撃が来るのが気配でわかった。
その時、反射的に内側に受け流し、がら空きの胴体への逆突をくり出す。
バチッ!
「ふむ。今のは鋭い突きじゃったよ。攻めれたじゃないか。確かに高校生にしては鋭いのぉ。同年代だと倒れるのも納得じゃ」
「後はのぉ、射程を考えて伸び切る距離の位置取りをすれば寸止めはできるのじゃよ」
「わかりました。やってみます」
また二人で組手を始めた。
疾風は再び息を吹き返した不死鳥のようにこれから飛びたっていく。
技術を吸収し、貪欲に上を目指すのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます