第28話 十蔵の指導 現実編1

 ゲームでの指導が一段落した頃、トクラさんから連絡が来た。


 現実での指導を行いたいとの事だった。願ってもないことなので、是非お願いしたいと返答する。


 すると住所を聞かれ、迎えに来てくれるということだった。


 毎日の日課を終わらせ、朝食をとる。


疾風はやて、今日は出掛けるんだっけ?」


 一緒に朝食を取っていた父に聞かれた。


「うん。知り合いに空手の指導を受けるんだ」


「えっ!? そうなのか!? その……お金とかは発生しないのか? 大丈夫なのか!?」


「ちょっ、ちょっと、父さん落ち着いて! 大丈夫だから! ご好意でしてくれるから、お金は発生しないよ」


 安堵したように背をもたれる父。


「それなら、いいが。ご迷惑をかけないようにな」


「うん。迎えに来てくれるんだ」


「送迎付きなの!? 凄いVIP待遇じゃないか!」


 嬉しそうに話す父。疾風が空手で悩んでいるのを知っているため、どうにかしたいとおもってくれているようだった。


 だが、自分ではどうすれば良いのかわからず、父も悩んでいたみたい。


「じゃあ、準備して行ってくるね!」


「おぅ。行ってらっしゃい」


 外に出ると丁度迎えが来たところだった。


 なんだ? こんな車乗ったことない。


 お迎えの車は黒いリムジンだったのだ。


 車から執事のような人が降りてきて挨拶をする。


「風間 疾風様で御座いますね? お迎えに上がりました」


 優雅に頭を下げるその姿に圧倒された。


「す、すみません! よろしくお願いします!」


 後ろの開けてくれているドアから乗り込む。ドアを閉めると執事さんは車を運転しだした。


 実は俺、トクラさんの家がどこなのか知らないんだよなぁ。遠いのかなぁ。


 三十分ほど走ると遠くに膨大な敷地の屋敷が見えてきた。


 デカいなぁ。えっ!?……………………えっ!?………………


 待って、この屋敷なの? ヤバいじゃん! すげぇとこ来ちゃったよ!


 思った通り。その屋敷へとハンドルがきられる。


 玄関の前で止まると、ドアが開かれる。


「お疲れ様で御座いました。ご到着で御座います」


 車から降りると使用人の人達がみんなこっちを向いて頭を下げて挨拶してきた。


「疾風様いらっしゃいませ」


 使用人の一人が前に出てくる。


「旦那様の所まで、ご案内します。さぁ、どうぞ」


 その広い屋敷を奥へ奥へ行く。


 少し歩いても奥が続く。

 ん? これどこまで行くんだ?


 ひたすら奥に行くと外に出た。

 その目の前には、歴史を感じさせる道場が佇んでいた。


 そこには、ゲームとほぼ変わらない十蔵と、ボーイッシュな女性が座っていた。


「うむ。来たようじゃのう。まず、着替えてきなさい。あそこに更衣室があるからの」


「はい!」


 緊張しながら更衣室で道着に着替える。

 心地のいい緊張感が俺の体に巡っている。

 強くなれるんじゃないかというワクワクと未知の物に触れるワクワクが入り交じっている。


 更衣室から道場に出る。


「こっちへきてもらえるかの?」


 二人の前へ手招きされる。


「今日は来てくれてありがとうのぉ。楽しみにしておったよ」


「こちらこそ、ご招待頂きありがとうございます!」


「いやいや、あっ、こっちのが孫の十色といろじゃ。現実で会うのは初めてじゃな?」


 十色に頭を下げて挨拶をする。


「そうですね。十色さんよろしくお願いします!」


「あぁ! こっちでもよろしくな!」


 ゲームの中で見るテンカさんと変わらない笑顔で笑う十色さん。


「では、早速手合わせしてみようかの」


 ここから十蔵さんからの指導が始まる。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る