続・おばちゃん社会復帰後物語
高台苺苺
第1話 続おばちゃんと平成会社電話応対の謎解明
新入社員となり数日経った日の頃の話。
会社の事務所の各デスクには、よくある事務用電話機が1機づつ置いてあります。電話受付担当という者がいるわけではなく、全員が手すきであれば出るルールです。
外部から電話がかかってきますと、掛かってきている回線のランプが赤く点滅し、それを押して受話器をあげれば普通に出られる形式の物。
簡単。
なのに、新入社員で入ってからずっと、誰も電話に出ようとしない。
何故?
赤いランプが付いてぷるるる!と電話鳴ると、一種異様な緊張感が事務所内に漂う。そして誰も固くないに出ない。
出たら負け!みたいな緊張感が走る。
なんなんなんだろうか??
おばちゃんが銀行員だった時代は、3コールから5コールまでには出るのが必須でしたので、反射的に「私が出ます!」と、手を挙げて(見渡せるほどしか従業員はいないので)出ます。
昔は先輩女子行員が電話が鳴ると、さっ!と行内を見回し、出れる人が出ないでいると「〇さん!出て!」と、叱責がきたり、男性上司からエライ勢いで怒鳴られたものでしたので。
今そんなことをしたら、パワハラになるのかしら?
そんなことを思いながら出る電話。
「はい、〇〇商事でございます」
すると事務所内に一気に安堵の雰囲気が流れる。
余程電話に出たくないらしい。
まあ気持ちはわかる。
私も不特定多数の未知の電話には出たくありませんもの。
メッセージ系は文章を考えながら返答できるますが、電話は即考えて即返答をしませんといけませんし、相手が見えない分、会話がよりハードルあがりますからね。
わかるけど…電話応対は新入社員に100%任せる物ではないと思うんだけどなあ?
そういえば、ベテランさんが辞められたあと、電話応対の苦情が本社に多くなり、それで急遽電話応対もできる女性を探していたときいていたけど・・・。
これか?
そんなある日のランチタイム。
ランチは最初の1週間は、会社周囲のお店等を教えて貰うために、△さん達と外食ランチをしていた。郵便局やコンビニや銀行等等。〇-グル地図検索でわかるけど、実際に教えてもらうのはまた違うので助かります。
オフィスビルが多い地域のせいか、ランチをするレストランは豊富でオシャレで選ぶのが大変楽しい。
難点は人気店はどこも長蛇の列で貴重な休憩時間がもったいない。
お値段も大概1,000円以上はする。ワンコインランチなんて、もう死語なのかしら?(死語と言う言葉が死語ともきいたけど?)
いずれにしても、毎日1,000円は大変困る。
量もおばちゃんには多いし、カロリーも高いので、あっという間に体重が増えた気がする。
主婦をしていた時は、夫から渡される生活費がギリギリだったので、自分のお昼は大概朝の残りで簡単にささささと済ませていた。
確かにママ友とのお付き合いで、おしゃれレストランランチなんてのも多々あったが、普段は実にシンプルで単なるエネルギーチャージの意味合いしかなかった。
子供達の学費を稼ぐための仕事で、毎日1,000円ランチは本末転倒なので、翌週からは、夫と子供達のおべんとうの残りを、小さなタッパーに詰めて持って行くことにした。
何も残らない日はおにぎりで十分。海苔などは高いので、安いふりかけをぱぱぱとかければ十分。
会議室で食べるのもOKと言われているが、なんとなく気が引け、天気の良い日は近くのビルの間の緑地帯にある公園のような場所で食べることにした。
外で食べていると、社用携帯電話が鳴った。
▲さんからだった。
事務所はランチタイムは交互交代で取るシステム。必ず誰かがオフィスにいるようにするため、3グループに分かれて30分ずれて食事に入る事になっている。
私と△さんは同じ時間帯で、事務所には▲さんと営業の1人が残ることになっているはずで、新入社員の私に緊急電話の要件などない筈なんだけど??
―○さんですか?
「?はい、○です。▲・・・さんですか?何かありましたか?」
―はい、▲です。あの、○さん、電話が鳴っています。
「え?なんの電話ですか?」
―事務所の電話です。
?電話の出方が分からないのかしら??
「あの、電話は点滅しているボタンを押して、受話器をあげれば回線がつながりますよ?」
―知っています。そうではなく、〇さんの机の上の電話がなっているので戻ってきてください。
え?意味不明なんですけど?
外部からの電話は全電話機が一斉に鳴る。なのでどの机の上の電話機ででも得ることはできるはず。事務所先輩である彼女がそれを知らないわけはないんだけど…。
そしてランチタイム等は、事務所に残る者が出るルール。
「あの、外部電話は内線でない限り、全員の電話が鳴りますよね?なので、▲さんのもなっていませんか?▲さんが出てもいいんですよ?」
―鳴ってますよ。でも〇さんの机の電話も鳴っています。
「いえ、だから私は今ランチタイム休憩なので、事務所にいる者が電話応対などをする決まりですよね?」
―そうです。でも、○さんの机の電話が鳴っているんです。だから急いで戻ってきてください。
ダメだ!会話ができない!
「わかりました。今直ぐ戻ります」
お弁当途中だけど、急いで事務所に戻った。いずれにしても電話は間に合わないと思うけど?
当然、電話は切れている。履歴をみたら、知らない電話番号なのでとりあえず控えておいた。
食事に出掛けていた△さんや営業に出ていた人達も丁度戻ってきた時に、▲さんが不服そうに言う。
「〇さん、電話応対は〇さんの仕事なんだから、ちゃんと出てくれないと困ります」
全員がしーんとなった。
△さんがむかっ!としたように言う。
「▲さん!今は〇さんがランチタイム時間ですよ?この時間は▲さんとか事務所にいる者が、でなきゃいけないルールですよね?まさか、ランチタイムの〇さんを呼び戻したんですか!?」
「そうです。〇さんはそのために雇われたんでしょう?だったらランチだろうがなんだろうが、ちゃんと仕事してもらわなきゃ困りますよ」
△さん他が私の代わりにブちぎれて、ぎゃーすか喧嘩を始めたのは言うまでもない。まあまあとその場を宥めて、私は不思議に思い聞いた。
「何故、みなさん電話に出るのをそんなに嫌がるのですか?」
全員が顔を見合わせた。
「うちには固定電話がありません」
そう△さんが言うと、ほとんどの人達が同じだと頷く。
「うちにはありますが、それは何かの契約用に引いている感じで、殆ど使いません」
「契約用?ああ‥確かに今でも契約書に固定電話の番号を書いてくださいというのあ
りますよね」
「ええ。特に学校とかは未だに…。でもそれだけで引いているだけど、ほぼ使いません」
「成程。で?」
▲さんも周囲と同意見なのだろう、急に勢いづいて口を開いて喋り出した。
「〇さん、私も小さい時から、電話は各自が持つ携帯電話しかありませんでした。家族の携帯電話が鳴っていてもでますか?でませんよね?だから他の人の上で鳴っているデスクの電話を取るのは嫌なんです。わかりますよね?」
言いたいことは分かる。気持ちもわかる。でも。
「ここは会社なので、そして各自直通を割り当てられているわけではありませんので、電話がなったら各自が出ないと‥‥いつまでたっても誰も出ることができませんよ?
そうですね…今日は少し時間がありますので、よければ午後にでも電話の出方をお教えしましょうか?」
凄く嫌がられるかな?と思ったが、意外にも▲さん以外全員が少し安堵した顔で、お願いします!と頭を下げて来た。
なんだ。本当はみんなこのままではまずいと思っていたのね。よかった。
と、いう事で急いで簡単な電話操作と、電話マナーをネットで調べてマニュアルを作成し印刷。
それれを前任に配布し、全員で電話にでるレッスンをした。携帯電話で社用電話を鳴らす。私の携帯電話からの電話なので、全員、自信をもって堂々と出る。
以外と簡単だったようで、「携帯で出るのと同じですね」と、みんなの表情が明るくなりほっとした。
操作方法もいまいちわからなかったようで、それを誰かに聞くのも憚れていたようだ。
昔は固定電話しかなくて、小さい頃から否応なく電話応対のマナーを親から叩き込まれた。会社でもそうだったし必須だった。
でも携帯電話が普及し、家庭の電話の位置づけが変わり、それにより会社の電話応対への意識も変わったのねえ…と、時代のギャップを感じたおばちゃんなのでした。
ところで、その電話応対レッスンが本社の方に流れ、私は出張?でレッスンに行くことになりました。
この事務所だけでなかったのね。電話問題。
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