第12話 いじめと一凜

 ある日、南警察・署長の一凜は、表面は普通にしていたが

最近、あらゆる問題を背負い込みすぎて軽いうつ状態になっていた。


南署、警視庁、宮内省、日本、地球、月、金星、火星、木星・・・

異次元の住人、魔物、敵宇宙人・・・

 

『このままでは、息が詰まる』


地域課・自動車警邏隊けいらたいで特別兼務・通信指令課所属の友達『宮田ミキ』巡査を誘い、午後の管轄地域をミニパトで流していた。


「どうしたんですかぁ、珍しい」運転手のミキが言う。


「あー?疲れてんのかなー癒してくれる男もいないしさあー、

なんか、うつっぽいんだよねぇー」


「大丈夫ですか?そういうの、自覚があるうちに早めにセラピーでも受けたほうが良くないですか」


「そんなもの、それならナムサンとアガルタにでも行って未来を占ってもらったほうが気持ちサッパリするわよ」

「じゃ、どうしたいんですかあー」


「っと、と、とりあえず止まって、そこのアイス食べたい」

地元で大人気のハンバーガーショップだった。


「署長、いいんですか、勤務中に、ミニパトでアイス買ってたら写真撮られますよー」


「いいよ別に、パトカーで買い物はOKなんだから、あ、財布忘れた、ミキ二千円貸して、あんた何食べんの?」


「えー、いいですけど、じゃ私、ごまシェイクで、二千円って、お昼食べてないんですか」


「いま、後部座席にナムサンもいるのよ」


ナムサンの3人はSPモードで透明状態のまま署長の警護をしていた。


「それなら先に言ってください」

「はいよ」


シートベルトを外して買い物に走る署長の背中を見ながら、ミキは本当に心配していた。


「何かあったのかな・・・・ね、ナムサン、署長なんか変じゃない?」


「そうかあ、まぁ先週、彼女なりに警視庁に気使ってたからな・・・」


 署内の噂では、先週、公安の要請で南署に協力要請が入り

南署機動部隊・チャレンジャーの中から選ばれた5名と秋葉副署長も参加して

東京下町の外国人アジトに殲滅作戦が組まれ、ひと暴れしてきたらしい・・・・


署長は、ちょっと情緒不安定でストレスを溜めているようだった。


 休み休み警らしていると・・・・・


 そこへ、偶然、通りかかった小さな公園で小学生と思われる3人が1人の男の子を小突いたりしているのを署長は見つけてしまった。


「ミキ、ちょっと戻って、公園、多分だなあれ」

「了解」

素早くミニパトを回し現場についた。


署長は意外にも子供たちが好きで、こういう場面は見逃さない人だった。


「ミキ、あいつら逃げようとするから、いじめられてる子は私が保護する、あと逃がさないでね」


「3人はきついなあー、了解しました」

ミニパトを停めて小走りで向い、もみ合っている彼らに声をかけた。


「ちょっと」

3人の小学生は突然の警察官の声がけに驚いたようだった。


「なんですか?」

振り向きながらリーダーっぽい小太りの子が言った。


「あんたたち、今、この子イジメてたでしょ」


「いーやあー、イジメてないよう、なぁー遊んでただけだよ、なぁー」

小太りの子が他の子達に同意を求めたが、ほかの子達は黙ってうつむいている。


「君、何年生?」

虐められていた子に署長がたずね、ミキは3人が逃げないようにランドセルを両手で掴んだ。


小太りの子が言った。

「なんだよ、はなせよお、職権乱用だぁ」


すっと、署長の顔色が変わった。


「ほう、言うじゃないか、お前、どこでそんな言葉覚えた、親が使ってたか?名前を言いなさい」

他の、ふたりの少年は真っ青になり、いじめられていた子も下を向いている。


「ミキ、応援呼んで、親に連絡するから・・・」

「了解」


 署長は、子供たちの名前を聞き出すと普段から懇意にしている

管轄地域のPTAに連絡して学校と親に連絡をした。

すぐに応援の機動隊警官2名がパトカーでやってきて、子供たちの親もそれぞれ現場に呼ばれた。


「あの、すいません・・・・」

やがて血相変えた親たちが集まってきて、いじめっ子の2人は事実を認めたため、あとで警察官が事情を聞きに行くということで、注意して帰されたが、ひとり、生意気な少年だけは


 いじめを認めようとしなかった。


 いじめられてた子は、親が迎えに来て「あとで事情を聞きに行く」ということで引き取ってもらった。


 やがて問題の生意気な少年の父親というのが外車で乗り付けてやってきた。

「なんだ、どうした、あ?」肩で風を切って歩いてきた。


親父さんが現場を見ると、ミニパトの婦人警官が目に入った。


署長が応答した。

「お父さんですか、この子がイジメをしてる現場を我々が発見して注意したんですが、お子さんは認めようとせず、御足労いただきました」


「おれ、なんもしてねぇよ、おやじ」


「そうなのか、なんもしてねぇんだな?」

「うん」


「お父さん、我々は現場を見ました、この子は嘘をついています」


「なぁに、うそだぁーあ、証拠でもあんのか、あぁ」


「あります、これが写真です」

署長は、いじめの現場をスマホで撮影していた。


「あんだよ、遊んでるふうにしか見えねぇな」


「そうですか、ミキ、お父さんの、車のナンバー調べて身元確認」


「了解、南署、こちら001、車のナンバー所有者確認願います」

「001了解、照会ナンバーどうぞ」


すると、この父親の表情が険しくなった。

「おい、警察っ、こんな証拠で、いちゃもんつけんのか、裁判で恥かくぞ、大丈夫かあー?」


署長の顔は、どんどん険しくなってきた。

「裁判だと?話を大きくしたいらしいな、してやろうか?

言いたいことは、それだけか?」


話を聞いていたミキはになりそうだなと思った。


 署長が怒ると非常にまずい。

 

以前も暴走族気取りの少年たちがバイク13台で署長の覆面パトカー

【マックス】に対し

『おしりぺんぺん』や『タコおどり』で挑発行為を行い、

署長は次々に覆面パトカーでバイクに体当たりをして

執拗に追い掛け回し

バイクの少年たち13人は皆、吹っ飛んで北条の病院送りになった。


全員逮捕、13人に『合格するまであきらめません』と念書を書かせて

少年たちはバイトをしたり、学校に通い、警察官及び警察行政職員の試験を毎年のように受験しており

親たちは喜んで、内密に、毎年お歳暮が、たくさん署に届いていた。


 その時のバイクは、すべて没収となって、鉄くず回収業者に引き渡したのは宮田ミキの担当だった。


 さて現場に透明状態で同席していた神の使いナムサンの3人は黙ってやりとりを見学していた。


署長はテレパシーでナムサンの三人に話しかけた

「おい今すぐこの親父の車燃やせ」

「えー?いいの、そんなことして」

「少しお灸を据えてやる」

「あはは、了解、今日の姫様、怒ってるなぁー」


 調べで親父さんの身元が割れ、署長は、すぐさまテレパシーを使い、きたいち興信所の厳じいに戦闘の準備をして住所の家に行くように連絡を入れた。


署長が凄む

「おい、お前、さっきから生意気な口をきくな、どこのもんだ」


その男は、地元で組員が10名・予備軍が10名ほどのスジものだった。

「てめぇこそ、どこの警察官だ、こっちには弁護士がついてんだ、訴えるぞ、この無法ポリス」


 警官によっては、ここで態度が和らぐ時もあったので、この親父さんは、内心、これで収まってくれないかと思っていた。

 

 そこへ、あっという間に、そのスジものの家に到着したと

厳じいからテレパシーが入った。

 

署長が言う

「随分と自信満々だな、訴えるとは恐れ入ったよ、その元気が明日もあったら、訴えればいい

おい少年、お前のオヤジがこれからどうなるか、ちゃんと見ておけ・・・

ところで、そこで燃えてるの、お前の車じゃないか?」


メラメラと炎を上げ車が燃えている。

「ミキ、消防車呼んでくれ」

「了解」


この頃になると

「なんだ、なんだ」と近所から野次馬が集まってきた。


スジものの親父さんが振り返ると、自分の愛車が燃えている。

「あっ!、なんだこりゃあー、てめえらぁー」


ここで親父さんは内心『何か変な具合だな』と思ってきた。


署長は

「なんのことか、さっぱりわからんなぁ、証拠でもあるのか、整備不良で乗ってたんじゃないのか、逮捕するぞ」


「ガキに因縁つけて、こんな事までしやがって、いいか覚えてろ、

後悔するぞコラァー!」


見栄を張って無理して買った、その外車は、まだ支払いが、たっぷり残っていて、親父さんは内心、かなり動揺しており

『この婦人警官はひょっとして、やり手の警察官なのか?』と見慣れない階級章を見ながら不安になってきた。


「コラァじゃないよ、お父さん、子供の前なんだから、今ならまだ間に合うから、うちの署長に謝んなよ、来てからじゃ遅いよマジで、まだ間に合うから、絶対、謝ったほういいって!」

ミキが説得した。


「あぁ・・・なんだあ?署長?こいつがぁ?誰が謝るか、ばかやろう」

親父さんは、何かマズイかなと思いながら言ってしまった。


 署長は両手を腰に当て、思い切り親父さんの目を正面から睨みつけた。


そして親父さんの自宅前に待機していた厳じいにテレパシーで命令した。

「厳じい、インターホン鳴らして家の者、外に誘い出せ」

「はいよ」


焼夷弾しょういだんぶち込んで家燃やしちまえ」

「えー?ファイヤーカノンはあるけど、いいのかい?

今日は荒れんてんね、あはは、了解」


「おい、親父さんよ、まだ元気だな、私をこいつ呼ばわりしたのは

一生忘れんぞ、でも今頃、お前の家も燃えてるんじゃないか?」


「なに、コラああっ!」

そこへ、威勢のいい親父さんのスマホが鳴った。

公衆電話からだった。

「なんだお前か、なんだあ、今、取り込み中だ、あとで・・・

なぁにーぃいー」


相手は親父さんの女房だった。

「あんた、インターホン鳴ったと思ったら、いきなり家の二階がドカンって爆発して、燃えてる燃えてるよォーあんたあ聞いてんの?あんたあっ!!」

「えぇー・・・」親父は混乱してきた。

まさか・・・一体どうなっているんだ、警察が火を?・・・


 今にも大爆発しそうな車が炎上する現場の消火活動に

函館南消防署から消防車・ポンプ車・特殊レスキュー班が到着し、

慌ただしく動き回り、南署からも増援部隊が到着して、

近隣の安全確保と交通整理に周辺は大騒ぎになった。


 その間、署長は、サンさんにテレパシーでこの親父の所属する

組の東京本部に函館南警察と名乗った上で丁寧にお話をして

函館にある親父さんの組に

「今すぐ破門状を出せ」と連絡を入れるように命令した。


やがて、仁王立ちが鳴った。

「はい、えぇ、そうなんです、おい、お前に電話だ」

署長は自分のスマホを生意気な親父さんに差し出した。


親父さんが不思議に思いながら署長のスマホを受け取ると

組の東京本部からだった。

中込なかごめだ、おい、真田、えらいことしてくれたな、

相手が悪いぞ、お前の組、たった今、破門状でたから、

もうこれ以上迷惑かけないでくれ」ブツリと電話が切れた。


署長は、ゆっくりとホルスターから回転式拳銃『南部S5タイプ』を抜いた。


 親父さんの顔色は、真っ青になった。


 鬼のような顔の署長がスマホを奪い返し

『真田』という親父さんに拳銃を向けて凄んだ。


「さぁ、どうすんだ、訴える元気まだあんのかあ!逮捕だあ!

容疑は危険物所持及び車と自宅への放火容疑、それと警察官脅迫の容疑、まだまだあるぞー、今から事務所ガサ入れするからなぁ、おい機動隊っ!この親子、署に連行しろーっ!」


 組事務所には密漁の帳簿と売春の帳簿や闇金の契約書と違法薬物、隠してはいたが『トカレフ』も5丁置かれたまんまだった。


 ここで初めて『真田』は自分の手が震えているのに気がついた。


その手は後ろに回り、真っ黒い手錠がギュッと掛けられた。

周囲には、激しくパトランプが回転してパトカーと消防車が消火活動中、めったにない光景にTV局まで、すっ飛んできた。


 もう、生意気な少年は、目が点になって、大人しくなっていた。


宮田が優しく少年に言う

「だいじょうぶ、大丈夫、すぐ家かえれるか・・・あ、そっか、今日はホテルかな・・・とにかく「いじめ」素直に認めて謝んなさい、お父さん大変なことになっちゃったからね・・・・もうイジメなんかしちゃダメヨ」

また一つ、函館の悪が消えた。


「それから、明日、ちゃんと学校に行くのよ。

で、今日イジメてた子に謝るの、ごめんなさいって

二度としませんって謝るの、勇気を出してね・・・

それと、これ私の名刺、困ったことがあれば、今度からお姉ちゃんが助けてあげる。君、名前、なんていうの?」


「さなだまさあき・・・」


「わかった、謝ったらお姉ちゃん、まさあきくんと、お友達にも仲直りの、お話するから絶対連絡ちょうだいね、待ってるから、ここに連絡するのよ」

ミキは名刺を渡した。

「うん」

少年はいつものように、おやじをバックにいきがっていたら


 大変なことになってしまった。

 

ボロボロと泣いて、自力で歩けなくなってしまった。


 翌日、学校で少年、真田正明君は昼休みに勇気を出して

「もう二度とイジメたりしないので、ごめんなさい」と、教室のみんなが見守る中で昨日イジメていた子に謝った。

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