畜生道まっしぐら!

化け猫ニャン吉

第1話 白い悪魔の猫参上

 2016年12月25日。世間はクリスマスムードで浮かれる中、生まれたばかりの真っ白い子猫が寒空の下をさまよっていた。白猫は両親とはぐれたようで、広島の町を行く宛もなく歩き回る。


 普通、猫は生まれてからしばらく目が開かないはずが、この白猫は生まれて5秒で目が開いた。しっかりとした足取りで、100メートル道路を歩いていた。


 最初こそ「みゃーみゃー」鳴いていたが、泣いていても意味がないと合理的な判断をしてすぐに鳴き止む。試しに走ってみると爽快で、100メートルを10秒ほどで走り抜けることができた。


 周囲の人間がノロマに見える。車も最初こそ驚いたが、しょせんは他力本願の産物だと冷めた目で眺めるようになる。この程度では、驚くには値しない。

 都会の喧騒にもあっさり慣れる。

 生まれて間もないのに店のチキンを盗んでは食べる。

 生きた証に、寺町の寺々にその爪で引っ掻いた跡を残していく。それが、阿弥陀如来に恨まれる最初の一歩となる。


 その日だけでも相当な被害がでた。それも、この白猫の化け物じみた生命力があってこその為せる技。


 その夜は、雪の降る夜であったが、白猫はクリスマスパーティーの行われているエアコンの効いた部屋に侵入。食料は盗むわ、糞尿は巻き散らかすわ、やりたい放題。


 翌朝、窓を突き破り外へ出た白猫。目立つ所にマーキングを繰り返す。すると、縄張りを支配する猫が白猫に喧嘩を売ってきた。

『おい、白猫。われ、誰に断ってションベンしとるんや! マーキングするんなら場所代よこせや!』

 白猫は振り向きもしない。

『われ、なめとんか!』

 縄張りの猫は白猫の顔を引っ掻こうとした。しかし、白猫はヒョイと避ける。さらに、縄張り猫の引っ掻き方を目で見て覚えると、その猫へ試し斬りをする。

『ぐあああ、顔が、顔が!』

 白猫の爪痕がくっきりと縄張り猫の顔に刻まれた。恐るべき攻撃力。白猫は、涼しい顔して縄張りの猫の横を通り抜ける。


 ――それから、白猫の悪さはとどまることを知らず、厳粛な正月ムードへ移行するこの時期に騒ぎが広がる。


 ある時、縄張りの猫が集団で白猫を取り囲んだ。大きなどら猫が束になり、赤子の白猫を威嚇。しかし、白猫は次々にどら猫を撃破。皆、爪の跡を刻まれ尻尾を巻いて逃げ出した。


 逃げた縄張りの猫を白猫は追いかける。

『われ! なんでワシばっか狙うんじゃ』

『お前の仕業じゃろうが!』

 白猫は猫としての言葉をすでに習得していた。縄張りの猫を血祭りに上げて、公園のゴミ箱に頭から投げ入れ大満足の白猫。


 ――ある日、白猫は公園のベンチで寝ていた。


 ベンチに女性が座る。彼女は白猫を見付けると抱きかかえて家に連れ帰った。彼女の名は、中村ともえ。通称巴御前。白猫の御主人となる御方様であらせられる。12月28日、平家の南都焼討の日である。


『次回「名付けて中村ニャン吉」』

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