私的な理由で魔王を殺すので、幼馴染を最強にしたいと思います。

わわわわっふる

灰色の世界

 ある日の深夜、時計は0時を超えていた。いつものように、液晶の中に広がる世界に溺れる。夜中だけは何にも縛られない自由な時間だった。


 そんな彼の自由を奪ったのは1人の少女だった。



 ///


 僕が中学2年生、一般的に厨二病と揶揄される年代の時。目の前で1人の少女が命を絶った。


 僕は彼女が好きだった。


 中学2年生の男子なんて、可愛い女の子から少し話しかけられただけで、自分に気があるんじゃないか?そう思う生き物である。


 僕は彼女が好きだった。


 僕なんてどこにでもいるモブなはずなのに、人気者な彼女は僕に何度も話しかけてくれた。


 異世界転生が本当にあると信じきっていた僕は、君に『トラックに轢かれたら異世界へ転生できるんだよ!』と興奮気に語ったのを覚えている。


 僕の言葉を聞いた彼女は笑いながら

『転生したら幸せになれるかな?』

 そんな言葉を零した。


 その時の顔が、最期に見た笑顔と似ていたんだ。だから、何度も僕はあの顔を思い出す。世界に絶望したような、諦めを悟った笑顔を。




 僕は彼女が好きだった。




 結局君に好きって言えなかったな。




 ////

 カーテンが開いたままの窓から、陽の光が入ってくる。真っ暗な部屋が明るくなって行き、意識は自然と覚醒へと向かっていく。



(寝ていたのか…なんだか懐かしい夢を見た気がする)



 僕の世界は3年前から灰色だ。

 君から見たこの世界は何色に見えていたんだろうか?そんな想いが胸から湧いてくる。


 僕は何故こんなにも彼女を想っている?普通、3年もたったら吹っ切れるはずだろ?


 僕たちはただ同じクラスで、席が近くて、話が合って、毎日馬鹿なことで笑いあって。でも僕は君の抱えていたものを見抜けなかった。それが未練の原因になっているのだろうか?


 3年経った今でも、僕の心には彼女が残り続けていた。


 僕は彼女が好きだった。


 否


 今でも好きである。

 一生実らないとわかっているのに。






「学校の準備、しないとな」


 僕は作業のように、日常の中で与えられた最低限のタスクをこなしていく。そんな姿はまるでロボットだ。灰色な僕の世界に希望なんてなかった。



 ///


「…行ってきます」


 家から出た僕は、無意識的にいつもと同じ道をなぞるように歩く身体に全てを委ね、思考を重ねる。何万回目だろうか、何度も何度も何度も何度も、あの日どうすれば良かったかについて思考を巡らせる。


 だからだろうか


 僕は交差点の真ん中で、減速する様子の無いトラックを前に、その身を晒していた。


 身の危険を察知して思考が加速する。僕は何故こんな状況になっている?信号は青のはずである。この状況は故意か、事故か?今から生存率を高める方法はなんだ?少なくとも今からブレーキを踏まれたとしても、制動距離の範囲内にいる僕は2秒後には宙を舞っているであろう。ならば今できることはなにか?頭を守る ?焼け石に水。しゃがんでトラックの下に潜り込む?そんな猶予はない。


 残り1秒


 僕は脳を限界まで酷使して生存への道を探る。

 どうにかして生き残る方法は…


 走馬灯だろうか、彼女の諦念を含む笑顔を思い出した。そして彼女がこの世界にもういないことも。


 …そういえば、なんで生き残りたいんだっけ?

 僕が生きる理由ってなんだ?こんな灰色の世界に僕の居場所は無い。別に、死んでもいいや。



 //////


 享年17歳、僕は短い人生に幕を閉じた。












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