第33話 選択の時
「ああ。じゃあ。こうしようじゃないか。この姉さんの代わりを務めている固体だがな。消滅する世界を防ぐためにリセットを受け入れた固体だ。朽ちていくだけの世界だったのを救ったのも彼女が取った行動が故だ。彼女はキミとよく似た行動を取っていた。でも、そんな彼女もキミとは違う選択をした。そうリセットを繰り返すことで探偵との生活を守ったんだ。だから……」
倒れているお姫様にお医者さんは細工を始める。何をしているのかは早すぎて分からない。でも、倒れているお姫様が動き始めるのはすぐのことだった。
違う固体。
立ち上がったのを見てそれを本能として理解した。それに。瞳の色が変わっている。紫から赤へ。それは少女とまったく同じ瞳の色だった。それは戦闘用アンドロイドの証だ。
「どうしたの? 私はもう目覚めないはずだったのだけれど」
口調も少女そっくりになったお姫様はお医者さんに問いかける。
「ああ。想定外の出来事だよ。キミの後輩が暴走してね。リセットをやめさせたいらしい」
「そう。私もそれでいいと思うけれど?」
「はっ。やっぱりそう言うだろうと思ったけれどね。それはリスクが高すぎる選択だよ。それはキミも身をもって体験していると思ったが?」
「そうれはそう。でも探偵さんがいなくなる。それは避けたいかもしれない。というわけでやり合いましょう。それが私達のルール」
お姫様だったものはどこからか拳銃を引き抜いて少女へと突きつけてくる。少女も慌てて拳銃を引き抜こうとしたがお姫様の発砲のほうが早い。とっさに身をかがめる。後ろで瓶が割れる。次の行動に移ろうとしたが、すでにお姫様は距離を詰めている。
勢いで舞い上がったスカートを気にすることなく膝が顔面めがけて襲いかかる。少女は防ぐのに精一杯。弾き飛ばされて後方にあった棚へと直撃する。ダメージはほぼ無い。けれど、戦闘への移行が早すぎる。相手の熟練度の高さが分かる。
同じ個体なのに。どうしてこうも差があるの?
そんなことを考えている暇はない。すぐさまお姫様は発砲。こんどは距離があるので走り始めることに成功する。しかし、狭い室内だ。自由に動き回れる空間は少ない。次第に追い詰められていく。
「あなたやり返してこないの? 随分と歯ごたえがないのだけれど」
やり返したくてもその隙がないんだ。そう言ってやりたかったけれど、そんな暇もない。銃弾が尽きることがないのは装填が早すぎるからだ。とはいえ、その時だけ少しだけ静かになる。その隙を狙って拳銃を抜くことに成功する。だからと言って反撃に転換できるわけではない。
隙を探りつつ逃げまわる。しかし、ある場所で動きがお姫様の動きが止まった。すぐに気が付く。射線上に探偵さんが入っているのだ。探偵さんに思い入れがあるのは少女だけではないらしい。
「アナタも探偵さんが大事なの?」
少女の問いかけにお姫様が戸惑っている。最初の会ったときはそんなことなかったはずなのだけれど、今のお姫様はお姫様じゃないってこと。
「そうね。それは否定しない。探偵さんがいるからここにいるのも間違いない。けれどそれがどうかしたの?」
どうもしない。付け入る隙が無さ過ぎて少しでも糸口を見つけたかった。
「いえ。もしかしてアナタも探偵さんにここに連れてきてもらったのかなって」
「そう。だとして、それがこの状況になんの関係があるの?」
まったく動じない。困った。どう動いていいのか分からない。
「いつまでそうしているつもり? こちらからもっと詰めようか?」
お姫様は足を進め、近づいてくる。探偵さんさえ目覚めれくれれば協力を仰げるのだけれど。そしたらどちらで目覚めるのが都合がいいのだろうなんて考えてしまって後悔した。
この期に及んでなんてことを考えてしまったのだ。いくら追い詰められているとは言え意味が分からなかった。あまりの同様に探偵さんにすがるように手を掴む。
そう手に触れた瞬間だった。情報が流れ込んで来て知らない記憶がフラッシュバックする。あまりの情報量に意識が持っていかれそうになる。その内容を認識することもできずにデータの奔流にかき回される。
それは創造主の記憶だった。どうしてそんなものが大量に少女の中に眠り続けていたのか分かりっこなかったのだけれど。それすらも分かる。記憶のすべてと言ってもいいくらいの情報量だ。知らない人の顔が浮かんでは消える。
同時に探偵さんをどうやったら起こせるのかも理解した。それもすべての記憶を保持した状態でだ。
お医者さんに頼ることなく、探偵さんを起こすことができるのであれば……自信はないがやる価値はある。
そかしその間にもお姫様が近づいてきて狙いを定めている。そばにいることによって探偵さんに当たらない位置まで来ていた。時間はない。方法も頭に浮かんだだけで実際に手が動くのかは別問題。
手を伸ばして必要な作業をこなしていく。そうしているうちに探偵さんが発行し始める。あらゆる情報を活性化させていることでなにかが起きて言る。それだけは分かった。
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