アイドルを辞めた幼馴染との新婚生活は幸せすぎた

冬たけのこ🎍

第1話 推しのアイドルが引退した

『大人になったら、私たち、けっこんしようね!』

『うん!僕、おとはちゃんとけっこんする!』

『あ、でも、私アイドルになりたいからな……アイドルってけっこん出来ないよね?』

『そうなの?じゃあ、おとちゃんがけっこん出来るようになるまで、僕待ってるよ!』

『ほんと?約束だからね!』

『うん!約束!』



 ********



「それじゃあ、お疲れ様です!お先に失礼します!」


 そう言って、俺はオフィスの廊下を急ぎ足で進む。

 周りの同僚たちの視線が痛いが、今日だけは仕方がない。

 なんてったって、俺の推しのアイドルグループ、『スイートドリーマーズ』略してスイドリの、アリーナツアー最終公演日だからだ。



『スイドリ』は今人気絶頂の5人組アイドルグループで、歌とダンスの圧倒的な上手さでファンを魅了していた。

 その中でも、センターである「結城音葉」はとんでもない美少女で、俺は彼女のファン第一号であった。



 俺と音葉は、幼稚園に入る前から毎日遊ぶ仲で、いつも一緒だった。

 その関係は、小学生になっても続き、クラスメイトからは『や〜い!らぶらぶ夫婦〜!』

 と毎日馬鹿にされていた。



 しかし、中学生になると、音葉は人気アイドル事務所にスカウトされ、異性との接触を禁止されて、俺と関わることは無くなった。

 最初は寂しかったが、その寂しさを埋めるかのように、俺は音葉のアイドル活動を応援するようになって行った。



 ガヤガヤとした、飲み屋の前を通り向けて、俺は駅へと向かった。

 季節外れの寒さが体に堪えて、思わず手を首元に当てる。



 そして、俺は急いで満員電車に飛び乗った。

 地獄の満員電車も、これからライブなのだと思うとワクワクが止まらない。



 何度か乗り換えをすると、だんだんとスイドリのグッズを身に付けた人が増えてきたように感じてきた。

 そして、会場の最寄駅に着くと、大量の人々が我先にと走って会場へ向かった。


 俺は、ゆっくりと駅のトイレに向かい、鞄の中に入っている、スイドリの初期のライブTシャツへと着替える。

 背中には、結城音葉と、大きく書かれていた。



 会場へと向かっていると、周りの人から、ちらちらと見られる。

 それは、初期のライブTシャツを着ているからであった。

 いわゆる古参勢というやつである。



 俺は、別に古参であることを誇るつもりはないが、こうしてちらちら見られるのは悪い気分はしない。




 会場に入場し、しばらく待っていると、会場が真っ暗になり、パッとステージが照らされる。

 そして、可愛い衣装を身に纏った5人が現れた。


「みんな〜!今日は来てくれてありがとう!!今日は楽しんで行ってね!!」

『うぉおおおおおおおおお!!』


 大きな声援が会場を包む。

 その真ん中で、彼女らは、笑顔でファンたちに手を振りながら、ステージ上で軽やかにダンスを踊っている。

 その中でも、とびきりの輝きを放つのは、やはり俺の推し、『結城音葉』だった。


 終盤には、もう声は枯れ果てていた。


 そろそろラストか、となった時、ステージの真ん中に、結城音葉が立ち、スポットライトが照らされた。


「今日は、みんなに、重大発表があります!」

 ファンたちは、なんだなんだと動揺して、固唾を飲んで見守っていた。


「私!結城音葉は!!今日をもって、アイドルを引退します!!!!! そして!大好きな人と結婚します!」


 会場は、驚きの声で溢れていた。

 そして中には号泣して、倒れ込んでいる人もいた。

 俺は、あまりに唐突な発表に呆然として、気づけばライブが終わっていた。



 さっきまで、尊敬の目線で見られていた初期のライブTシャツも、哀れみの視線で同情されていた。


 俺は、悲しみに包まれたまま、家路についた。



(はぁ……音葉が結婚か……小さい頃、大人になったら結婚しようとか言ってたのにな……)



 ********




 ライブの翌日、今日は土曜日だったので、ずっと家のベッドに篭っていた。

 あんな出来事があったので、全く起き上がる元気が出ない。


 外は、昨日とは打って変わって大雨が降っていた。


 テレビは、『人気アイドル、スイートドリーマーズの結城音葉、電撃引退』で持ちっきりだ。

 また、俺のSNSのTLは荒れていて、とても見れるようなものでは無かった。


(はぁ……明日からどうやって生きれば良いんだ……)

 そんなことを考えていると、ふと『ピンポーン』と家のチャイムが鳴る。

(なんだろう、なんか頼んでたっけな……)



 そう思いながら、重い腰を上げて、ベッドを出る。


「はーい……」

 と言って、玄関のドアを開けるとそこには、結城音葉の姿があった。



「やっほ〜ゆうくん!久しぶり!さ、結婚しよ!!」


 俺は、自分の身に何が起こっているのか理解できずに、その場で固まってしまった。


「いや〜すごい雨だねぇ〜って……あれ!?お〜い、ゆうくん!私だよ!私!お〜い!おいってば!」




ーーーーーーーーーー

〜あとがき〜

良かったらこっちもブクマしていってくださると嬉しいです!

『毎日幼馴染のおっぱいを揉んでたら、大きくなりすぎたので責任取って結婚することになりました。』

( https://kakuyomu.jp/works/16817330667253891740 )

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る