逢魔時の孤独

篝火

逢魔時

 それは、光と闇の境界の狭間はざまとき──


 それは、誰もが恐怖する○○○な時間──


 今日も訪れる始まりの闇──


 私が生まれた見えざる世界──


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「今日もこんな時間になっちゃった……」

 一人呟く私は、夜に半分蝕まれた帰路を進む。


「もう、みんな──あんな怖い話で盛り上がるなんで、どうしてくれるのよ!」

 放課後の教室で友人達と話し込んでいて今に至る現状、私は少しビクついていた。


「最初は普通に恋愛話コイバナだけだったのに、明美アケミがあんな話をするもんだから──」

 そこで、私の言葉と足が止まる。


 理由は簡単な事だ、前方に人影が見えたためである。

 こんな黄昏時に誰かとの遭遇は怖い、なぜなら、相手の事が認識出来ないからである。


 黄昏時……光と闇の狭間の刻、人狂いが出やすい時、鬼が闊歩する時間、別名『逢魔時』──


(不気味な踊りをしていて、気持ち悪い……)

 私が立ち止まった理由、それは、目の前の生物の奇怪な動きにある。


 おおよそ10m程の距離があるが、目の前の生物は左右の手を交互に、上げたり下げたりをしている様に見える。


「どうしようかな……?」

(この道が家に向かう最短距離だけど、アレの横を通るのは嫌だし……迂回するしかないのかな……)

 そんな事を考えていたとき、ソレはこちらの存在に気付いたように動きを止めた。


 立ち止まったソレは、のそりのそりとした動作でこちらに近付いてくる。

「……!」

 あまりの恐怖に私は身動きが出来ないていたら、ソレとの距離が後数歩にまでなっていた。


(ヤバい……!)

 気か付いた時にはもう遅く、ソレは私の腕を掴みニヤッと嗤っているようだった。


 耳で聞くというより、頭に直接流れ込んでくる言葉に私は目眩を覚えてしまい目を瞑る。

 どのくらい経過したのかわからないが、目を開けたら……目の前に私が立っていた。


「おまえは、逢魔時の狭間を永劫に進む存在になった──」

 目の前の私の姿をしたソレは、私の声で私に話しかけてくる。

「唯一戻れる方法は、次の獲物を捕まえる事だ!」

 そして、またニヤッと笑って去っていく。


 私を象る、私の偽物が私に成り代わり、私の代わりに私を演じて生活するのであった──


               完

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