P06:傭兵団ワイルド・スカンク【03】
◇◇
数分前迄は
「アリアだっけ、燃料タンカーや弾薬庫に間違えても発砲するなよ! ここら一帯が火の海になってオレ達も燃えカスになる。補給も無くなって前線の部隊も全滅だ。気合い入れろよ!」
「あっ、はいっ!」
ライナスさんから檄が飛ぶ。
因みにこのライナスという男は右足が無くなる大怪我をしてから護衛任務専門だけど周りの信頼は厚いらしい。
(まぁライナスと一緒なら良いか、って二十回くらいは言われたわ!)
「ふぅ……落ち着いたら怖くなってきたわ」
「ソレデイイ」
言葉少なめのオリハ。
あら……緊張気味かな? それか、わざとそっけない態度を取って私に冷静になれって教えてくれてるのかな。頼りになるなぁ……。
「コノチケイ、ナラ、コウホウカラノ、シュウゲキハ、マァ、ダイジョウブ……カナ……」
「そうなんだ……」
前線が見渡せる高台にライナスさんは陣取っている。アリアは逆に後方の通路に繋がる場所で警戒任務を命令されていた。
(責任重大よ。うひーっ、やっぱり怖くなってきたわ)
「ねぇねぇ、オリハ……大丈夫……かな?」
「コウホウ、ハ、モンダイナイ」
(えーっ……そっけなさすぎない? こういう時は『ゴホウビ、ウヘヘ』とか言って場を和ませて欲しいわ)
くだらないことを考えていると、アリアにも小さな『パン』という音が一回だけ聴こえた。
「ハジマッタ」
「えっ?」
直ぐに銃声は連続したものとなり、爆発音も聴こえてきた。
「おい、前線で戦闘が始まったぞ」
「あっ!」
明らかに遠くだが複数の銃声と爆発音。地面の振動も感じられた。オリハが無線の周波数を作戦用のものに合わせると皆の真剣な声が聞こえてきた。
『――ジャック隊下がれ。敵BMのお出ましだ! クイーン隊は準備良いか!』
『――おうよっ! ウイスキー小隊、ブランデー小隊、準備オッケー!』
『――クイーン隊、ステイアヘッド! 繰り返す、ステイアヘッド』
緊迫感ある皆の声。大人達の真剣な大声。
『――こちらキング隊、こちらキング隊、まだか! ターゲットを視認している、早く!』
『――まだだ、カミナ、切り札は最後だ! クイーン隊、アタック、繰り返す、クイーン隊、アタック、ゴーゴーゴー!』
その瞬間、明らかに遠くの銃声と爆発音が激しくなった。無線の緊迫感が合わさって恐怖も倍増だ。
「きゃっ! オリハー……大丈夫かなぁ」
「……」
顔文字もピクリとも動かない。無線に聴き入っているように見えた。
オリハも……緊張してるのかな?
「ねぇ、私達は……行かなくて良いんだよね?」
「ニゲルナ、シヌナ、フタツシカ、メイレイ、ハ、ナカッタ」
「あっ……なるほどね。って、それで良いの?」
「ソレデイイ」
正直言って『ヨシ、タスケニイコウ』なんて言われても困る。お留守番だけで良かった。ほっと一息吐いたところで近くに銃声が聞こえた気がした。
「あら、近い銃声ね……」
「マァ、コウホウ、ハ、コンナコトガ、オオイ……」
「えっ、うわー、横から奇襲よ!」
山側の崖からバトルマシーンが二、三体滑り落ちてきた。しかし、悲鳴を上げる間もなく一体が爆散した。ライナスが反応して銃撃を開始していた。
「アリア、タンカーを守れ! 防弾装甲でもデカいのもらったらヤバい」
「ライナスさん! は、はいっ!」
その瞬間、コンソールの横から飛び出て来た何かがポンと膝元に落ちた。
ゲームパッド!
「えっ……私がやるの?」
「ガンバレ」
コンソールの顔文字はタバコを吸ってノンビリしている。このタイミングでーー! 焦るアリア。
「ここで? 今から? ホントに?」
「ソウ。イマ。ガンバ」
プルプル震えるアリア。
「やってやるわよ! 見てなさい、右右左左上……ダメー! きゃーこわいーっ!」
BM一体と撃ち合うが照準が上手くいかない。敵BMの弾丸はオリハの左手の防弾装甲にバシバシ当たっていた。
「ホラホラ、コワレルヨー」
「やめてー!」
遊んでいるようなアリアとオリハ。ライナスは既に二体目を行動不能にしていたのだじっとコチラを見ていた。アリアが一体倒せば問題なく切り抜けられそうだ。
「このっ、このっ、当たれ当たれー!」
至近距離で外しまくるアリア。
「アリアちゃん……遊んでる?」
「遊んでません!」
「じゃあ助けるよ?」
「あぁ、もう少し、もう少しだから!」
その時、遠くの山頂から発射された赤い線が燃料タンクの一つに当たった。
「レーザーサイト? チガウ、レーザーコウゲキ、カ!」
「ナニナニ、次は何なのー?」
「なんてこった! 狙撃されてる!」
焦るライナス。防弾耐熱装甲でもレーザー直撃なら長い時間は持たない。
「えっ? 遠くの山から赤い線がタンカーに刺さってる? わっ、真っ赤になってるよ!」
「遠過ぎる! 支援要請、メーデー、メーデー、敵から狙撃を受けている、支援要請、誰か!」
しかし、無線の中も混乱の極みだった。キング隊が突入すると、敵の予備兵力とかち合う予想外の戦闘が発生していた。
『――メーデー、メーデー、こちらキング隊、想定外戦力と交戦中!』
『――ナイト小隊、一騎ダウン! 一騎ダウン、救援求む! 早く!』
『――えーい! 私の前から全員どけーっ! 粒子ビームを一発使うぞ』
『――待てカミナ! オレが行く』
ナッシュやカミナの焦る声が聴こえる。とても此方の状況を気にする暇はなさそうだ。
「マズイ……」
「どうするの、よ!」
「サスガニ……デハ、コントロールモラウゾ!」
ゲームパッドがいきなり仕舞われると、操縦桿と
コクピット全体に文字やグラフが一瞬表示されるとイケボで喋り始めるオリハ。
engage enemy now.
(現在、交戦中)
detect a few energy and uncertain energy at long range.
(数体、及び遠距離に不確定なエネルギーを検知)
move to counter attack sequence.
(反撃態勢に移行する)
targets lock.
(複数の目標を固定)
mode change SNIPE.
(狙撃モード『スナイプ』に移行)
are you ready?
(準備を確認する)
(やった、イケメンオリハのイケボの時間だよ)
アリアの目には顔文字もイケメンに見えるらしい。両手を胸の前で小さく手を叩くアリア。
「いけー、やっちゃえー、オリハー!」
オリハが操縦し始めると脚部ホイールを使ってダッシュで敵BMに飛び込む。そのまま防弾装甲を使ってタックルしてのんびり撃ち合いをしていたBMを弾き飛ばした。
「オリハ、どうするの? 飛んでって山の向こうに行くの?」
いつものライフルを背中のアタッチメントに固定しながら背中の反対側に装備された折り畳み式の銃身を展開する。それと同時にBMの頭部にも背中から望遠レンズが延びてきた。アリアのヘッドマウントの映像も変わりズームされた映像が表示される。遠くの山頂の赤いレーザーを発射している砲身が少しだけ見えた。
「ここから倒すの? ねぇ、ねぇ、オリハ!」
「サキニ、ケイヤクダ! イキタケレバ、ハイ、ココデ、オワリタケレバ、イイエ、トイエ」
「ハイ、ハイ、ハイッ! ハイでーす! ふれーふれー、オ・リ・ハ! がんばれ、がんばれ、オッリーハーッ!」
大慌てで全力の肯定。気分はチアリーダーだ。揺れるコクピットの中、満面の笑みで器用に腕を振り回す。
「ヨシッ、デハ、ケイヤク、セイリツダ」
ok.
(了解)
the order has been approved.
(指令を承認する)
mode change SNIPE complete.
(『スナイプ』移行完了)
ready ……
(射撃準備……)
「ライナス、コッチノBMマカセタ!」
弾き飛ばしたBMに射撃を加えているライナスに声を掛けると高台へ高速移動する。大型のライフルを構えて敵砲台をズームで狙いをつけてみる。しかし防御陣地に遮られて射線が通らない。
『――な、なに? なんだって? お前、アリアか? どうするつもりだ!』
「カクド、ガ、ワルイ……アリア、ターゲット、ガ、サイトニ、ハイッタラ、トリガーヲヒケ」
コンソールの下からもう一本トリガーのついたレバーが出てきた。
「えっ、なにこれ? 何の操縦桿? えっ?」
「ニギレ」
いつもよりぶっきらぼうな感じに少し焦る。
「あっ、はい」
「イマ、ウツッテル、ジュウジニ、テキガハイッタラ、トリガーヲ、ヒケ」
HMDの中には照準が表示されている。今はレーザーを発射している砲身の一部だけが照準と重なっている。本体は壁の向こうだ。
「えーっ、私?」
「ソウダ。マカセタ」
「えーーっ!」
オリハの喋り方に余裕が無い。その雰囲気に背筋がゾッとして、思わず生唾を飲み込む。
(こ、怖い……でも、私がやらないとっ!)
「分かったわ! 準備オッケー!」
「ヨシッ!」
返事をするや否や一気に前方に加速するオリハ。身体がシートに押さえ付けられる。まるでジェットコースターだ。
「きゃーーーーー!」
全速のローラーダッシュで半円を描くように勢いをつけて再度高台に近づく。
シートに固定されているとはいえ身体が横に吹き飛びそうになる。その時、チラッとライナスの乗るBMが視界に入った。無事、先ほどの敵BMを撃破していた。
(ライナスさんがんばってるなぁ)
よーし、私もやるわよ! と気合を入れ直す。
「イクゾ!」
高台の段差を使って空中にジャンプすると、スラストレバーが最大推力まで一気に奥へ倒される。メインバーニアとスラスターが地面に向けて一気にパワーを解放すると上空へ飛び上がった。
視界に映る光景から地面が無くなり空と山々しか見えなくなる。
「うひーーっ! と、飛んだー」
「アリア、シャゲキ、ヨウイ! レティクル、ニ、ハイッタラ、トリガー、ヲヒケ」
「れ、れてぃくる? 何それ?」
「メノマエノ、ジュウジ!」
「そういうことねっ!」
焦るオリハ。アリアもギリギリ目の前の十字が照準ということを理解した。
赤い線を出してる変な機械が視界に入ってきた。
オリハが銃身を砲台に向けると照準と重なり始める。上昇中なので揺れて照準が安定しない。バーニアのオーバーヒート警報が鳴り響く中、推力をカットするオリハ。高度二百メートルほどで一瞬の静寂。
その瞬間、照準にレーザー砲台を捕らえた。
「オリハ、やったよ、ど真ん中!」
「イマダ! shoot(撃てっ)!」
「当たれーーっ!」
トリガーを引き絞るとこちらの砲身から閃光が走った。粒子を散らしながら光の塊が敵砲台に向けて一直線に飛んでいく。こちらのビームは敵砲台に大穴を開けると刹那に敵レーザーは途切れ、次の瞬間には爆散した。
target down. target down confirmed!
(目標の沈黙を確認)
イケボで喋り出すオリハとまだ呆然とするアリア。
「アタッタゾ、アリア」
「……いやったー! オリハ、やったよーって、きゃーーー!」
自由落下でフリーフォール状態。焦るアリアがコンソールを見ると、既にタバコを吸う顔文字に変わっていた。
「スコシ、アセッタケド、オワッタ、オワッタ、ヨカッタネー」
「落ちるーー! きゃーーー!」
地上に着くギリギリのところで再度スラストレバーが最大推力になると、一気に落下は緩やかになり無事着地した。
「うぅ……怖かった。もっと緩やかに降りなさいよ!」
「エーッ、ネンリョウ、セツヤク、ダイジダヨ」
モゾモゾと内股で座るアリア。怒っているが顔が赤い。
(うぅ、少しおしっこ漏れちゃった)
「アレ? イス、ヌレテル……」
「ぎゃーーーー! 言わないでーーー!」
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