182:陰キャに惚れ直した
<星架サイド>
アタシは大きく息を吐いた。問診や簡単な検査の結果、貧血と過労が重なったものだろうという診断が下った。待合のベンチに隣り合って座っている康生が優しく腰を抱いてくれてる。その胸に頬をべったりつけて、少しだけ泣いた。
そして更に待つこと1時間半ほど。念のため行ったMRIの精密検査でも異常なし、との結果も知らされた。
「良かった。良かったです」
康生も心底からの、絞り出したような声音だった。本当にアタシと同じような熱量で心配してくれてたんだ。優しい子。安心したからか、彼に対する強烈な愛おしさがこみ上げてくる。
「康生、ありがとう、ありがとうね」
腰を抱いてくれてるのとは、反対の手でアタシの頭を撫でてくれる康生。髪を梳くような撫で方、これ好きだな。本当に慈しまれてるって分かる。
しばらくしてママが戻ってきた。検査着から私服に着替え終わってる。
「お待たせ」
「もう大丈夫?」
「ええ……検査受けて良かった。何もないって分かって凄く安心した」
やや強硬な態度で病院を拒絶してたのは、不安からだったのかも知れない。一瞬でも意識が飛びかけたんだから、そりゃ怖いよね。でもいざ受けて、異常なしと言われたら、ゲンキンなものだけど、嬉しかったと。
「派遣会社の方には連絡入れておきましたよ」
「ありがとう、康生くん。お世話かけたね」
「いえいえ」
康生が謙遜するけど、それこそ「いえいえ」だ。
「康生、ホント超頼もしかった」
「そうね。失礼だけど本当に康生くん? とか思っちゃったわ」
ママも笑いながら同調してくる。康生も苦笑していた。
アタシたちはそのまま、会計窓口の前にあるソファーに座って順番を待ち、名前が呼ばれると、会計を済ませて家に帰った。
康生も一緒にお昼食べようと誘ったけど、今日はママに気を遣わせない方が良い、と言われて、渋々だけど引き下がった。けどまあ確かに、見栄っ張りのママが恩人の康生にお昼作るってなったら、張り切りすぎちゃうのは目に見えてるし、良い判断だったのかな。
予定外のお休みを取ることになったママは、お昼を食べた後、ぐっすり眠ってしまった。連勤の疲れと、健康不安が杞憂に終わった安心感とで、すごく気持ち良さそうに寝ている。
アタシはというと……不孝者かも知れないけど、もう康生に会いたくなっていた。と言うか、完全に落ち着いた今となっては、あの時のカッコいい康生の姿をエンドレスにリフレインしてしまってて。
正直、口では言えないような妄想までしちゃってる。
「マジでカッコ良かった。てかやっぱ康生ってイケメンだよね」
雛乃あたりに言ったら「ええ~?」と半笑いされそうだけど、今日のあの真剣な横顔、ママのために心配そうにしてる表情、出来ることなら全部額に収めて飾って眺めてたいくらいなんだが。
「まあ内面が最高すぎるから、顔なんて実際どっちでも良いんだけどね」
はあ、と溜め息が出てしまう。マジでしんどい。
「てか嘘だろ、もう。昨日までだって暇さえあれば、康生康生いうてたのに。今日さらに惚れさせられるとか、そんなんアリかよ」
正直、今いきなり彼がやって来て、何の脈絡もなく「したい」って言われても、拒むどころか喜んで受け入れてしまいそうなレベルなんよ。
「だってさ。朝の6時前に電話して8分で駆けつけてくれるカレシとか何なん? しどろもどろのアタシに代わってアタシの大切な人のために、あらゆる事してくれるとか何なん?」
康生ぬいを胸の中にギュウッと抱き締める。
「マジで死んでも手放さんわ」
ヤバいほどトキめいてる。好き。マジで好き。カッコいいし頼りになるのに、可愛くて守ってあげたくもなる。魅力の塊すぎる。反則だよ、こんなん。
アタシはコテンとベッドの上に横になる。
……スキン、買いに行こうかな。ユルチューブの収益も入ったし。
「明日にでも、あるかも知れんし」
口に出した途端、どんどん顔が熱くなっていく。ヤバいわ。テカリンピックに出れそうなレベルかも。
と、そこで。
スマホが震えて、レインのメッセが届いたことを告げる。千佳と雛乃にはもう既に今日の事は報告して、返事(お大事にとママを気遣うメッセ)を貰っている。
なので多分……
『そうか。何事もなくて安心したよ。ただ今度からは、こういう時はもっと早く連絡して欲しい』
やっぱりパパからだった。一瞬、カッと頭に血が上った。早く連絡したところで、何になるの? 横中からここまでどれだけかかるの? 仕事の後に来てもらっても全部もう終わってるよ? 康生が全部やってくれたよ?
「…………ふう。落ち着け」
ママと同じく、パパだってアタシを養うために頑張って働いてくれてるんだ。夏休み中の学生の康生と比べるのはフェアじゃない。
でもやっぱり……離れてるのはダメだよ。今回と逆にパパに何かあった時だって、アタシらすぐに駆けつけられないよ。
はあ、と大きな溜息をつく。
「ママに何て言おうかな」
一応は心配してくれてた。けど様子を見にこっちまで来るつもりはなさそう。小言は言われた。
倒れた時、真っ先にパパの名前を呼んだママに、本当に何と伝えるべきなんだろうな……
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