168:陰キャと感想戦をする
<星架サイド>
映画館が入ってる複合商業施設の中を歩いて、手頃なファミレスに入った。席に案内され、出されたお冷を半分くらい飲んで、人心地ついてから口を開いた。
「思ってたのとは違うけど、割と面白かった」
「ですよね。魔法少女モノの劇場版がアレで良いのかって疑問は残りますが、あの映画単体なら悪い出来じゃなかったですね」
たこ焼き屋が作ったクレープが中々に美味しかった的な。本当に事前情報は全部シャットアウトしてたから、観てるうちに恋愛主題だと分かった時は結構ビックリしたよね。
アタシはスマホの検索バーに「マジクル映画」と打った。ヒットしたサイトをザっと眺める。
「映画批評サイトだと……72点か」
「ああ、そんくらいですか」
「平均と中央値が
平均は72点だけど、中央値はもっと低い。0点やそれに近い点数をつけてるヤツが相当数いそうだ。
更に論評に目を通す。想像通りというか、概ねアタシも感じたような事が言語化されてる。
いわく『これじゃない』『悪くはないけど、マジクルでやる話じゃないと思う』『でも幸せならオッケーです』『偏見で追いやった連中に復讐しねえから、消化不良だわ』『てか幼馴染なんか居たか?』『思ってたのとは違ったけど面白かった』などなど。
隣から覗き込む康生も、「ふうむ」といった顔。やっぱり頷ける意見が多いんだろうか。
「マクロ的に見ると、こういう賛否の議論が白熱するって時点で良い映画と言えそうですけどね」
「ああ、面白い考え方」
話のクオリティが低い駄作だったら、『クソ』の一言で終わる話で。これだけ語りたくなる人で賑わうってことは、質自体は俎上に載せるに足るレベルってことだもんね。
もう少しスクロールしてみる。飛び込んで来た文字列に、思わず「うっ」と小さな声が出てしまった。
そこにあったのは『しかし魔法少女のセックスとか観たくなかったわ』という書き込み。そうなんだよね、いわゆる朝チュンのシーンがあったんだよね。幼馴染くんの母親に結婚を反対されて、それでもクルルちゃん(いやもうアタシより年上の設定だからクルルさん、か)を選んだ彼。二人どうしようもなく想い溢れて……朝チュン。みたいな。幼馴染くんカッコよく決めてたし、クルルさんが惚れ直すのは分かるんだけど、まさかそこまで描くとは思わなかったからビックリしたよね。
ちょっとアタシ自身を重ねてしまった所もあるし。
幼馴染同士、カッコよく決めてくれた告白。そしてそのままキス……まではアタシたちもしたし。その先も、もしあの日、公園じゃなくてウチだったら……止まれなかった可能性も、無きにしも非ず、というか。
『あのシーンな。入れる必要あったか?』
『てか実際、幼馴染とそういう事は無理だな、私は』
『わかる。自分も幼馴染いるけど、もう半分姉弟みたいなモンだから、想像するだけでもキモイわ』
う。話が少し逸れて、幼馴染同士のアレの話になってしまってる。
「そ、そう言えば、僕と星架さんも幼馴染って関係になるんですかね?」
たぶん康生も話をズラしたかったんだろうけど。ズラした方向がマズイ。それ言っちゃうと、現実のアタシたちはセックス出来るのか? って議題に移っちゃうじゃん。しかも付き合ってる以上、この書き込みに同調して「無理だよね~」とか言うハズもないし。
康生も自分の失敗に気付いたみたいで、「あ」と小さく声を出した。ヤバい。顔が熱い。目だけ動かして、そっと隣の彼を見る。目に見えてキョドっていた。白石クンたちと会った時より酷いかも。
……アタシたちも、クルルさんたちと同じで、出来るタイプの幼馴染。
喉がカラカラになってきた。康生も目がキョロキョロと動いて、アタシに見られていることに気付いて、また「あ」と小さく声を出した。繋いだままの左手、これを伸ばして彼の体に触れたらどうなるんだろう。それはもう、間接的な……
「康生、アタシは」
「お待たせしました。ミートドリアのお客様~?」
うわあああああ! び、ビックリした。康生の方に意識が集中してたから、前から来たハズの店員に、全く気付かなかった。
「あ、はい。僕です」
康生もアタシと同じくらいビックリした顔してたけど、先に立て直したみたい。料理を受け取っていた。
この状況を何と表現すれば良いんだろう。惜しかった? 助かった? まだ早い? 絶好機だった?
康生がスプーンを使ってドリアを掻き混ぜる。それを眺めるアタシの頭の中も、負けず劣らずグチャグチャだ。
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