150:ギャルと映画を観たい
キリが良いので、ゲームを止めると、そのままテレビを地上波に。
すると丁度、アニメ映画の宣伝をしていた。
「ああ、またやってるよ」
星架さんが呟く。このアニメ映画、最近の旧作リバイバルブームに乗って作られた「マジカル☆クルセイダーズ」のスピンオフで、他ならぬクルルちゃんが主役だ。現在上映中なんだけど、中々に賛否両論ある内容らしい。詳しくはネタバレ防止のため、星架さんと二人で情報を自主シャットアウトしてるので分からないけど。
「もっと早く気付いてれば、散財する前に行けたんですけどね」
「それな。でも一番賑わってた頃は、そんな所にアンテナ張ってる余裕なんかなかったしなあ……」
せめてニュースサイトくらい、もう少し見ていたら、と思わずにはいられない。余裕をなくしてしまっていた当人の僕としては、軽い罪悪感と共に、そんな後悔を抱いてしまうのだった。
と、沈みかけた僕の顔を星架さんが両手で包み、優しいキスをしてくれる。
「康生の心のケアの方が100億倍大事な時期だったんだから、そこはもう良いの。気にしない。オッケー?」
頬をムニムニされながら、そんな風に諭されるけど。上映期間も残りわずかだし、どうしても焦ってしまう。
「てか、最悪さ、別に数ヶ月後にレンタルとかで観ても良いんだし」
「……」
そうは言うけど、やっぱり気にはなってるんだろうなあ。
学割も入れると1400円くらいの料金だし、それだけなら払えないこともないんだけど。帰りに外食するのもヒヤヒヤする残金になってしまうんだよね。お給料が貰える月末まで10日以上あるし、その間、そんなオワタ式みたいな生き方は不安だしなあ。
僕も星架さんも学生ながら収入がある身だけど、それでもやっぱり限度がある。むしろ今まで結構なペースで使っていて、無一文になってないだけ頑張ってた方、という考え方も出来なくもない。
「僕、父さんに言って、次の仕事の報酬の前払いを」
「いいって、マジで。いつ観たって内容が変わるワケでもねえんだから」
それはそうなんだけど。
「その、折角だから映画デートくらいっていう気持ちもあって」
お付き合いと言えば、デート。デートと言えば映画館っていう単純極まりない連想だけど。でも定番になるってことは、それだけ外さないって事だろうし。
「まあデートと言ったら映画館みたいな風潮あるけどね。だったらさ、涼しくなって、お金もある時に連れてってよ。あと当然だけど割り勘な? 変な気を遣うなよ~? アタシの方が稼いでんだし」
う。痛い所を。まあモデル業+配信の2馬力には敵わないよね。
「だからまあ、今回は縁がなかったって事だよ。そういう運命だったっていうか」
と、そんな話でまとまりかけた時だった。僕のスマホが机の上で震え、着信音が鳴り始める。ん? 家族は全員、お休みでまったり家に居るし、メグルって線も薄そうだけど。あとは他に心当たりがない。
「おかしいな。僕に友達なんて居ないハズだけど」
「それもどうなんだよ」
まあ四の五の言わず、手に取ってみよう。すると画面には『ホビーショップ』と出ていた。
「あ! コンクールの結果かな」
僕は慌てて通話ボタンを押した。
「もしもし」
「もしもし。こちら沓澤康生さんの携帯でお間違いないでしょうか?」
「は、はい。そうです。店長さん、僕です」
聞き覚えのある声(店長さんは携帯越しでもあまり声が変わらないタイプみたいだ)に、少し興奮気味に返してしまう。
「ああ、久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです」
「えっと、今は時間大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
紋切り型の挨拶も、悪いけどまどろっこしく感じる。
「用件は分かってると思うけど……先日のコンクールの結果が出ました」
「はい!」
前年は、特に電話がかかってくることはなかった。と言うか、何かの賞を獲った人以外にはかけてこない。即ち、
「この度、沓澤康生さんの作品、<車輪天使と織田信長>がカオスデザイン賞に選ばれました」
という事だった。
興奮と喜びでクラクラする。雲の上に立ってるみたいだ。コンクールには趣味で出してる、という意識だったけど、いざ賞をもらえるとなると、多幸感に包まれて、とても平静じゃいられなかった。
「ほ、本当に僕のノブエルが?」
嘘なハズも無いのに、確認してしまう。
「うん。満場一致クラスだったよ。風邪の時に見る夢みたいだって」
ほ、本当に受賞したんだ。
「つきましては、賞状と金一封をお贈りしますので、当店までお越しいただければと」
そしてなんと、星架さんを映画館に連れて行ってあげることも叶いそうだった。ただその為には……再び横中東の実店舗まで行かなくちゃならない。僕は一つ息を吐いた。
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