32:陰キャ色に染まる

 <星架サイド>



 いやぁ……やっちゃったな。何とかなったと信じたいけど、普通に考えて、友達のぬいぐるみ欲しがるヤツって、ちょっと、いやかなり変わってね?


 あああ。絶対変なヤツだと思われたよ。てか、もう今更か? 盗撮に始まり、勝手にキレて、幼児退行。何なん? 康生の前だともう自分が自分じゃないみたい。


 落ち込むなあ。落ち込む……けど。とにかく依頼は通ったんだから、康生の手作り康生ぬいぐるみが手に入るのは確定なワケで。はあ~、貰ったら毎日抱っこして寝よ。


「星架ちゃん、今日どうしたの?」


 いつも担当についてくれる美容師の樋川ひかわさんが、恐る恐る声をかけてきた。


「え? どうって?」


「百面相すごいよ?」


 正面の鏡を指さす彼女は、少し引き気味の表情。


「ええ、マジすか? 顔に出てたかあ」


「ひょっとして好きな人できたとか?」


 図星を突かれて、一瞬黙ってしまう。百戦錬磨の大人の女性には、それだけでバレバレだった。


「うっそ!? マジで? アイアンメイデンの星架ちゃんが?」


 バキヴァーとかアイアンメイデンとか、アタシの周りには失礼なヤツばっかだな。けどまあ、うん。自分でもまさかこんなに大好きな人が出来るとか、想像さえしてなかった。

 いや……ウソ。多分、初恋の相手を探しに来た時点で、こんな展開を夢見てた。


 今になって思えば、お礼だけ言いたくてってのは、心の防衛本能。どんな人に育ってるかなんて分からなかったから。もし最悪なヤツになってたら? カッコよくなってたって既に恋人が居たら? こっちだけ初恋のテンションで会いに行って、そんなことになったら、多分メッチャ傷つくよね。だから無意識に張ってた予防線。


 でも、そんなん何の心配も要らなかった。モノを作ってる真剣な横顔が超カッコよくて見惚れるし、アタシが暴走しても許してくれたし、アタシの外側だけじゃなくて内面も褒めてくれた。はあ~、ヤバい。マジ無理。


「あのー。もしも~し?」


「あ! えっと何の話だっけ?」


「いや、どんな人なのかなって? 星架ちゃんの心を射止めた人って」


「あ~、たぶん、樋川さんが思ってる感じじゃないっすよ? 大人しい人って言うか」


「マジ!? ああ、でもチョット分かるわ。星架ちゃん、チャラいのとは付き合わなさそうっていうか。見た目より全然、恋愛観シッカリしてるっていうか」


 こっち来てから二回担当してもらっただけなのに、樋川さんは訳知り顔。まあ普通にツイスタのフォロワーさんだし、断片的には性格知られてるんだけどね。


 今はいわゆる、カラーリング後の放置時間。向こうもやること無いのか、アタシを気遣ってか、かなり絡んでくる。いや、純粋に他人のコイバナ聞くのが好きなタイプと見た。つか女は大体そうだけど。


「何キッカケなの?」


「うーん、直接は、アタシが困ってる時に助けてくれた所からかな。けど実は昔会ってて」


「え? そうなの? 高校入ってこっちに来たって」


「あー、実は小学校低学年くらいまで、沢見川だったんすよ」


 入院ばっかで大して沢見川のこと知らないから、基本言わないようにしてんだよね。地元話振られても、初見さんレベルの知識しかなくて、振ってくれた相手も気まずくなるし。


「んで、そん頃に良いなって思ってた子が、その人だった、みたいな」


 そこまで言うと、樋川さんはキャーと湧く。何気に周りの美容師さんや、お客さんも聞き耳たててたらしく、同じく黄色い声を上げた。


「待って待って、じゃあ初恋の人と運命の再会!? ヤバ! ドラマじゃん!」


 まあ半分くらいはアタシのストーキングの賜物だから、ドラマほどキレイじゃない。でも同クラとか、話すキッカケが出来た経緯とかは……赤い糸かも。いや、はっず。


「あ、もしかしてエメラルドグリーンって、その彼の?」


「……そうっす。好きな色だって言ってたから」


 アッシュグレーにグリーンのメッシュ入れてもらいに、今日はここに来たんだ。


「いやあ~、星架ちゃん可愛すぎ!! マジで女なのにキュンキュンきたわぁ」


 うう、テキトーに誤魔化せば良かったか。


 結局アタシは美容院を出るまで冷やかされ続けたのだった。

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