24:陰キャとのこれからを夢見る

 <星架サイド>



 アタシとしても5日間、ずっと葛藤があった。お礼だけ言うつもりだった初恋の人が、最近ちょっと良いなって思い始めた男の子だったなんてさ。いや、そもそも本当にお礼だけ言うつもりだったんかな、コウちゃんがカッコよく成長してても? とか。逆に康生がコウちゃんと別人だったら、「良いな」どまりで終わらせるつもりだったか? とか。


 けどもう全部ふっきれた。あの人の過去も今も大好き。大好きだった子が、優しさも誠実さもそのままにカッコイイ人に成長しててまた大好きになった。そんだけ。要するに完璧に運命の人だったってこと。本名も分からないまま、本能が探し当ててたんだから。

 

 アタシはもう難しく考えることは止めて、大きく息を吐いた。

 家に戻ってから、ママの事情聴取もテキトーにかわして、ベッドに仰向けに倒れて、もう数十分。


「コウちゃん……康生」


 さっきから何度、名前を呼んでるんだろう。


「沓澤……星架」


 バカじゃないの!? バカじゃないの!? まだ付き合えてもないうちから、寝言は寝て言えっての。


 でもでも。もし結婚できて、一緒に住めたら、あの優しい笑顔をいつでも見れる。落ち着くけどドキドキする彼の声をいつでも聞ける。武将は……要らんけど、でもまあ楽しいんだろうな、あの謎ギャグがいきなり飛んでくる生活。


「落ち着けって、マジで。いきなり結婚見据えてとか重すぎるから」


 けど、まあ重い女か。8年経って追いかけて来たんだもんな。先週の家までの尾行どころじゃない。とっくにガチのストーカーだったわ。


「電話したら迷惑かなあ。レインまだ既読つかないんだけど……もしかしてウザがられてないよね」


 自分は既読スルーしといて、マジ勝手。けど止めらんないんだよ、自分でも。


「もしかして文面キツかった!? アタシらのグループのノリで書いちゃったかも……って。だから既読もついてないんだって」


 うう、既読なんでつかないん?


「ああ! ついた!」


 スマホの画面にかぶりつく勢いで待つこと2分。緑のフキダシがピコンと浮き上がる。きた!


『こちらこそよろしくお願いします。あと学校では周りが混乱すると思うので、絡みは控えて頂けると』


「おごっ!?」


 すんげえ声出た。マジかあ、そうだよな、そりゃそうだった。忘れてた。ちなみにアタシの、


『既読スルーしててマジゴメンね。これに懲りずに仲良くしてやってくだしゃい。よろ~。あと学校ではバチバチ遊ぶかんな。覚悟しとけよ?』


 というメッセージに対する返信。


「つか、これ厳しくね?」


 学校で話しかけらんないんじゃ、どうやって仲良くなればいいんよ? 土日だってそう毎週毎週誘ったら迷惑だろうし、アタシも撮影あったりするし。


 現状のまま告る? いや、無理無理無理。上手くいくビジョンが全く浮かばない。


 アタシが康生にしたプラスの事って精々が、「はなからうどん」奢ったくらい? 後はもう……仕事用のアカに間違って動画上げるわ、空気も読まずに学校で話しかけるわ、ストーキングするわ、盗撮するわ。


 挙げ句に致命的なのが、デートの最後のブチギレ。けどさあ、止められなかったんだよ。やっと見つけた! って感極まって泣きそうになった瞬間、他の人のついでみたいに言われて。しかも今わかったわ。メグルとかいう女に嫉妬してたんだアタシ。つーか今もしてるし。


 とは言え、康生からすると、マジでイミフだったよなあ。謝ったし、許してもらえたけど、それは恋愛感情とはまた別よな。


 あーでもでも。最後あんなこと言ってくれたし、脈はあるよね? 絶対あるよね? だって最後……


 また会えて良かった。って。


「ん~~ん~~」


 枕に顔を押し付けて、ワケわからんくらいジタバタしてしまう。そうしないと、どっか駆け出しそう。いや、どっかじゃねえわ。沓澤製作所に一直線だわ。


「あー、録音しときたかったわー。いや待って。あんなんいつでも聞けたら死ぬから」


 今こうして思い返してるだけで、顔とかありえんくらい熱いのに。


「てか、全然何も良い案浮かばんし。学校じゃ話しかけたらダメとか、拷問やん」


 いやいや、これしきで諦めるアタシじゃねえから。康生も言ってたし。グイグイ進めば良いって。


「待ってろよ~、アタシの8年分、ナメんなよ」

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