22:ギャルの母親と会った
リビングのドアが開き、お母さんが入ってくる。少しキツそうな目元が星架さんに似ていた。年の頃は40台半ばくらいかな。僕の顔を見てもあんまり驚いた風ではないのは、玄関の靴を見たからか。
「星架、お友達?」
「うん」
「あ、初めまして、じゃなくてお久しぶりです。星架さんのクラスメイトで、沓澤康生って言います」
「沓澤……康生くん」
おばさんは険しい顔で僕を見る。多分だけど敵意があるワケではないと思う。星架さんに輪をかけて目力が凄いんだ。
「昔、星架さんが入院してた頃、何度かお見舞いに伺った事があって、その時に」
一度お会いしてるハズだけど、正直、全然覚えがない。こんな力強いアイズオンミー、見たら忘れらんないと思うんだけど。まあ、当時は子供相手、今は留守中に上がり込んでる謎陰キャ。視線の強さも違ってくるか。
「あ、ああ! 貴方がコウちゃん! 私もお礼言いたかったんですよぉ!」
語尾が強い。大股でズンズン距離を詰めてくる。怖い怖い。ああ、間違いなく星架さんは母親似だわ。
「あの時は星架の支えになってもらったみたいで、本当にありがとうございます」
支え、になってたんだな、やっぱ。まあ大部分は僕が作ったフィギュアだろうけど。
「本来ならご実家にお礼に伺わなきゃいけなかったところですが……我が家も転院とか色々あったでしょう? 立て込んでて、ねえ?」
ねえ? と言われても。しかし一人でガンガン喋り続ける彼女に愛想笑いしてる内に、勝手に距離が詰められてる判定されたらしく、敬語が崩れ始めてる。まあ、クラスメイトの親に敬語使われ続けるのも居心地悪いから、良いっちゃ良いんだけどね。
「いえ、自分の練習も兼ねてたんで、お気になさらず」
「あら、そう? そう言ってくださると助かるわぁ」
この言質を待ってたって感じ。いや図太い。ある程度年配の方には珍しくはないけど。
「けど良かったじゃない、星架。ずっと探し求めてた愛しのコウちゃんに会えて」
糸篠コウちゃん? あ、違う、愛しの、か……って、ええ!?
「ちょ! ママ! 違うから! コウちゃん、違うからね! そ、そう! アタシもママとおんなじで、改めてお礼が言いたかっただけだから! ほら、転院する時、キチンと言えなかったから、ねえ?」
ねえ? と言われても。
「いや、大丈夫ですよ。勘違いなんてしませんから」
「あ……」
安心させたくて言ったんだけど、何故か潤んだ目で見つめられる。半開きの唇は、何か言葉を紡ごうとしたんだろうか。
「それにしても、高校入学に合わせて引っ越して来たって聞いてたから、てっきり完全に外からの人だと思ってたんですけど、出戻りだったんですね」
完全にそう思ってたから、子供の頃に会ってるかもなんて発想は1ミリも生まれなかったんだよね。うーん、改めて考えても、モールでキレられたの、無理ゲーだよな。
まあそれと同時にわざわざ過去の事でお礼を言うために、また引っ越してくるなんて律儀すぎるなあ、と感心……したけど、どうもそれだけじゃない感じで、星架さんもおばさんも、どこか気まずげだ。
「まあ家庭の事情も重なってね。当然、貴方に会えたらお礼を言いたかったっていうのもホントだったんだけどねぇ」
おばさんの方が説明してくれる。家庭の事情というのは分からないけど、たぶん引っ越しせざるを得ない状態だったのだろう。それで、どうせなら以前も住んでて、恩人(自分で言うとイタイけど) に会えるかも知れない沢見川を選んだと、そんな感じかな。
「改めて……本当にゴメン。コウちゃんの立場からしたら分からんくて当然だったよね」
事情を話し終えて落ち着いたのか、星架さんは冷静に俯瞰してくれたらしい。謝ってくれたなら、もう僕としても遺恨はない。彼女の言う通り、セイちゃんと星架さん、両者を繋げられなかったのは仕方ないけど、セイちゃん自体忘れてたのは僕が薄情だし。
「アタシ、この5日間、感じ悪かったよね」
「いえ、気持ちは分かりましたから」
何年も恩義を感じてた相手が全く覚えてない、というのは想像するだけでショックだ。
「でも最初のレインが既読スルーとか」
「また送りますよ。他愛のない……武将とか」
「コウちゃん……ありがとう。武将は遠慮するけど」
二人、まだ少しぎこちないけど、笑い合った。
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