4:ギャルに暴露された
翌朝、登校してくると、教室内が騒がしかった。普段ならあんまり気にしないんだけど、今日に限ってはどうにも嫌な予感がする。たまに話す隣の席の地味な女子(横倉さん)に何があったのか聞いてみると。
「何か、溝口さんのツイスタの仕事用アカウントにいきなり男の子が出てきて騒然としてるらしい。今まで男関連の呟きなんか一度もなかったのにって」
「……」
まあ待とう。僕と決まったワケじゃない。だが
僕が溝口号を直している所を収めた動画と、「同クラの男子に直してもらった。こんなアッサリ直せんのヤバくね? 普通に憧れる」といった絵文字混じりの文章が並んでいた。多分、大した意味は無いんだろうけど、文末にハートマークがついていて、それがピコピコと規則的に動いている。アッカーン。動いたらアカンすよ。
「やっぱ彼氏かな?」
非常にマズイ。今まで男関連の呟きが皆無だった所に、これは勘繰るなって方が無理だろう。この「憧れる」ってのは例の神的、つまり自分に出来ない事を神の如く簡単にやってみせた事に対する感情で、恋愛的な憧れとは全くの別物なんだ。と、言って回るワケにもいかない。
「大丈夫? 沓澤クン、顔色悪くない?」
「大丈夫、大丈夫。ゲロ吐きそうなだけだから」
「それを世間一般では大丈夫じゃないって言うと思うけど」
横倉さんは眉をハの字にして、気遣わしげな視線をくれる。良い人だなあ。本当に時々ちょっと話すくらいの間柄なのに。
「お前、確か子供の頃、図工5だったよな?」
「は? 図工とチャリは関係ないだろ? つーか、ガチで溝口の彼氏になれたら、先に自慢してっから」
「確かに。けど同クラって書いてるし、こん中に居るのは間違いないんだよな」
「男子、必死過ぎだから。キモ」
いけない。これはいけない。魔女裁判が始まりかけている。これが法治国家の明日を担う学生たちがする事か? 嘆かわしい。とは言え、何とか気配を消さないと。こんなのにダウト喰らったら、マジで先立つ5秒前だ。
と、その時、教室のドアが大きく開け放たれた。銀のように明るいアッシュグレーのミディアムヘアがふわりと揺れて、男子たちは釣られるように視線を向けている。僕も見ている。決して彼らのように浮ついた表情ではないだろうが。
いや、待て。流石に空気読むんじゃないか。ちょっと雰囲気はアレだけど、曲がりなりにも進学校のウチに通えているんだ。地頭も悪そうじゃなかったし。
てか、お願い。この魔女裁判、彼女本人さえ余計なこと言わなければ負ける要素なんてないんだから。
「あ! 沓澤クン! 昨日はあんがとね。チャリ、超絶快調だわ。新品に戻ったレベル」
あ~敗訴の音~。
あの後。
溝口さんはクラス中に経緯を話してくれて、何とか事なきを得た。僕のようなスーパー陰キャ人みたいな人間と彼女ではあまりにタイプが違い過ぎるし、本当に偶然会って、偶然助けただけだと信じてもらえたのだ。
まあ何にせよ、これで晴れて元の生活に戻れるだろう。彼女としても、もう僕に絡む理由もないし、こっちとしても同様だ。クラスの連中も今回の事なんて、来週には忘れているんじゃないかと。
そう、思ってたんだけど。
「沓澤パイセン、昼いっつもどうしてんすか? 昨日のお礼に奢るっすよ。へへ」
女子の謎ノリ。ていうか昨日初めて話した相手に、こういう絡み方できるの凄いよな。いや、マジで煽りとか抜きに、こういう人がコミュニティを回していくんだなって、実感したというか。
「僕は、あの、弁当作ってきてるんで」
「え? 沓澤クン……だっけ、料理できるん?」
溝口さんの横からニュッと現れたのは黒髪とピンクのツートンをボブカットにしたオシャレさん。確かいつも溝口さんと一緒に居る人。最初に彼女と名前を取り違えた人。だから、
「今度こそ洞口さん?」
「今度こそって何!? 偽物にでも会ったんか!?」
思わず変な言い方をしてしまった。溝口さんが噴き出して、拍手みたいに手を打ち鳴らして笑っていた。
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