3:陰キャの後をつけてみた
<星架サイド>
アタシは自慢じゃないけど、クラスでは一二を争うレベルで目立つ存在だ。
何と言っても容姿が優れてる。それを活かして読者モデル、更には高校出たら本格的にモデルにならないかと御世話になってる事務所からも誘われているくらいだ。
メイクやファッションの勉強、体形維持の為の運動などなど、綺麗であるために自分なりに努力している自負もある。
男子とは結構キッチリ線引くタイプだから、浮いた話はないんだけど、って言うか彼氏とか作ったこともないんだけど、まあ男女問わず、クラスに居る時は大体誰かが周りにいる。人気者っていう言い方は何かアレだけど、大体そんな感じ。
別に全ての男を虜にするとか考えてるワケでも目指しているワケでもないんだけど、クラスの中で、目が合った記憶がない男の子はたった一人だけだった。
クラスの、いわゆる陽キャに分類されるような男子たちは、下心か、ギャルの友達というステータスが欲しいのか、距離を詰めたがる。そして陰キャに分類されるような男子たちも、アタシみたいなのはお断り的な雰囲気出しておきながら、チラチラ見てたりするもんだけど、沓澤クンだけはガチ。
休み時間は何かを一心不乱にノートに書き連ねていたり、携帯で何か調べ物をしている様子だったり。基本的にボッチなんだけど、悲壮な空気は全くなくて、とにかく自分の世界に入っているって感じだった。一度だけ、そっと後ろに回って何を書いているのか見たことがあるんだけど、これがまたすんげえの。製図っていうのか、何かの設計図がびっしり書かれていて、そこへ新しく、機械みたいに正確な線が書き込まれていく様は魔法みたいだった。
それ以来、アタシはすっかり沓澤クンに興味を抱いてしまった。言い訳としては、自分に見惚れない男の生態を調べて原因を究明する。
アタシの仕事は別に男に媚びる必要性は(直接的には)ない。雑誌の購買層なんてほぼ100女子だし。けどアタシ自身はモテには全く興味無くても、アタシのコーデやメイクを参考にしてくれる読者さんたちの中には、モテたいだとか、振り向かせたい誰かが居るだとか、そういう人たちも含まれることを考えたら、男の目線というのも決して蔑ろには出来ない。
そんなおためごかしの言い訳を用意してみても、アタシは結局、あの美しい製図に、それを生み出す淀みない洗練された指の動きに、こちらが見ている事なんて一ミリも気付いていない横顔に、惹き込まれたんだと思う。あそこには世界があった。アタシが知らない世界。それを少し見てみたいと思ったのかも知れない。
だから……
「来ちゃった」
別れた後、ソッコー自転車を道端に停めて、徒歩でコソコソ後つけて、バレないようにスニーキングして、辿り着いた沓澤クンの家。
「ヤバすぎやん。完全にストーカーだし」
言い訳の余地もない。いま職質されたらバキバキにキョドる自信がある。
でも。来て良かったとも思う。
沓澤クンの家は小さな町工場の一つだった。端が赤く錆びた看板には「沓澤製作所」と大きく書かれ、その下に電話番号。木工、樹脂など業務内容を示した文言。更に下に、ぶら下げるような木の看板が打ち付けられていて、「創作家具もあり〼」と。〼?
住居は作業所の隣に建ってるみたいで、その作業所の方はシャッターが下りたまま。けど中に従業員は居るようで、換気に開けている窓からキーンと甲高い音が聞こえる。家屋の二階部、見上げるとカーテンの向こうに人影が動いていた。着替え中かな。いやいや。これじゃストーカーを通り越して変態だから。
今日はこれで帰ろう。流石に沓澤クンに見つかったら気まずすぎて死ねるし。そしたらアタシも言わなきゃ。父さん、母さん、先立つ不孝を~だっけ。
「ふふふ」
話すと意外と面白かったな。
「こう、せい。沓澤康生。もしかして本当に……」
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