第5話 俺たちのチート能力
「魔法を使うには体力も必要です!たくさん食べて下さいね心技体です!」
なんだか格闘家みたいなことを言っているイリスの号令で俺たちは食事を始めた。今日も今日とてこの屋敷でご馳走になっている俺たち。お願いした通りブッフェスタイルにしてもらい、胸の支えが取れた気分だ。
俺たちは日が沈むまでみっちりと魔法の練習を行った。俺たちに継承された魔法は多岐に渡おり、火、水、氷、雷、土などの四元素っぽい魔法から、原理不明の衝撃を放つ魔法。酸や毒、幻覚魔法なんて物まで備わっていた。しかし、どれも初歩も初歩の魔法らしく、どれも決め手に欠けるどころか有効打にもならない威力しかない。あんなレベルの魔法だったら丸太を持って闘った方がマシだ。
とはいえ、イリスにいろいろ聞いたことで魔法とチートについていくつか分かったことがある。
まず、魔法はコモンマジックと言われる第0階層の魔法から数字が上がるごとに強力な物になっていくということ。この世界では5歳の子供に魔法を継承させていることからも分かるように、基本的には誰でも魔法を使うことが出来るようだ。一般人の多くは第一階層の魔法を使うことができ、魔法が生活に根付いているらしい。
とはいえ魔法で生活の全てを補うような便利な物では無く、あくまで補助的な意味合いが強いようだ。それは使徒と呼ばれる異世界召喚された者のチートの話にも繋がる話なのだが、現地の人間の魔力の総量が少なく、魔法の種類にもよるが一日に二、三回しか使うことが出来ないらしい。これは訓練によって増加させることが出来るらしい。なんの訓練も無しに半日も魔法を打ち続けて魔力切れにならない俺たちは異常なほど魔力が高い?多い?と言えそうだ。
次に魔法の継承力。現地の人間はコモンマジック以外の魔法を継承されている。それは第一階層であったり第二階層の魔法であったりするのだが、問題はその数だ。訓練された者でも第一階層の魔法が一つと第二階層の魔法が一つと言った具合に、覚えられる魔法の数に限界があるらしい。現地の人間はコモンマジックの十数種類を使いこなし、継承された第一、第二階層の魔法を切り札に使うと言った感じらしい。また、状況によって魔法を継承し直すなどして使い分けているそうだ。中には魔法の適正が高く、三つの魔法を継承している者はトリプル・キャスターなんて呼ばれているらしい。あのエロじいさんのマルコもそのトリプル・キャスターらしく、しかも第三階層の魔法まで使うことが出来るらしい。さすがは貴族お抱えの魔法使いと言ったところかも知れない。試しに見せてくれと言ったが「いやじゃいやじゃ」と駄々をこねて見せて貰えなかったので、真偽の程は定かではない。嘘かも知れない。魔法使いにとって自身の使える最上位魔法を隠したいというのが本音だろう。使徒というのは伝承によると無制限に魔法を継承できるらしい。これはなかなかのチートだ。対人に関していえば相手の手が一、二個しかないところに無制限に攻め手を変えることが出来るのはチートだ。格ゲーだったら友達失くす。
そして魔法の詠唱力と言われる魔法の発動能力。俺たちはコモンマジックしか使っていないので、実感は得られていないのだが魔法の発動時間が早いらしい。また、魔法の継承にも関係することだが、継承力が高く魔法を継承することが出来たとしても詠唱力が足りずに魔法を発動することが出来ないことがあるらしい。これも使徒の伝承によるものだが、かつての使徒は数多の強大な魔法を使いこなし、
魔王を討伐したそうだ。魔力が高く継戦能力があり、いくつもの攻撃手段を有し、発動も早く連発出来る。まるで人間砲台だな。惑星を封じようとする機関の無人機体のようだ。
これがイリスから聞いた話を解釈したこの世界の魔法という物。つまりは、魔法は使い手に関わらず威力や効果は一定。魔法によって等級があり、高位の物ほど使うには素養を要する。魔法を使うには三つの要素、魔力、継承力、詠唱力の要素があり、これらがバランス良く高い者が高位の魔法使いと呼ばれる。魔法はこの世界の人間は基本誰でも使用することが出来、生活に根付いている。といったところか。
コモンマジックよりも高位の魔法を継承して乱発することが出来れば、魔物の軍勢との闘いも成り立つだろう。巻き込まれたとはいえ生徒達を戦地に送り込むなんて、この国の常識が許しても教育委員会は許してくれる訳がない。コロニー育ちでもないのに民間人を戦場に立たすな。俺たちのチートで軽くひねってやろうじゃないか。こうなったらゲームと一緒だ。
俺は生存の目途がたったところで少し安心して山盛りに料理を運んできた。皿は和洋中華ごちゃまぜのワンパクスタイルだ。シェフのルキさんが張り切ってくれたのかどれも旨そうだ。
「これでビールがあれば最高なんだけどな…」
「…あるよ」
気づいたら近くにいたルキ・シェルポポさんが呟くように言う。
「あるんすか!」
「ちょっと待ってな…」
「いやいやいや!やっぱりいいです!生徒達の手前さすがにマズイですって」
「…そうか」
漢らしくそう呟くと、たくましい背を向けて厨房に歩いていった。この時代でもビールってあるんだな。まあ、あるか。中世の修道院はビールが盛んだったって言うし、炭酸は入ってないかも知れないけど、炭酸水なんかも酒の歴史くらい古いものだし技術的には出来なくも無いだろう。冷やすのは魔法でどうとでもなるからね。いやほんと現代知識で経済無双みたいなのがやりづらい世界だな。俺たちより前に来ていた使徒達のせいでもあるのだろうけど。さすがにコーラとかは無いだろうけど…。いやいやいや普通にありそうだな。というか絶対あるだろう。
後でこっそりビール貰って部屋で飲もう…。
そんなことを考えていると、葉山、水野、木村の女子たち三人がドカドカと料理を持ってきて俺のテーブルに座ってきた。
「センセっ!みた?あれすげぇぇぇよね!ずばぁぁぁぁっていってあきゃぁぁぁぁぁってドカーンって!凄くない!?」
「なに言ってるかわかんねーよ」
葉山アオイが妙なテンションでまくし立てるように言う。おそらく魔法のことを言いたいのだとは思うが、ちゃんとしゃべれるようになって貰いたい。テンションで押し切るな。
「アオイはパッションでしか喋らねーからてっちゃんも慣れてけよ」
「お前はなれなれしいんだわ」
木村イチヤは俺のことを「てっちゃん」と呼ぶ。この三人の中だとクールな印象を受ける。
「左手に施した封印が解かれかけている。何か危険が迫っていると言うことか…」
「聞いてないのに説明を始めるな」
水野ユウリは左手に包帯を巻いていた。もちろん怪我をしたのかとか心配はしていない。この世界に一番順応しそうなのはこいつなのかも知れないな。
三人は俺を囲んで今日の魔法についてご機嫌に話を始める。まあ、おっさんの俺でもテンションが上がっちゃったくらいだから、彼女達にとっては楽しくてしょうがないだろう。
「センセっ。あれやった?ロー・ポイゾネス!手からぶぁーってグロイなんかが出て来て、べちゃーってなってジュワーって蒸発するやつ!あれ毒なんだって!グロ過ぎて逆に笑っちまったよ!こんなんどっこから出てくんねんって!やってないなら絶対やった方がいい!めっちゃオモロイから!」
「それのどこに面白い要素があるんだよ。絶対嫌だわ!一通り試してはみたけどさ」
なんか汚いもん出てきたなー位の印象の魔法だったけれど毒だったのか。なんか溶かしそうだから酸系の魔法かと思ってた。こいつのこういう探求心みたいなのは凄いな。見習わんといかん。効率中出てたかも知れんね。
「アオイお前そればっかりやってたからなぁ。ちょっと臭かったから屁してたのかと思ったぜ」
「そんなわけねーだろ。屁だったらちゃんと申告するわ!」
「屁助かる…」
「助かるなよ!」
木村の発言に葉山がツッコミ水野が助かる。バランスが良いような良くないようなトリオだ。葉山のツッコミが無ければすぐにでも崩壊してしまいそうな面子ではある。
生徒達もいることだし、折角なので疑問を投げかけてみよう。ずっと気になっていたことだが、「この世界は何が原作か」だ。俺が知ってるゲームやアニメの異世界物にはピッタリと合致するような物は見当たらなかったが、生徒達の意見を求めればこの世界が何の物語か知っているかもしれない。もし、原作が見つかれば大きなアドバンテージだ。物語のあらすじを追って行けば危機の回避なども用意であるし、重要人物との接触や貴重なアイテムの入手なんかも出来るかもしれない。更に期待するとすれば、元の世界へ帰る方法も分かるかもしれない。
今更だが、もちろん俺たちは元の世界に帰るつもりでいる。イリスには元の世界に戻る方法はこの危機がさった後に教えてくれるという約束となっている。が、使徒の伝承を聞く限り元の世界に帰った人物は見受けられない。正直、どうにも疑わしいと思ってしまう。自分達でも手段を模索する必要がありそうだ。
それに、イリスはどうも何かを隠しているような節もある…。
まあ、とにかくこいつらに話を聞いてみよう。
「ところでお前達、この世界とか魔法って何のアニメの世界か分からないか?」
「あーアオイはあんましアニメみないんすよ。ゲームならするんすけど」
「ゲームでもいいんだが、何か近い感じのとかないか?」
「てっちゃんてっちゃん。アオイのやるゲームって言っても極道のやつしかやんないんで参考になんないすよ」
「じゃあ、木村はどうなんだ?」
「いくつか知ってるのもありますけど…。ありがちっちゃありがちな設定だし、わかんないかも。あたしはゲームはFPS専門なんで」
「FPSってあれだな銃打つやつ」
「そうそう、それだけでも無いんだけど、てっちゃん今度一緒にやろうぜ。キャリーしてやっから」
「やだよ生徒に初心者なの見られんの恥ずかしいじゃん」
「あーでもここワイファイねーからなー」
イリスの充電魔法によってスマホの電力は確保されている。しかし、この世界にはインターネットなんてもちろんない。「Wi-Fiが無い!」と生徒達からは苦情が殺到した。俺に言われてもインターネットの開発は出来ないのだ。ノートパソコンがあるから仮にネットワーク環境を作ったとしてもゲーム会社が無いんだからゲームは出来ませんよ。異世界なんだからそれくらいは分かってくれよ。よそはよそ!うちはうち!。元の世界は元の世界!異世界は異世界!。
「水野はなんか知らないか?この中じゃ一番詳しいんだろ?」
「先生っ!それは偏見です…。ちがくはないけど…」
「で、どうなんだ?」
「あーあー、でもどうだろう…。えーと、無い!かも知れない」
水野は結構アニメ・ゲームに明るい。一度、眼帯を付けてきた時は目の病気を心配したが封印だったことがある。厨二っぽいのが好きらしい。その水野が知らないというのだから、無いのかも知れない。
「あたしが知ってるのだとレベルとかスキルってだいたい出て来るし、魔法は定番っぽいけど覚えるのがダウンロードっぽいのは聞いたことない。世界観的にはMMOっぽいけど、そういうのも絶対レベルはあるし…。わかんないです」
「そうか…。水野が知らないんだったら無いな!」
「なんなんですかその嫌な信頼…」
「それはユウリだから」
「しゃーない!」
「なぁなんなんだよ!おまえらぁ!」
女子たち三人が姦しい。何かヒントがあればいいなと思ったが、ダメ元だったからまあいいだろう。正直言うと俺も自分たちのチートを知ったことで安心はしていた。
次の日にはその安心が見事に打ち砕かれるのだが、この時は知らなかった。
俺たちは存分にルキさんの料理を楽しんだのだった。
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