教師召喚~アラサー教師が異世界魔法を書き換えた結果~クセツヨ生徒達といく英雄譚「これが我が国の攻撃魔法です」「え、こんな魔法でよく戦えてたな」

喜一

第1話 アラサー教師異世界に召喚される

大陸の東の果てにソディアという島があった。

今では女神に愛された島と言われるその島はかつて魔物と亜人が支配する地であった。

人間は虐げられ、家畜として扱われ滅びる運命にあった。

それを憂いた世界の女神は地上に7人の使いを遣わした。

7人の使いは人間に神の奇跡の一端である「魔法」を齎した。

「魔法」を得た人間は激しい戦いの歴史の果てに遂に魔物達を打ち倒し、人間の生存圏を確保した。

人間に「魔法」が齎されて3000年。

幾たび現れる女神の使徒の力もあり、人間はつかの間の繁栄を謳歌していた。

しかし、それは突然終わりを告げる。

各地で魔物の活動が活発化し、再び人間の生存圏を脅かし始めていた。


◆◆◆


「点呼を取りまぁす」


バスの車内は阿鼻叫喚としており、俺の声は届かない。


「高校生にもなって先生が静かになるまでに何分経ちましたーって言わせるつもりかー」

「うるせぇ!それどころじゃねぇだろこの状況!」

「おいおい、桜木ー。バスの後部座席の真ん中陣取ってるからってリーダー気取りかー。通知表全部1にして着払いで自宅に送り付けるぞー」


桜木の暴言は許しがたいが、俺たちの置かれた状況を考えるとまあわからなくもない。


俺こと黒羽テツヤはこの七星高校2-Bの教師だ。生徒は1学年で300人弱、地元ではそこそこの規模の学校だ。七星高校では2年の秋に修学旅行があり、2-Bは俺と副担任の佐藤先生(マドンナ)と生徒20名とバスで移動していた。バスは事故もなく順調に進み、今は高速道路を走っているところだった。しかし、今まさに俺はとんでもない問題に直面していた。それは……


「いやあ、まさか異世界に飛ばされるとは思わなんだな」

「黒羽先生!なんでそんな落ち着いてるんですか!?」


隣に座っているのは副担任の佐藤先生だ。彼女はまだ若いのに落ち着いた雰囲気の女性で、この学校のマドンナ的存在でもある。ただ、その落ち着きも今の事態においては全く役に立たないようだ。


俺たちは移動中のバス毎、光に包まれ、見知らぬ空間に放り出された。そこは石造りの祭殿のような場所でバスの真下には大きな魔法陣が描かれている。そして、バスの周囲を異世界ファンタジー風の騎士が10数名と、ローブを着た魔術師風の連中が取り囲んでいた。


トンネルを抜けたらそこは異世界でした(笑)というやつだ。


「生徒達もみんなパニックになってますよ?私だってどうしたらいいかわかんないですもん……」


涙目になり、清楚な声で泣き言を言う。かわいい。


「まあまあ、落ち着いて下さい。俺たち教師が今一番やらなければならないことはなんだと思いますか?」

「生徒達の安全ですよね」

「そうです。もし、こんな状況でも生徒達に何かあったら学年末の校長からの評価が下がっちゃいますからね」

「なんてこと言うんですか!」


ちょっとムッとした佐藤先生もかわいい。しかし、教師の評価は校長がする。評価が悪ければボーナスに響く。給料が減る。そんなことは常識だろうに。まあ、佐藤先生は実家暮らしらしいからお金に余裕があるのかね。羨ましい。


さて、なにはともあれ生徒の安否を確認しなければ。異常事態に陥ったらまず点呼。生徒達を落ち着かせるためにも点呼しときゃ大丈夫。


「おーいお前ら、静かにしないとスマホ没収するぞー」


俺は伝家の宝刀を抜く。彼らにとってスマホは命より重い。そんなことは無いが、まあ大事。いまもこの異常な状況をネットに放流する気満々でカメラを外に向けている。


こらこら動画は気を付けなさいっていつも言ってるでしょ。


「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」


数分で静かになったところで点呼を取る。返事だけはいいんだよな。


「全員います」


俺の横にいた佐藤先生が名簿から顔をあげる。男子8名、女子12名全員確認出来た。よかった。サービスエリアで置いてきたのと訳が違うからな。いなくても迎えに行けるわけじゃない。まあ、異世界に来るくらいなら元の世界に置いていかれる方がよっぽどいいのかも知れないが。


「はい。じゃあ、状況を整理するぞー。先生の話を聞けー。おい、橘!お菓子を食うな。佐々木寝るなー。藤井、桜木、田中、石井、麻雀を始めるなー」

「先生!デュ〇マはやってもいいですか?」

「なんだ常在戦場のデュエリストかー。レアカードに傷が付くからやめとけー」

「先生!藤川さんの顔色が悪いです」

「葉山の隣で興奮してるだけだからほっとけー」

「先生!ユウリの存在感が薄いです」

「いつものことだから大丈夫だ。ミスディレクションでもさせておきなさい」

「え、え、えぇぇ…」

「先生!佐々木がやっぱり寝てます」

「額に肉って描いときなさい」


一向に話が進まない。このクラスではいつものことだが。


俺は強引にでも話を進めることにする。


「えーい、うるさい。いいから話聞けよー。いま俺たちはなんか知らんけど知らんとこにいて、周りを知らん方々に囲まれてます」

「てっちゃん、結局なんもわかってないじゃん」

「木村ー、てっちゃんって呼ぶなって言ってるだろ。確かによくわからんから俺が外の方々に話聞いて見るから、バスで大人しくしてるんだぞ」


突然見知らぬ場所に飛ばされ、周囲を鉄甲冑の騎士達に囲まれた状況。異世界召喚あるあるならトラ転して神様にあってチートもらってヒャッハーなところだが、神様の部分がすっ飛ばされている。俺たちは一般人の力しかなく、普通に危機的状況に間違いない。


しかし、俺には勝算があった。周りを取り囲む騎士達がいつまでたっても中に押し入ってきていないからだ。じっとこちらの様子を伺っている。それに彼らは槍を構えてはいるがこちらに向けてはいない。槍を持っているが矛先は向けられておらず、害意が感じられなかった。遠巻きに見られているような感じだ。害意が無いなら話が出来る。


なにより、ここで佐藤先生に良いところを見せてポインツを獲得したいという狙いが一番強い。


「じゃあ、外の様子見て来ますね」


不安そうにしている佐藤先生にバチコーンとウインクをする。俺はウインクがまともに出来たことがないから片目が半目になっているのはご愛敬だ。当の佐藤先生は「はい?」とよくわかっていないようだ。


「先生!」


酒田が俺に声を掛けて来る。大人として一人未知なる交渉に向かう俺に、顔に見合わず心配してくれているのだろうか。顔は老け顔だが性根はいいやつだ。俺は知っている。


「なんだ、酒田」

「それ、死亡フラグです」

「やかましいわっ」


俺はさっさとバスを降りる。


周りを取り囲んでいた騎士達に動揺が広がり、ビクッと体を震わせた。


「すんませーん。誰か話出来る人いませんかー」


俺の声に反応したのか騎士達に更に動揺が広がり、「おお」やら「ああ」やら声が漏れている。そして、一呼吸の後、騎士達は槍を地面に置き、片膝をついて頭を垂れる。敵意が無く、敬意を表す姿勢だ。


この流れは悪くない。


異世界召喚で呼び出された途端、捕らえられ隷属させられるなんて話もなんかで読んだことがある。召喚者のチート能力を利用しようとするための物だ。隷属の首輪なんかを付けられて、逆らえなくさせられる。体の自由は奪えても心までは好きにさせない!ってやつだ。まあ、いまのところチート能力があるのかどうかはわからないが。


片膝を付く騎士達の後ろから一人の少女が現れた。美しい金色の髪とサファイヤを思わせる碧眼を持つ美少女だ。年齢は生徒達と同じ16歳くらいだろうか。日本であればアイドルになるようなルックスで、表情はどこか硬い。


彼女は俺の目の前まで近づくと、騎士達と同じように片膝を付く。そして、鈴の音が鳴るような美しい声で俺に声を発する。


「使徒様」


彼女は俺を大惨事を引き起こして人類を滅ぼしそうな名前で呼んだ。


「違います」


否定しておく、俺には八角形のバリアも自己再生能力も無い。


「どうか私達をお救い下さい」


やはり来た。わざわざ召喚してまで外の世界の人間を呼び出す理由。それが「ちょっと観光していってね」のはずが無い。彼女達の世界になんらかの大惨事があり、それを解決するために呼び出される。この世界に魔王なんかの脅威が復活して、追い込まれた現地の者達が、藁にも縋る思いで異世界の人間を召喚する。召喚された者は見事魔王を打倒し、英雄と称えられて国のお姫様といい感じになる。もしくはパーティーメンバーの誰かと付き合う。これ王道。


これはあれか?俺王様とかなっちゃうんじゃない?それもありっちゃありだけど。しかし…


「え、いやですけど」

「え?」


生徒達もいるのにそんなことが出来るはずも無い。


俺一人だったらちょっと悩んだけど…。

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