第2話
「お、お嬢様…、なんだかやつれてますね」
作品が仕上がった時は大体いつも同じ言葉を言われる。
目の下にくっきりクマを付けた私は、笑顔を浮かべた。
「やつれてなんてないよ!これは充実した結果!
さあ!リリー!外に出掛けるわよ!」
私の趣味活のことはリリーにだけは告げている。
流石に男同士の恋愛物語を書いているとは伝えていないけれど。
私の趣味活を知っているリリーから男同士の恋愛物語を書いているとお父様とお母様に知られたら、子供の時とは違った意味で悩ませてしまうかもしれないからだ。
「ま、まさか、お嬢様のあの活動関連ですか?!」
「そうよ!昨日書き上げたの!」
「だ、ダメです!今日は奥様からお嬢様のドレスを仕立てるよう言いつかっております!」
慌てるリリーの様子に、私は口を尖らせる。
もうすぐ、といってもまだ半年以上もあるが、私のデビュタントが近付いている為、その際に身に着けるドレスを仕立ててこいと言われているらしい。
私は時間もそれほどかからない既製品でいいのだけれど、お母様だけではなくお父様も楽しみにしていることを知っていた。
だから、流石にお母様の言葉を無視するわけにはいかない。
私だって両親を大切にしたい気持ちはあるのだ。
「そうなのね。じゃあ応募が終わったら、その後仕立てに行きましょう。
応募は手渡すだけだし、いつものように本屋に駆け込むことはしない。
それならいいでしょう?」
そう提案すると、リリーは渋々ながらも頷いた。
そして私は、リリーにみえないところでこぶしを握った。
外着用に服を着替え、リリーにお化粧を施してもらった私は茶色い封筒を抱きながら、楽し気に街を歩く。
この時間もとても気分がいいのだ。
やっと書き上げた達成感に、労わってくれるような青空。お疲れ様と元気に迎えてくれる太陽。
目が眩しさで痛いけれど、でもそれがいい!
「きゃっ!」
「お嬢様!」
青空を目に焼き付けるように上ばかりを見ていた為か、前からくる男性に思いっきりぶつかってしまった私は尻もちをついた。
咄嗟についてしまった手は擦り切れることがなかったが、持っていた大事な大事な大事な大事な大事な大事な原稿用紙が封筒から飛び出るような形で落ちてしまったことに気付く。
(ひやああああああああああ!!!)
私は内心悲鳴をあげた。
リリーにも知られないようにしていた趣味を、今ここでバレてしまうのかと。
で、でも、大丈夫!
一コマくらい見えただけじゃ問題ないわ!たぶん
私はまだ成人を迎えていないもの。
男同士のうんぬんかんぬんをガッツリ書いているわけではないのだから、ただの友情物語と思うでしょう!?たぶん。
というか、一コマという一部分だけ見てさすがにわからないわ!!
キッスシーンが見えているわけではないんだから!!!
そんな現実逃避をして動かないで固まっている私に男は頭を下げる。
「すまない……」
そういって、視線が地面に向いた。
落ちている封筒に気づいて、拾い上げた男はそのまま固まる。
(ひやああああああああああ!!!)
私は今日二度目の粗ぶりを見せたのだった。心の中でだけれど。
なんで固まっているの!?
それが男同士の恋愛だってバレた!?バレたの!?どんな観察眼よ!
内心ドキドキな私は、ごくりと唾を飲み込んだが(あれ?)と首をかしげることとなる。
男の頬が薄っすらピンク色に染まったのだ。
私は戸惑いながらもリリーの手助けのもと、立ち上がった。
(腐バレに)震える私のドレスを、リリーはぽんぽんと軽くはたく。
「き、君は……リーナ先生か!?」
衝撃が走った。
漫画で表すとすれば、私の睫毛がバッサバッサに毛量が多くなり、且つ稲妻が私の背景に落ちただろう。
趣味活には身バレ防止のために仮名を使うといいよと、投稿する時教えていただいた為、エリーナからとってリーナという名前で活動していた。
幼い頃は自分の事をリナと言っていたが、それはまだエがいいづらかったのだ。
今ではエリー、またはエナと愛称で呼ぶものが多いため、リナでも問題ないと判断したが、さすがにリナでは幼い頃を知っている人にバレるかもしれないと、リーナにした。
あとから思ったけど、リナの方がいいかもしれないと思ったことは内緒である。
だって、名前からエを除いただけで、そのままなんだもの。
まぁとりあえず、だからこそ、リーナと呼んだ目の前の男に私は驚いたのだ。
しかも先生と付けたということは、この男は趣味活している私を知っている!?
なになにどういうことなのよ!
ちなみに封筒は名前が書かれている面が上を向いたわけではなかったし、絵だって一コマ部分しか見えていなかった。
余程好きでなければ誰の作品かなんてわからない。
しかもプロとして活躍しているわけでもない人物の作品なんて尚更だ。
もしかして、この人私の作品を読んだことがあるの?と心の片隅で思ったが、それよりも私の感情を占めていたのは。
マ・ズ・イ★
だ。
何故ならここにはリリーがいるからだ。
漫画で表すとすれば、尋常じゃない汗が流れ出ているだろう。
正直現実でも手汗がヤバかったが。
私は手を伸ばした。
「か、返してください!」
目を輝かせながら私をじっと見つめている男から封筒を奪った私は、そのまま駆け出した。
リリーが私のあとを追ってくる。
私はリリーを確認すると同時に後方に目をやると、男は地面に膝を付けたまま、放心している様子だった。
追ってこない男の様子に、私は安堵の息を漏らした。
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