男性不信の私が恋に落ちた相手は、イケメンの腐男子でした
@u3u_aokun
第1話
『うわ…デブ』
子供ながら、いえ、子供だったからこそ、何気なく呟かれた言葉が胸に刺さる。
誤魔化されていない本心の言葉だったからこそ、心に深い傷を負った。
◇
私、エリーナは子供の頃の苦い思い出を思い出していた。
何故なら、私のデビュタント日が近づいているからである。
スタレン伯爵家の娘として産まれた私は、五歳の時に婚約者となる男の子と引き合わされた。
確か相手の名前はコニール・スプリントといってスタレン家と同様の伯爵家の息子だ。
あの頃の私は、とてもドキドキしていた。
だって、将来自分の旦那様になる方にお会いすることになるのだから、幼い子供だとしても緊張して当然だと思うの。
いつもお世話をしてくれるメイドのリリーに身支度を整えてもらい、リリーにも他のメイド達や執事達にも『かわいい?』と何度も尋ね、可愛いよと言ってもらえた私はドキドキしてとても緊張で胸を高鳴らせていた。
私の旦那様はどんな人なのかな。
優しい王子様みたいな人だったらいいな。
まだ見ぬ将来の旦那様にドキドキしていたのだ。
お父様の足元から顔を覗かせた私は、相手の男の子の姿を見た。
キラキラと光るほどではないが、それでも私にはない金髪に、深い海のような濃い藍色の瞳。
私よりも背は少しだけ低いけど、私みたいにお父様の後ろに隠れることもなく堂々と立っている姿は好感が持てた。
お父様が私に『ほら、自己紹介なさい』と声をかけ、私は姿を現す。
『は、はじめまして…わたしは_』
『うわ…、デブ』
思わず出てしまっただろう一言がその場の空気を凍らせた。
デブだなんて、言われたことない。
食事だって伯爵家で雇っている料理人が栄養バランスを考えたメニューを出してくれてるのだから。
それなのに、初めて会った男の子が思いっきり顔を引きつらせてそういった。
『かあさま、ボクはこんな太ってて、ブサイクなひとと、けっこんなんてかんがえられません』
そして続けられる言葉に私は泣いた。
目からぼろぼろと涙を流し、次第には声も洩らし、ぐすぐすと泣いた私は、結局一言も話さないまま、リリーに抱きかかえられてその場から離れた。
涙で溢れたぼやけた視界の中、リリーの肩越しに見た男の子は、泣いた私を更に軽蔑したかのような表情をしていた。
それが更に悲しくて
『あの子が旦那様になるの?リナ嫌よ』
とわんわん泣いて、リリーを困らせた。
ちなみに私のことを愛してくれている両親は、眉をぴくぴくさせながらも笑顔を保ち、私と男の子を婚約させる話を強制的に無くしたと後で話を聞いた。
私の泣き言をきいたリリーが、嬉しそうに破顔して教えてくれたのだ。
私はホッとしながらも、男の子の家が同じ伯爵家だったから、変なもめごとにならずに済んでよかったと、子供心にそう思ったのである。
そんな子供の頃を思い出す。
「はぁ~」
無意識についてしまったため息に我に返り、すぐに頭を振って思考を切り替える。
「いけないいけない!なんかネガティブになっているわ!私!
こういう時こそ、好きなことをしなくては!!」
あの衝撃的な事件の後、私は両親にとても可愛がられた。
ぬいぐるみや可愛いお洋服、巷で流行っているおもちゃから絵本というお土産を連日のように買ってもらい、それはもう可愛がられた。
お陰であの男の子の言葉に傷つきはしたけれど、他の事に意識をずらすことに成功し、泣き寝入りの日々を送らずに済んだ。
両親もきっとホッとしただろう。
特に両親が買ってくれた可愛いイラストが沢山描かれている絵本が、当時の私は大好きで、よくその世界観に浸っていた。
でもあの時のことが引きずっているのか、男の子と女の子の気持ちが通じて、ハッピーエンドになるという話だけはどうしても好きになれなかった。
今は友達の惚気話のお陰か、そこまで思わなくなったけれど、それでも自分が対象となるのは別だ。
だから、魔王を倒したとか、国一番の魔法使いになったとか、そういう話の方が好きだった。
勿論今も大好きである。
両親もあの時の事を知っているから『エリーナが笑ってくれるなら』と好きに読ませてくれた。
遂にはお父様が買ってきてくれるのを待ってられず、リリーと一緒に買いに出かける程。
手に取る本は成長するにつれ絵本から漫画になり、時には小説まで幅広く読むようになった私は運命に出会った。
男と男の物語だ。
最初は男同士の友情物語かと思った。
これは物語だ。偽りの話なのだとわかってはいても、命を懸けて男を助け出した男性に、守られたもう一人の男性は涙を流すというこのシーンが、私の涙を流させた。
だって、例え危ない場面でもただの友ならば命までかけられないからだ。
そして助けた側の男は体に大きな傷を負い、高熱をだして意識を朦朧とさせてしまう。
男は助けてくれた男を抱え、彷徨っていた森の中見つけたぼろい小屋に入った。
治るまで男を看病していく中、有難さを感じるようになる。
怪我をした時はすぐに対処できるように、新鮮な薬草を常に仕入れ、旅の間中危険を常に確認してくれた。
料理担当は自分だったが、獲物はいつも男が取ってくれていたと。
男の存在が、自分にとってどれほど大きいかを身に染みた。
助けてくれてありがとう。いつもそばにいてくれてありがとう。そう言いながら助けられた男は、守ってくれた男に感謝をした。
私は泣いてページを捲った。
男が目を覚ました。
気付いた男……、もう助けた男をAとし、助けられた男をBとしよう。
BはAが目が覚めたことに気付くと、泣いて喜んだ。
そして改めて感謝の言葉を伝えたとき、Aの記憶がないことが分かった。
私は、なんでよ!と声をあげた。
ここは仲良く肩を組んで、次の旅へ!でしょ!と声をあげた。
今思うとこの時の大声が悪かったのだろう。
そして、ここで衝撃の展開が幕を開ける。
BはAに口づけしたをのだ。
口づけ。つまり接吻で、キッスだ。
子供の私にだってわかる。だってそれなりに成長しているし、友達の話にも婚約者とキスをしてしまった等の話を顔を赤らませながら惚気られるのだから。
話を本に戻そう。
所謂ショック療法を試そうとしたのだろうと思ったけれど、拒否するAにBは傷ついた表情を浮かべる。
私は不思議に思いながら文字を追い続けた。
拒否されたBは病み上がりのAを押さえつけ、熱を下げる為に額に乗せていた布で両手をベッドに縛ると再び唇を奪った。
Aは激しく拒否した。
元々BはAよりも体格がよくない。
だから拒否されたBは思いっきり床に体を打ち付けた。
Bを遠ざけたAは困惑の中、何故か胸が高鳴っていることに気付く。
そして赤くなった頬を抑えながら、口から血を流すBにAは戸惑った。
Bの視線がAの顔から下半身へと下がる。
『立ってんじゃんか』
そうBは口にした。
Aは最初わからなかったが、自分の一物が主張しているのに気付くと、途端に恥ずかしくなった。
だけどベッドの淵に結ばれた布にAの腕も括られている為、うまく隠せなかった。
もじもじと足で股間を隠す仕草をするAにBは、『エロいな』と色気たっぷりな表情でつぶやいた。
私は発狂した。
B×Aなんかい!!!!!!逆じゃないんかい!!!と。
正直男同士の恋愛模様を描いたお話しは初めて読んだが、これほど心躍らせるとは思わなかった。
第一嫌悪感がない。
男女の恋愛を読んだ時はいくつも疑問が浮き出て、(本当?)(そんなわけがないじゃない)という考えが抜けず楽しめなかった恋愛物語を、男同士ならば素直に読めることに驚いた。
楽しかった。
恋愛物語がこれほど楽しいものだと思わなかった。
続きを…!と読み進めようとしたとき、まだ起きている私に気付いたリリーに
『な、なんて本を!!』
と取り上げられてしまったが。
そもそもこの本はリリーと共に買いに行った時に買った本。
貴方だって問題ないと判断したのでしょう?と思わなくもなかったが、続きの展開はきっと成人してから読む話なのだと思った私はあきらめた。
ちなみに成人してから再び買い直して読み直そうと思っている。
完全にあきらめてはいない事はお伝えしよう。
そして、男同士の話にのめりこんだ私は_隠れて_自分でも書くようになったのだ。
好きなことは絵を描く事。
文章を書くことが得意ではない私は、せめて絵をと思い書き続けた。
カッコいい男はどう書くのだろう。筋肉はどう書けばいいのだろう。華奢であったとしても男らしく書く為には。手は。足は。躍動感ある絵を描くにはどうすればいいのか。
そんなことを思いながら漫画を読み、真似していった。
そして小説を読む時は、このページは漫画に表す時どう表現できるだろう。コマ割りは。背景描写は。トーンは。と考えていった。
ある日好きな漫画の一番最後のページに、オリジナル作品募集!審査に残った作品は本誌に掲載されちゃうぞー!という文言を見つけた。
条件はただ一つ。
未発表作品であること。
年齢も性別も関係なく投稿できることが衝撃的だった。
私はストーリーを考えて、そして応募した。
渾身の作品だと思ったけれど、後で見直すと改善したい点が山ほど出てくる。
それでも掲載された時には嬉しかった。
私の作品が掲載されているのだと。
頑張りが認められた気がした。
そんなわけで私はたまに作品を投稿して、掲載されるときもあればされないときもあったが、趣味活を大事にしていたのだ。
今日も今日とて、ペンを手にして攻めはどんなイケメンにしよう、たまには年下攻めもいいかもしれない。ケモ耳もいい。ヘタレ攻めもいいな。でもやっぱりスパダリは最高だ。
受けはどうしよう。前回は眼鏡を取ったら美形的な感じにしたから、今度は普通男子でもいいかもしれないと、で、家庭的な感じ最高だよねと想像を膨らませながら書き上げていった。
嫌な思い出を考えながら、好きなことに手を付けたくなかった。
楽しい気持ちのまま、作品を作り上げたかった。
邪魔になる前髪をピンでとめて、私はペンを握った。
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