真田一族 其の一

 真田幸綱



 一族郎党を連れて放浪の旅に出ておるが、やはり旅はきついの。信儂にいた頃に世話になった乱波と共に、武田家に仕官するため甲斐を目指しておるが。


 路銀が心許ない・・・無事に甲斐につけるであろうか。あと三日程でつくはずなんだが。


「なにやつ!!」


「幸綱様、囲まれました。乱波です!」


 ちっ、囲まれたか。かなりの手練よの。倅達を巻き込まずにやれるか?


「待たれよ、こちらに敵意は無い。そなたは真田幸綱殿とお見受けするが、違うか?」


「何故わしを知っておるかはさておき、何用じゃ?」


「我らの主がお会いしたいとの事で、護衛を頼まれた次第」


 にわかには信じがたいが、状況はこちらが不利。話をしてみる価値はあるの。


「その主とは、どこぞの者だ?」


「北条家に仕官したばかりの坂本龍司様だ。面白い御仁ぞ。甲斐に向かう途中だったのだろう?その前に主に会うてくれまいか?」


 うむ、まだ名を挙げておらん奴とはいえ興味もある。乗ってみたい気持ちもあるが・・・


「恥ずかしながら路銀が心許なくての。北条まで行く余裕がないのじゃ」


「殿から北条家までの資金も持たされておる。道中は我らが周囲を警戒する上、安心して北条を目指せる。」


 会ったこともない我らにそこまでするか。甲斐を目指しておることもしれてるようじゃし、その坂本龍司とやらに会ってみるのも一興じゃな。






 坂本龍司



 幻影の孫六さんから真田一族を北条に招くことに成功したと報告が入った。もう少しで甲斐に入るところだったらしい、間一髪!間に合ってよかった〜。


 早く会いたかったけど旅の疲れもあるだろうから、屋敷の近くにある宿を俺が代わりに宿賃を払って泊まってもらった。


 そして遂に、真田一族との対面。気を引き締めていこう!


「お初にお目にかかります。某、真田弾正忠幸綱と申します。後ろにいるは、倅達で左から、信綱、昌輝、昌幸ございまする」


「初めまして、坂本龍司と申します。偉い身分でもないのでそう畏まらずとも大丈夫ですよ」


「・・・左様ですか。まずは旅の路銀と護衛の配慮、それと宿賃まで払って下さったとか。何から何まで忝ない。それにしても、どのような方かと思えば斯様にお若いとは。それでいて恐ろしく手練ですな」


「私が持っているのはお金と剣術だけですからね。他に自慢できるものも特にありませんから」


 あぁ、話してるだけで優秀だと分かる。何としても欲しいけど、急いだら駄目だな。慎重に行こう。


「どうでしょう、一週間ほど滞在されませんか?北条では新しきことを多く始めております。真田殿にも是非ご覧になって頂きたい」


「御恩もあります、某に異論はございません。ですが一つだけ、某と倅達に剣術指南をして頂けますか?」


 ちゃんと強かだね。俺の中での評価ポイントがうなぎ登りだ!


「はい、是非ともご教授させて下さい。それと滞在の間は、この屋敷を使ってください。些か広すぎるので問題はありません」


「ありがとうございます。お世話になりまする」


 とりあえず留めることには成功したか。あとはゆっくり話していけば俺のことも分かってくれるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る