第23話 クーラーボックス

「もー、いくつ寝ると夏休み」

 まだ二ヶ月後である。


「前になるとたまる課題。本当に進級する気あるのか?」

 もう福子は鼻歌すら許してもらえない。


 そもそも我々は高校一年生である。私はともかく福子は低飛行なのに、確かに進級する気はあるのだろうか。


「ということで模試の結果を返却するぞ」

 千聖学園は外部の模試だけではなく、高校一年生から内部にも模試がある。

 主に勉強合宿以降に第一回がある。

 もちろん本来の勉強合宿は私と福子に関しては大人のお店で遊んだので、寝不足でろくに授業に身は入ってない。


 名前を呼ばれて取りに行くのだが、前田の名前を読み上げた担任の先生が眉をひそめた。目元が緩くなり、ほっと息をついた。


「前田。お前はやれば出来る子だったんだな」

 持って帰ってきた福子の答案を見てびっくり、偏差値平均五十七。

 この展開は予想をしていなかった。私でも平均五十なのに。

 後で聞いた話だ。あまりにも課題から逃げるので、このままいったら本当に留年するかもしれない。ではいかに禍根を残さずに事を運べるか。


 確かに地獄の様な処置だったのだが、職員室に各教科の先生を集めて集中講義。つまり同じ内容を授業と補習で二回も頭に叩き込まれている。


 それなので、評定はおそろしく低いくせに課題を溜めれば溜めるほど、偏差値は上がって行くという不思議な事態になったと担任の先生は言っていた。


「ということで中田は今日から担当外れなさい」


「分かりました。勉強に励みます」


「それともこのアホと一緒に集中講義受けるか?」

 先生方から直接指導。試験対策もたっぷり出来るだろう。


「それって、課題は」


「前田と違って、課題もやっているし課題ノー知識の前田とやっても早いのやら遅いのやら分からない」

 ですよね。


 さて、時期は夏間近である。昨年も見ただろう。スカートを脱いでを着て、ほぼ下着で授業を受けようとした女だ。さすがに大人しくなるだろうと思っていた。私以外は。


 最高気温が二十五℃を超えたある日、大きな箱を持ってやってきた。


「何、それ」


「え? クーラーボックス」

 何言ってるの? なんで分からないの? という顔で言われたので少しムカついた。


「じゃなくてそれどうするの?」


「ジュース入れるに決まってるじゃん」

 何言ってるの? 以下同文。


「これはなんだ?」

 先生にホームルームで聞かれた担任の先生だ。


「クーラーボックスです」

 以下同文。


「それは勉学に関係あるか?」


「あります。授業を受けるのにモチベーションは重要です。夏にもなるとウォータークーラーは使用過多で次々と壊れ出し、手洗い場の水道はぬるくなります。そこでこのクーラーボックスを使うと私だけではなくクラスメイトの飲み物も保存できます」


「なるほど一理ある」

 ねぇねぇ、初めて勝ったよ。やったよって顔を見せた。


「ということはみんなの飲み物を冷やしていると、もしや自分だけで独占しているのでは?」

 詭弁だと突っ込める余裕もないまま、クーラーボックスを開けられた。


「これは何だ?」


「氷枕です」


「これは?」


「熱さまシートです」

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