なき友のための
鮎川伸元
一話目
「あ~お金が全然足りない!!」
放課後になってほとんどのクラスメイトがどこかへ行ってしまい、伽藍とした教室に二人。僕と樋口はそれぞれのスマホを眺めながら、他愛のない会話をしていた。
「なぁ樋口~、聞いてくれよ~~。最近本当にお金がなくてさ~推しのグッズ買いすぎた~」
「まあ柳瀬は衝動買い常習犯だからな。しょうがないしょうがない」
樋口は横に倒したスマホの画面から視線を切らさずに、僕の言葉に生返事をする。
「なにか樋口はいいお金を稼ぐ方法とか知らないの?最近なんか羽振り?がいいじゃん!!パソコンいいやつに買い直したりしてさ...。ふつうパソコンとか20万くらいするじゃん!?お金貯めてたりとかしたの?」
樋口は顔をスマホからこちらに移し、不敵に笑ってみせる。
「実はさ、俺バイトしてるんだ。みんなには内緒だぜ?」
樋口から出た言葉に僕は少し驚く。
「この学校ってバイト禁止だろ?バレたらまずいんじゃないの?」
僕のその言葉を待ってましたとでも言うように、樋口は得意げに答えた。
「まあ学校近くの店とかならバレることはあるかもしれないが、俺のやつは多分バレない。でもごめん、これ以上は話せない。他言禁止なんでな」
樋口のそのもったいぶる態度に、僕の好奇心が掻き立てられる。
「じゃあ、僕もそのバイトやりたい。それなら僕もバイト内容分かるし」
さすがに予想外だったか、まずいと思ったのか。樋口の顔が少し引き攣った。
「好奇心は猫をも殺すっていうことわざがあるけど、後悔するよ。リスクもあるし...................まあ俺は別に構わないけど」
「そんなになんか、あれなの?...................もしかして闇バイト?」
樋口はまるで僕の言ったことなど聞こえなかったかのように、僕の言うことを無視した。
「ちなみにそのバイトの給料は?」
「一回あたり一万五千。ちゃんと最後までやり遂げないともらえないんだけど。ちゃんとやればしっかりもらえるし、悪くない話だろ?」
本当に好奇心は猫をも殺すというやつに陥っているのかもしれない。でも僕はこの平凡な生活に刺激が欲しかった。普通の高校生活なんて僕にはもう関係の無い話だ。
「そのバイト、僕も参加できないか確認を取ってくれない?」
「分かったよ。柳瀬がそこまで言うんだったら、俺は何も言わない」
「じゃあ、よろしくおねがい」
そう言って僕は教室を後にした。樋口はゲームが中途半端だとか言ってたので、置いて行くことにした。実際待ってもよかったのだが、自分の机は汚れていたし、教室にはいたくなかった。外はオレンジと黒が交じり合った色をしていて、これからどんどん真っ黒に近づいていきそうだった。
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