第49話 サバイバル再び!
えー、という訳で改めましてみなさんこんにちは。
ひょんなことから異世界に転生してしまった私、葛西鴎外は、只今絶賛森の中でのサバイバル生活を謳歌中であります。
森での生活はとても楽しく、狩りをして寝るだけ。
これを繰り返しているだけで命を繋ぐことが出来るのです!
さようなら文化的な生活、ふかふかのベッド。ただいま固い地面と調味料の無い食事!
どうです? こんな生活してみたくはありませんか?
興味のあるそこのあなた、今すぐお電話を!
「……クソ、ダメだ。こんなこと考えてても現実逃避にすらならねえ」
暇すぎるあまり妙なテンションで某通販番組風に生活を紹介してみたものの、ただ虚しさが襲って来るだけだった。
というわけで、謎の組織に捕まり尋問された末街の外に放逐された俺は、ノルミナの街に来る途中に通り抜けた森の奥へと戻り、再びのサバイバル生活を始めた。
いやだって結局相手の正体も分からないし、街に戻って来るなと言われた以上、それを破ればメアや石紅たちに危険が及ぶかもしれない。
一蓮托生の夫婦であるメアはともかくとして、あの街で生活基盤を築こうと頑張っている女子たちを厄介ごとに巻き込むわけにはいかない。
「とはいえ暇すぎるな……」
この世界に来て最初の頃は毎日ログハウス作りに打ち込んでいたらいつの間にか時間が経っていたが、森の中というのは基本的にやることがない。
そこそこ大きな川の近くに魔法で防壁と豆腐ハウスを作れば簡易拠点はすぐに出来たし、今度はきちんと威力調整した雷魔法で魚も簡単に獲れた。
ほんの二月前、俺が必死になって目指していた『この世界で生きる』という目標をあっさりと達成できたことに今更ながらちょっと感動したが、そこを過ぎ去ってしまえば見慣れた木と茂みだらけの景色が広がった世界に一人、何の娯楽もなく放り出されただけである。
「ま、本当のところやらなきゃならないことは分かってるんだけどさ」
戦って、誘拐されて、尋問されて。実際のところは一晩で色々あり過ぎて疲れたので、ちょっとぼーっとしたかっただけなのだ。
一度考え始めたら上手く思考を止めて休める自信がないから。
俺は地面に仰向けに寝転がり、久々の柔らかな木漏れ日をしばらく堪能。
そして、両頬をバシッと叩いて気合いを入れて起き上がる。
「んじゃやるか……防御魔法対策」
呟きと共に、俺は色んな魔法を打ち出し始める。
街から追放された今の俺に出来るのはただ一つ、魔法の研究だけだ。
そしてあの黒ポンチョ共との戦いから、今の俺に必要な魔法もはっきりしている。
そう、この世界の防御魔法を貫く事の出来る高威力の魔法の開発である。
昨日の夜の戦いの直接的な敗因は5人目の存在に気付けなかったことだが、恐らく5人目がいなかったとしても俺は負けていたと思う。
俺の全力の風魔法は防御魔法を一応貫通したが、尋問時に簡単に治癒魔法で治せる程度の傷しか与えられなかったのだと教えられた。
つまり、あのまま戦っていても俺の攻撃は奴らに通用しなかったことになる。
森にいた時は相手が同じ転移者で、防御魔法を使えるのは味方のメアだけだったから意識しなかった。
だが、この先俺が戦っていく事になるのはこの世界の人間だ。
ならばどうしたって、あれを超える必要が出てくる。
「しばらく対人戦は魔剣ブラフで誤魔化して、魔法の開発はゆっくりやって行くつもりだったんだけどなぁ」
俺の魔法はスキルレベルの恩恵もあるが、やはり試行錯誤によって作られている部分が大きい。
なので魔法に注力してしまうとそれ以外が疎かになる。
それならば、魔道具だったり、それこそ勇者の遺品だったり、魔法の練習はスキルレベルの底上げ程度に留めて他に力を注いだ方が効率的に強くなれると思っていた。
……だが、黒ポンチョの組織には既に魔剣ブラフのことをバラしてしまった。
「ま、それで俺自身が動けなくなってちゃ元も子もないんだけどさ。……これも魔法を練習するいい機会だと思うほかにないかね」
とまあポジティブに考えることにして、とりあえず俺はここらで一番大きい木にひたすら魔法を打ち込み続けた。
横幅だけで4メートルくらいある、樹齢何百年クラスの化け物。
体感だが、硬さ的にこれをぶち抜けるようになれば防御魔法ごと相手を屠れるようになる気がする。
「本当は防御魔法の欠点とか聞くのが一番いいんだろうけどなぁ」
風、土、雷を中心に既存の魔法を一通り撃ち放ったところで呟く。
あれだけの強度で、汎用性のある魔法だ。
恐らく消費魔力以外にも欠点がある。そうでなければこの世界の対人戦は完全に魔力量が多いやつが勝つ持久力ゲーになりかねない。
そんなロマンの欠片も無い方向に魔法が進化をしたとは思いたくない。
とまあ、仕組みを聞けば対策もあるのだろうが、俺たち感覚派にはこの世界の魔法理論になるべく触れないという縛りがあるので、そうもいかない。
「ま、本当に手詰まりになるまではその辺律儀に守っておきますかね」
呟いて、俺は再び魔法を撃ち込んだ。
気付けば夜になっていた。
あの後も俺は魔力密度を限界まで高めてみたり、逆に同時に操る時に暴走気味に束ねて反発させて高威力を出そうとしたり、今まで試してこなかった火、水、氷の魔法を練習したりと色々やった。
その中でも特に、異なる属性の魔法を同時に使う、というのがかなり高威力を叩きだした。
所謂混合魔法、ナ〇トでいう血継限界である。
今のところ、土と火の混合魔法が大木を破壊するのには最も効果を見せている。
限界まで圧縮した土魔法の杭の尾に火魔法で爆発を起こして押し込む。
原理的にはパイルバンカーと同じだ。
最初は一番得意な風魔法と土魔法を組み合わせられないかと思ったのだが、なんかこうじゃんけんのグーとパーというか、水と油というか、性質が正反対すぎて上手く混ざらなかった。
悔しいのでそのうち実現させたい。
まあ、今日の成果としてはそんな感じである。
「初日しては上々だな、うん。正直ゴーレム馬車作ったおかげで魔法の制御力が格段に上がってて色々やりやすかったってのはあるが」
限界を超えて魔力を圧縮するゴーレム馬車の機構は魔力制御という面において他の魔法にも応用が可能だった。
おかげで大体の魔法が一段上の性能に引き上げられている。
「しかし、流石に魔力がからっけつだ。……よし、寝るか!」
脳みそに重たい疲労感を覚えて、俺は豆腐ハウスに体を突っ込んで横になる。
本当は水浴びとか色々した方がいいんだろうが、一人だし面倒だからまあいいかとすっ飛ばした。
「それじゃ、おやすみっと」
――そんな風に、のんきに眠ろうとした時だった。
タタっと、軽やかな足音がどこかで響いた。
それを聞いた瞬間、俺は弾かれたように立ち上がる。
明らかに獣のものではない。
……まさか、黒ポンチョ共の追手か!?
夜襲に備えて残してある魔力は最低限。
だがそれはあくまで対魔物用。
今強者と出くわせば勝てる見込みは薄い。
俺は背筋に冷たいものを感じながら、豆腐ハウスの入り口から半身を出してそーっと外の様子を探る。
——が、次の瞬間。
「——っ、オウガイさんっ!!!」
まるで弾丸のように人影が飛び出してきたかと思うと、赤紫髪の超絶美少女が俺の身体を強く抱きしめていた。
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