第31話 逃亡計画①
逃亡計画を決行する。
そう決意した俺だったが、即座に動けるわけでもない。
今の時刻はまだ昼と夕方の間。今はまだ早すぎる。
動くなら夜。それも、男どもの寝静まる深夜だ。
こっちには夜の森でも迷わず動けるメアがいる。そのアドバンテージを活かさない手はないだろう。
なので俺たちは、一旦ログハウスへと戻ってきていた。
理由は二つある。ログハウスに置いてあるメアの野営装備やらを回収すること。それから――
「ああ、鷗外……おかえりなさい」
土魔法で閉じ込めていた、ナナの対処だ。
彼女はまだ、昨日の嘘がバレていないと思っているのだろう。
土壁を1枚消して顔を合わせると、殊勝な感じで淡く微笑んだ。
「あ、ああ。悪いな、昼飯もまだだったろ」
彼女の顔を見ると、修司に見せられたハ〇撮りが脳裏にちらついて反吐が出そうになる。
いっそこのまま殺してしまいたいとさえ思えてくる。
——だが、そうはしない。
一度裏切っただけではなく、昨日は醜い嘘まで吐いて二度も俺を騙したのだ。
このままあっさり殺して終わりなんて生温いにもほどがある。
こいつには、死よりも辛い罰を与えてやらなければ。
俺が表情を取り繕って朝と同じ魚料理を出してやると、ナナはお礼を言って食べ始めた。
そして彼女が食べ終わったところで、
「聞いてくれ。俺たちは数日中に、拠点の女子たちを救い出してこの森から脱出することにした。行き先は南にある小さな町だ。お前も一緒来るか?」
俺は努めて普通の声で、彼女にそう切り出す。
「それは、もちろん。私、行く当てもないし……でもいいの? 私、脅されたとはいえ鴎外に酷いことしたのに」
「まあまだ許せないけど、このまま置いてったらお前死んじゃうだろ」
「……ありがとう、ごめんね」
ナナは涙ぐみながらお礼を言って来た。
ったく、相変わらず臭い演技だ。
——だが、これでいい。
これでこいつはきっと、俺の予想通りに動いてくれるだろう。
「くくっ……」
こいつの行く末を思うとついつい変な笑いがこみ上げてきてしまう。
おっといけない。笑うのはことが全部済んでからにしないとな。
さて、後は……ああそうだ、一つやろうと思っていたことがあったんだ。
俺はなるべく太い木に登り、ある程度の高さのところに土魔法の屋根を作る。
支柱を木の枝にがっしりと埋め込んで、なるべく頑丈に、長持ちするように。
「オウガイさん」
気付けば、隣にメアが立っていた。
彼女は少し寂しそうな顔をして、俺の肩に頭を預けてくる。
「……全てが片付いたら、ここに戻って来よう。そんで、でっかいベッドを買おうな」
色々あったせいで、結局俺たちの望む穏やかな森での生活は叶わなかった。
正直、あんな掘っ立て小屋みたいなログハウスが数年後も残っているとは思えtぴbぴ それでも、最低限の雨風をこれで凌げれば少しはましかもしれない。
「そうですね。ラストダンジョンも何もかも片付けたら、いつかここに戻って来ましょう。もっともそうなったらオウガイさんはエルフの王ですから。気軽に出歩ける立場じゃありませんけどね」
メアは苦笑しながらも、俺の無謀な夢に賛同してくれる。
さあ、これで憂いもなくなった。
後は動くだけだ。
***
夜を待って、俺たちはいつもの倍以上の時間をかけて慎重に転移者たちの拠点へと近づいた。
修司の話じゃ目のいいやつがいるってことだったから、木伝いに体を隠して慎重に進んだ。
一応、ログハウスから離れたところに焚き火も残して来た。
それで少しでもそいつの目が欺ければいいんだが。
『皆さん、聞こえますか?』
拠点に近づくと、メアが姿を隠したまま念話で話しかけた。
『メアさん!? もう、戻って来たの……?』
真っ先に応じたのは浅海だった。
誤魔化すのとか苦手そうだけど会話して大丈夫なのかな……
『あー、奏ちゃん落ち着いて。静ちゃん、聞こえる?』
『あれ、未来ちゃん? どしたの、今朝涙のお別れしたばっかじゃない』
石紅が声を掛けると、静さんが応じてくれた。
『予定変更だ。今夜、みんなを逃がす』
俺が言うと、声にならない声、みたいなのが一斉に響いた。
『はぁ!? どういうことだよオイ!』
『オウ兄、急すぎない!?』
特に喚いていたのは、地雷系ツインテこと三宮ののあと、ロリっ子こと久嶋空ちゃん。
オラオラ口調なのが三宮で、俺をなぜか兄と呼んでくるのが空ちゃんだ。
空ちゃんはともかく三宮は見た目に見合った喋り方をしてくれマジで。
『男衆の中に一人厄介なのがいてな。あっちの動きが早まったのと、時間をかける程俺たちが動きづらくなりそうなんだ』
実際修司が暴走しそうというのだけで逃亡作戦を決行しようとしているわけではない。
あいつが冷静さを失わなかった場合、森にいる限り俺たちには今後露骨な監視を付いて回るだろう。
そうなればこれ以上の準備も、魔法の練習も出来ないので、これ以上は時間をかけるだけ無駄になってしまうのだ。
『そういうわけで、いきなりなのは受け入れてくれ。それで、そっちは何か変わった動きはあるか?』
『んー、なんか、いつもより男共が活発に動いてる、かなぁ……なんか、そわそわしてるというか。時々セクハラしてきた上司みたいなエロい目を向けられてる気がする。……クソが』
『なるほど、静さんの体験談なら信用できるね。じゃあやっぱり、猶予はなさそうだね』
石紅の予想通り、修司の感情は女子たちにぶつけられるのだろう。
この時間になっても動いていない辺り、今日すぐに、という感じではないだろうが、明日か明後日か。とにかく奴らの奴隷化計画はもう実行間近だ。
『分かった。女子たちへの説明を含め、動き出しは夜中、殆どが寝静まってからにする。三人は連絡があり次第、バレない程度に周りの人間を起こしておいてくれ』
そうして念話は切れた。
さて、次の準備だ。
「この辺りでいいですか?」
「ああ、これなら申し分ない。いくら目がよくても、分厚い茂みの中までは見通せないだろ」
俺はメアの案内でより草木の鬱蒼としためちゃくちゃ背の高い茂み、みたいな場所に来ていた。
「それじゃあ、頑張ってくださいね」
メアは俺の頬にそっと口づけして、来た道を戻っていく。
ここから時間になるまで、俺は別行動だ。
俺は草木の中をずんずんとかき分けて進む。
足元はぬかるみだし虫が口に入ったりして気持ち悪いが、贅沢は言っていられない。
そして茂みの真ん中までくると、俺はふぅ、と深く息を吐いて目を瞑る。
「さあ……こっからが正念場だ。残りの数時間で、あの魔法を完成させてやろうじゃねえか」
意気込んで魔力を込めると次の瞬間、俺の目の前にはすらっとしてカッコいい馬が現れたのだった。
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