第11話 この世の天国を見つけました
全身に肌寒さと裏腹に、腕の中に心地いい温もりを感じて俺は目を覚ました。
「ん……?」
目覚めてすぐ、視界にとんでもない美少女が映り込む。
――瞬間、俺の思考は止まった。
「うわ、かっわい!」
思わず上ずった声が漏れる。
丸くなって眠る美少女の寝顔は、とんでもない破壊力だ。
天使とは彼女の為にある言葉だろうと本気で思う。
そして、その天使は今俺の腕の中にいる。
「なるほど。ここが天国か」
大真面目な顔で頷く。
恐らく一晩中枕代わりにされていたのか、右腕の感覚が全くないがそんなのは些細なことだ。
今この瞬間、この時間を失うことと比べたら、右腕一本くらい切り落としてもいいな。
「未だにこの天使が俺の嫁だとは信じられんな……」
あまりにも幸せ過ぎて、これが現実なのかどうか疑いたくなるレベルだ。
そんなことをぼやいていたら、
「……朝からなに馬鹿なこと言ってるんですか?」
気付けば、腕の中の天使がジト目を向けて来ていた。
「——っ」
俺は気恥ずかしくて、思わずメアから目を逸らす。
「あっ! なんでオウガイさんが先に照れるんですか! そういうあざといの私がやりたくてずっとタイミング伺ってたのに!」
メアもまたそれっぽく頬を赤らめ、気恥ずかしそうにはにかむ……なんてことはなく。なんだかよく分からないことに憤慨していた。
くそ、ずっと起きてやがったのか。
「いやだって、その、色々思い出しちゃって……」
「わー! それも私の台詞なのに! そういう官能小説とかに出てくる初めての後に恥ずかしがる女の子やりたかったのに!」
さらっととんでもないことを言って騒ぐメア。
それでも俺は、未だ彼女を直視できない。
明るいところで初めて全裸を見たから、というのもあるが、それ以上に昨日のが凄すぎて恥ずかしくなってしまう。
男なのにキモイって?
それは、昨日何があったのか知らないから言えるんだ。
メアに陥落した俺は昨日、彼女を押し倒した。
こう、彼女の控えめな胸をくんずほぐれつ色々して、いざ本番と思ったその直前に事は起こった。
メアの我慢が限界に達したのだ。
どうやら裸で求婚した辺りからもう興奮していたらしく、彼女は暴走した。
武術でも習っていたのかあっさりと俺を下に据え、そういえばこの世界避妊とか大丈夫なのかなとか考えている間に俺の純情はあっさりと奪われた。
彼女も確かに初めてだったが、何やら魔法を使うとすぐに激しく動いても平気になっていた。
そこから先はもう完全に彼女のペースで、俺はすっかり蹂躙されてしまったのだ。
「そういう女の子ムーブは初夜に暴走しなかった子にだけ許されるんだ。今更メアには無理だ」
「え~、でもオウガイさんもノリノリだったじゃないですか。途中から完全に顔とろけてましたよ?」
「それは……」
だって、仕方がないだろう。
メアは確かに暴走していた。だが、その行為の全てになんというかこう、俺への好き!って気持ちが物凄い密度で詰まっていたのだ。
それは、他人に対して心を閉ざし、癒えない傷を抱えていた俺にとってこれ以上ない程に刺さった。
彼女と肌を重ねる度に、心が温かさに満たされ分厚い氷が溶けていく。
ずっと欠けていた心の隙間が、優しく包むように埋められていくようだった。
単純かもしれないが、結局はそれが生物として一番の愛情表現なのもまた事実だ。
だから、俺は決めたのだ。
この世界でもう一度だけ誰かを信じてみようと、そう思えるとしたら。
メア・フィルローズ。彼女を除いて他にいないと。
「とろけきった顔で、メア! メア! 好きだ! って、腰ガクガクさせて情けない声で叫んでたの、最高だったなぁ……」
「頼む、もう勘弁してくれ……」
恍惚とした表情で語るメアに、俺は降参した。
これ以上は心臓が持ちそうにない。
「全く、しょうがないですね」
メアはようやく俺の腕から起き上がり、そっと耳元に唇を寄せてくると、
「今晩、また可愛がってあげますからね♪」
そう、とろけるような甘い声で囁いた。
そのまま俺が理性を失い再びベッドインして二人は退廃的な快楽に溺れていく……という事もなく、俺たちは程なくして服を着てツノ猪の肉で簡単な朝食を取った。
「それで、これからどうするんだ?」
「どう、というと?」
「だって、メアは祖国に追われてるんだろ? そうのんびりしてるわけにもいかないんじゃないのか?」
昨日の話からして、メアはラスダン攻略が嫌でここまで逃げて来たのだろうが、エルフ国のルールは恐らく逃げ出したから王位継承もなし、とはならない気がする。
それなら別にメアが結婚相手を探す必要もないしな。
「そりゃまあ、いずれは追われる事になるでしょうけど。しばらくは大丈夫ですよ。大半のエルフは時間にルーズですからね。私の捜索もまあ、後3~4年くらい経ってからようやく始めるって感じだと思いますよ」
「それなら、しばらくは大丈夫なのか」
「ええ。だから安心して、今夜はたっぷり楽しみましょうね」
唇に人差し指を当て、妖艶な笑みを浮かべるメア。
その仕草はとても艶めかしい。
だが、俺は興奮より先に疑問があった。
「待て。それならなんでメアはこんな森の中にいたんだ? 国から逃げ隠れしてたわけじゃないのか?」
「ああ、それならただの依頼ですよ。魔物退治です。私、これでもA級冒険者ですから」
えへん、とメアは胸を張る。
張る胸なんてないのに、なんだか微笑ましいな。
「……今、胸ないのに胸張ってるなこいつ、とか思いませんでした?」
「思ってないから落ち着け。その手に込めた魔力をどっかにやってくれ」
メアが冷たい笑顔で明滅した手のひらをこちらに向けて来ていた。
大した魔力じゃないが、ちょっとびりびりしますね~くらいの威力はあるだろう。
「しかしまあ、街で依頼を受けられるくらいには自由に動けるわけか。それはよかった」
最悪本格逃避行サバイバルが続くのを覚悟していたが、そうはならないらしい。
別にそうなっても、メアと一緒なら楽しくやれそうだが。
「……不安にさせてしまってすみません。そうですよね、いつまでもこの固いベッドじゃ下になるオウガイの腰が壊れてしまいますもんね。なるべく早く街に行って、大きくてふかふかのベッドを買いましょうね」
「下になる前提なの止めような!」
俺だって男だ。プライドもある。
いつまでも負けっぱなしではいられない。
ま、攻められるのは嫌いじゃないのでだいぶ先になるかもしれないが。
「とにかく、オウガイさんは何も心配しなくて大丈夫です! お金とかも、私結構稼いでますから!」
メアはふん、と気合を入れて立ち上がる。
しかし、異世界来ていきなりのひも生活か……
でもまあ、右も左も分からないし、金もないし。
しばらくはメアに頼るしかないだろう。
財布の諭吉さんも、ここじゃただの紙切れだ。
「オウガイさんは私に可愛がられる事と、魔法の練習にだけ集中してもらえれば大丈夫です」
「そういえば、強いやつを探してたんだったな」
いやほんと、魔法練習しててよかった。
ありがとう魔法、ありがとう《純粋無垢》。
おかげで俺は最高の嫁と出会えたよ!
「カッコいい、が抜けてますよ?」
メアはニヤリと笑って顔を近づけてくる。
ああくそ、からかわれてるのは分かってるのにドキドキする。
この先どれだけ触れ合っても慣れる気がしない。
「……それはともかく、街に行くにしても依頼は終わらせてからにしようぜ。どんだけ距離があるか知らないが、二度手間になっちゃうし」
俺は赤くなった顔を誤魔化す為に、さっさと立ち上がってログハウスから出る。
「あ、逃げた。待ってくださいよオウガイさん。ちゃんと自分がカッコいいって認めてくださいよ~」
その背中にからかいながらメアがついてくる。
こんな幸せな時間がずっと続けばいい。
俺は小さく笑って、隣に並んだメアの手を取った。
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