私をフって愛しの貴方

赤猫

嫌いになって片思いの貴方

 今日の仕事が終わるまであと三十分私は、お客さんがいない店内で気になっている人と一緒にいる。

 そしてポツリと世間話のようなノリでこんなことを言ってみた。


「今から告白するのでフって欲しいです」

「はい?」


 私の片思いの相手は、目を見開いて私を見つめている。

 それもそのはず、急に告白するから断ってくれだなんてとち狂ったことを言っているのだから「何言ってんだこいつ」になるよね。


 私としては長い片想いを終わらせてさっさと他人になりたいところなのだけれど。


 好きな人はバイト先の先輩。

 たまたま私の教育係になってシフトが一緒で性格とかもどタイプで好きになってしまった。

 なんで好きになっちゃったんだよ私のバカと言いたくなるほどには…好き。


 でもさ?私大学生、相手は社会人…圧倒的に歳の差が私に【絶対ムリ!】と言っている。

 絶対に振られるこんな子供みたいなやつ女として見られているはずがない。


 だってさ?先輩いつも私の事いじってくるし、子供みたいに頭撫でてくるからせっかくセットした髪はボサボサになるし!


「フるも何も…え?」


 先輩は困惑していて「え?」とか「ん?」とか言ってる。

 今の現状に頭が理解を追いついていないと人って漫画とかアニメみたいな感じでこうなるんだなって他人事のようにして見ている。


「え?俺遊ばれてない?」

「ちゃんと好きですよ」

「like?」

「Loveで」


 尚のこと先輩は頭を抱えた。

 あーあ、こんなふうに困らせて私は何をしたいんだろうか?

 とっととフラれて楽になりたい、そう思ったんだよね。


 だって辛いんだもん、片思いってしんどいだけだもん。

 なんでこんな人に出会ってしまったんだって後悔してるよ。

 会わなかったらこんな感情知らずに済んだのにどうしてくれるんだ。


「はい時間切れー、お先に失礼します。お疲れ様でした」


 結果は分かっているのだから聞く気にもならないしちょうど終わりの時間なので帰ろうと思う。


「ちょ、は?!待って!」


 タイムカードを押してさぁ帰ろうと思った時に彼が私の腕を掴んできた。


 その時に見た彼の顔は焦りと戸惑いが混じっている様子だった。


「ちゃんと応えるから…だから逃げるように帰らないで」

「そんなつもりないですよー?」


 先輩って勘が鋭いのかな?それとも知ってた?


 私と先輩のシフトが被るのは今日で最後。

 それは何故かというと、私がバイトを辞めるからである。

 まぁ辞めることは店長にしか教えてないからきっと私の行動からそう発言したと思った。


「また明日」

「明日って君とシフト被るの今日で最後なんだけど」

「よく見てますね?人のシフトも把握してるとか流石先輩だなぁ」

「そんなこと言っても誤魔化せないから」


 先輩は勇気を出して恋を終わらせようとしている後輩を無視してくれないらしい。

 私は嬉しいような悲しいような複雑な気持ちである。


「俺の仕事の時間終わるまで待ってて貰ってもいい?というか待ってて欲しい」


 わざわざ私をフるためにそこまでするか普通?

 泣きたくなってきた。


「…分かりました」


 先輩は私の言葉を聞いて強ばっていた顔を緩めてふにゃりと笑ってみせた。



 先輩を待つこと一時間だろうか?職場の休憩所でスマホ弄ってたらすぎる時間だが、私は緊張でそれどころではなかった…という訳ではなくどうせ確定でフラれるんだし、って考えていたから正直ひたすらに眠たいなと思っていた。


「ご、ごめん待たせた…かな?」


 コクンコクンと私が船を漕ぎそうになっていたところで彼は来た。


「ん…大丈夫です…ふぁあ」


 欠伸をして私は立ち上がった。

 さて、ここで聞かせてもらえるだろうから速攻で聞いて帰ろう。

 そんで家に帰って盛大に泣こう。


「とりあえずどっかご飯食べに行こうか」

「はい?」


 ごめん聞いて帰るだけのつもりだったんですけど?


「あ、あの…お話して終わらせるつもり…」

「ゆっくり話したいからさ」


 私は先輩の言葉に負けてしまい近所のファミレスでご飯を食べることにした。


「何食べる?」

「えーっと…和風ダレのステーキのやつであとライスも」

「いいね俺もそれにしよ」


 ステーキとか頼むとだいたい男って引くんじゃないの?

 すごいですね。引かないで楽しそうに同じもの注文して食べるって。

 彼氏なら理想的すぎてやばいです。


「なんで俺の事好きなの?」


 ステーキ待ちの時にそう彼が聞いてきた。


「気づいたらそうなってました」

「すごい素直だね」

「じゃあ適当に脚色してロマンチックにした方がいいと?」

「ううん、素直な方が俺は好きだよ」


 分かってる半年一緒にいただけだけど貴方が着飾らない女の子が好きだってこと。

 だって派手な格好したお客さんに先輩が告白されて、ついでみたいに私の事ディスってきて来た時に私を守ってくれた。


『貴方が地味というけど俺にとっては、綺麗です…謝ってください』


 あの温厚なのかただ人に厳しくできないの分からない先輩が怒るなんて想像できるだろうか?


 ずるいと思った。

 こんな言葉聞いてキュンってしない女性がどこにいるのだろうか?


「先輩」

「どうしたの?」

「半年間お世話になりました」


 私が急に頭を下げると彼は慌てて私に頭を上げるように促した。


「私、今日でバイト辞めるんです」

「…どうして?」

「仕事で一緒にいてくれた貴方に不純な感情を持っちゃったから、仕事に支障をきたしくないから」


 顔が見れないなぁ…私のこと軽蔑してるのかな?

 いっその事してくれないかな、その方が心へし折れて楽だからそうしてくれないかな?


「じゃあ俺も同罪でいいよ」

「は?何馬鹿なことを…」


 先輩は、席を立って私の隣に座った。


「一生懸命に俺の話を聞いてメモをとって、失敗しても泣き言一つ言わない」

「泣き言って…普通じゃ…」

「ココ最近のバイトの子はね言っちゃったら君みたいに真面目にやってないよ?出来なかったすぐ泣きついちゃう」


 真剣に私の事を褒めてくるものだからむず痒くなる。

 今意識しなかった締まりのない顔をしてしまうだろう。


「でも君泣きつかないでしょ?過去のメモ引っ張り出してやるでしょ?それでも無理なら周りに聞くでしょ」


 私の事ちゃんと見てくれてたんだ。

 死に物狂いでメモ見てる私を見られていたんだ…恥ずかしいな。


「俺はかっこいいと思ったよ…まぁちょっと頼って欲しいって思うけど、女の子なのに自分から進んで重い荷物持ったりした時は焦ったけど」

「女の子だから持てないって理由は嫌だからであって…」

「そこは素直にありがとうございますで良いのに、君って本当に変わってる」


 先輩のその言葉は嫌味とかではなくって、純粋に喜んでいるようだった。


「どうしてそんなに嬉しそうなんですか…悪口にしか聞こえないんですけど」

「違うよ?!俺は純粋に君の事好きで…あ」


 私は彼が何を言っているのか理解が追いつかなかった。

 先輩はやってしまったと言う感じで頭を抱えている。彼の耳が少しだけ赤くなっているのは気のせいだろうか?


「せ、先輩…?今の言葉はその…私に気をつかって、ですよね?」


 頼むそうであってくれ、そうであって欲しい。

 そんなコト言われたら私は、この恋心を捨てられない…諦める事ができなくなる。


「あーもう!こうなればもう言ってやる!」


 先輩はぐしゃぐしゃと自身の髪を掻き混ぜて私を見る。

 その瞳には緊張と熱があった。


「君が好き…もうそれはどうしようもなく好き」

「最悪…先輩のアホ、馬鹿」


 私は罵る言葉しか出てこなかった。

 これで嫌って欲しいという最後の抵抗もあるけどきっとこんなんじゃ彼は嫌ってくれない。

 だって私のことを見る目が優しいんだもん愛しいって思っている人の目をしているんだもの。


「嫌いになってよ」

「絶対嫌だ、君の事こんなにも大好きだから…もう諦めて俺の彼女になってよ」


 そんな事言われたら私は頷くしかないじゃないですか。

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私をフって愛しの貴方 赤猫 @akaneko3779

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