第三十五話 そのポーター、仲間たちとムカデになる

 僕たちは追手の兵士さんたちの目を掻いくぐりながら、先導させているハルミの案内である場所へと向かった。


 街外れの小高い丘の上にある領主の屋敷――ではなく、その丘のふもとにあった雑木林の中だ。


 当たり前だがメチャクチャ暗い。


 光源がなければ数メートル先も見えないほどの暗さだ。


 さっきまでなら夜空には煌々と輝く満月が浮かんでいたけど、この雑木林に来るまでに分厚い雲に隠れてしまったので夜の海のような暗さと不気味さがある。


 なので僕たち4人は、仲良くムカデとなって林の中を進んでいくことにした。


 え? ムカデって何本もの足が生えているムカデのことかって?


 そうだよ。


 でも、僕たちは何も本物のムカデになったわけじゃないよ。


 先頭を歩いているハルミの両肩をカーミちゃんが後ろから掴み、そのカーミちゃんの両肩をローラさんが後ろから掴み、そのローラさんの両肩を後ろからクラリスさまが掴み、そのクラリスさまの両肩を僕が後ろから掴む……というような形で傍から見るとムカデのように動いているからムカデと表現したんだ。


 そしてもしも人の目がある街中でこのムカデ歩きをやったら、巡回の兵士さんに即職質されるか通りすがりの医者に心の病院に連れて行かれるところだろう。


 でも、この雑木林は暗い上に人の気配はないからセーフ。


 僕たちは羞恥心を心のゴミ箱に放り込み、1匹のムカデになったつもりで両足を動かしていく。


 だけど相変わらず周囲は思いっきり真っ暗のまま。


 それでも先頭のハルミは、鼻歌を歌いながら林の中の障害物をヒョヒョイ避けて僕たちをある場所まで誘導していく。


 ちなみにハルミは、蠟燭ろうそくもランタンも光源魔法も使っていない。


 では、なぜハルミは鼻歌まじりに暗闇の中を先導できているのか?


 理由は……うん、スキルです。


 今のハルミは〈暗視〉というスキルを使っている。


 何でもこのスキルを使えば、夜でも昼間のように周囲が明るく見えるらしい。


 まさに「全身スキル人間」の本領発揮というところかな。


 まあ、それはさておき。


 その後、林の中を10分ぐらいかけてムカデ歩きで進んでいたときだろうか。


「皆さん、もうそろそろ到着しますよ。前の人にぶつからないように注意してください」


 ハルミが僕たちに向かって告げてくる。


 それから2~3分ほど足を動かしていると、ハルミが「皆さん、止まりますよ」と再び告げてきた。


 僕たちは前の人にぶつからないように止まる。


「ここです。ほら、見えるでしょう?」


 僕たちはムカデの体勢を解いて、前方の闇をじっと見つめる。


 さっきよりも闇に目が慣れているので何かあるのはボンヤリと見えるけど、自信満々に「ほら、見えるでしょう」と言われてもはっきりとは見えない。


「ハルミちゃん、全然見えない」とローラさん。


「さすがに月が完全に隠れているとなってはな……」とカーミちゃん。


「ランタンなどがあればいいのだが」とクラリスさま。


 なるほど、とハルミがうなずく気配があった。


 さすがにこの暗さだと、声は聞こえるが近くにいる全員の顔は見えない。


 ただ、何となく気配で身体の仕草などがわかる程度だ。


「ランタン……そうだ、じゃあ即席のランタンを作りましょう」


 そう言うとハルミは、地面に落ちていた葉を払いのけて何かを探し始めた。


 言っておくけど、見えるわけじゃないよ。


 あくまでも音と気配でそう感じただけ。


「うん……これぐらいの大きさでいいかな」


 ハルミのそんな声が聞こえた瞬間、僕たちの目の前にポッと光源が現れた。


 暗闇に光が突如として現れたので、僕たちは無意識に目をつむってしまった。


 それでも10秒ほどで光には慣れた。


 僕たちの視線がハルミの右手へと集中する。


「ハルミ……それは?」


 ハルミの掌の上には、女性の拳ほどの大きさの石が置かれていた。


 その石がランタンのように周囲を明るく照らす光を放っているのだ。


「ボクの〈万能光源〉のスキルによって、そこら辺に転がっている石を光源に変えました。これで暗闇の中でもどんどん進んで行けますよ」


 やはりハルミはスキル人間だ。


 やることなすことが相変わらずデタラメである。


 いや、そんなことよりも――。


「ちょっと待って。そんなスキルが最初から使えたのに、どうして君はここに来た時点でそのスキルのことを僕たちに言わなかった? その辺の石ころを光源にできるなら、僕たちはムカデのように歩かなくてもすんだじゃないか」


 僕が指摘すると、ハルミは顔をひくつかせながら前方を指さした。


「そ、そんなことはともかくアレを見てください」


 こいつ、さては〈万能光源〉のスキル自体を忘れていたな……。


 などと僕は思いながらも、ハルミの指をさしたほうに顔を向ける。


「アレが領主さまの裏庭に通じている、秘密の道の入り口です」


 ハルミは駆け足でその場所へ行くと、光源の石をかざした。


 そこには大量のつたや葉っぱで微妙に隠れていた、魔物の口を思い浮かばせる大きなトンネルがあった。

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