第二十七話 そのポーター、誤解されて兵士たちに捕まる

 正門周辺には大量の篝火かがりびが焚かれており、街全体的が明るいプロテインの街でも特にこの場所は昼間のように明るかった。


 そんな中、正門の前には数十人の門番兵さんたちが勢ぞろいする。

 

 門番兵さんたちは、全員とも鎧と剣で武装していた。


 胸当てや手甲、脛当てのみなどの軽装備ではなく、顔が判別できないほどの兜に関節部分以外はすべて金属の鎧でまとわれている重装備だ。


 え? これから皆さんは戦争にでも行くつもり?


 それとも街の外に災害級の魔物でも出現した?


 僕が軽く混乱していると、女性陣たちも異変に気がついたのだろう。


「もしかして、重罪人が牢から脱走したのではないでしょうか?」とローラさん。


「ふむ、もしくは重罪人がこれから街に来るのかもしれんぞ」とカーミちゃん。


「どちらにせよ、私たちには関係ない。カンサイさまはこのウメダ領を国王より与えられた新たな領主であり、領主の屋敷があるこのプロテインの最高権力者となったお方だ」とクラリスさま。


「か、カンサイさんがこのウメダ領の新領主さま!」


 と、寝耳に水とばかりに驚くハルミ。


 うん、君に教えると面倒くさそうだったので内緒にしていたんだよ。


 だが、ハルミが驚いた顔をしたのは一瞬だけだった。


「もう、冗談はやめてくださいよ。カンサイさんは勇者さまであって領主さまなわけないじゃないですか。だって領主さまっていうのはボクたちの税金でブクブクと豚のように肥え太っていて、ボクたちの税金で全身に高価な装飾品をこれでもかと身に着けていて、ボクたちの税金で厳選した平民の美女たちを自分の寝室に呼んで行為にふける人間のクズではありませんか。でも、カンサイさんはどれもそんな領主さまの条件に当てはまらない。つまり、カンサイさまは領主さまではなく勇者さまという結論になるわけです。そうです、そうに決まっています! カンサイさまは絶対にあんな馬鹿でクズで最低で短小で包茎だった前領主さまの代わりの新領主さまのはずはありません!」


 君は前領主に両親と親類縁者を1人残らず殺されでもしたの?


 あと何で前領主の下半身事情を知っている?


 まあ、それはともかく。


 どちらにせよ、馬車の中にいるだけで対応できる雰囲気ではなさそうだ。


 なので僕を筆頭に女性陣たち、そしてハルミも馬車の外へと出た。


 すると1人の門番兵さんが威風堂々といった感じで近づいてくる。


「申し訳ありません。貴殿たちの身分を確認させていただきたいのですが」


 門番兵さんは兜を脱いで素顔を晒した。


 40代ぐらいの精悍な顔つきをした、2メートルを超える大男だ。


 よく見ると顔中に小さな傷がいくつも確認できた。


 まさに歴戦の猛者という雰囲気が、篝火かがりびの火の粉とともに漂ってくる。


 僕は前に出て門番兵さんと向き合った。


「ほう、これはまた中々の身体つき……ですが、武装していないところを見ると騎士ではありませんな。護衛を務める徒手専門の冒険者ですかな?」


 門番兵さんは僕の全身に視線を巡らせた。


 数秒後、門番兵さんは「それともただの盗賊か?」と目つきを鋭くさせる。


 はあ? 僕たちが盗賊? 何を言ってるんだ、この人は?


「控えおろう! このお方を誰だと心得る!」


 このとき、怒りを露わにしたのはクラリスさまだった。


「このお方の名はカンサイ・ウメダさま! このウメダ領の新しき領主となられた偉大な神のようなお方だ! そのお方に向かって何と無礼な口の利き方を――貴様こそ名を名乗れ! この下郎が!」


 クラリスさま、ちょっと落ち着いて。


 僕のことを想って言ってくれるのは嬉しいけど少し落ち着こうか。


「そ、その小僧がこのウメダ領の新しい領主さまだと……」


 一方、門番兵さんは大きく目を見開いて驚く。


 僕の正体を知って自分の態度がマズかったことを痛感したのだろう。


「新しい領主さまか……ハハハハハハハハハハッ!」


 などと思ったのは僕だけだったようだ。


 突如、門番兵さんは喉仏が見えるほど哄笑した。


「何をほざくかと思えば、新領主さまの名を騙るとは不届き千万! それに新領主さまの名前は〝カンサイ・ウメダ〟ではなく〝カントウ・ウメダ〟さまという名前だ! そして新領主さまはすでにこの街に入られ、屋敷におられるわ!」


 今度は僕のほうが寝耳に大洪水とばかりに驚いた。


 僕以外の新領主って誰?


 カントウ・ウメダってマジのマジで誰?


「ちょっと待ってください! 僕は本当に国王陛下からこのウメダ領の領主に抜擢されたんです。ほら、こうして国王陛下からの委任状もちゃんとあります」


 僕はシャツの内ポケットから委任状を取り出すと、中身を門番兵さんたちに見せつけるように開いた。


「ふん、俺たちの目は誤魔化せんぞ。そんなものは偽物に決まっている」


 えええええええええ――――ッ!


 グラハラム家の刻印もばっちり入っているんですけど!


 僕は一通り驚くと、ハッと思い出してクラリスさまを見る。


「そうだ! こちらの女性はグラハラム王国の第三王女のクラリスさまです! こんな人がいるのにまだ僕を信用できませんか!」


「それこそ信用できんわ! どうして第三王女さまがこんな田舎の領地に来る必要がある! やはり、貴様らは新領主さまの名を語る不届き者たちだ!」


 怒りを露わにした門番兵さんが、僕に人差し指を突きつけてくる。


「それに新領主さまは自分の身分を語る奴らが現われるかもしれないと言っていたが、本当にまんまと現れるとは飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのこと! どうせ貴様たちは山向こうを根城にしている〈セイキマツ団〉の一員で、その豪華な馬車もどこかの貴族から盗んできたんだろうが!」


 ええええええええええええええええええ――――ッ!


 おいおいおいおい、ちょっと待って!


 どうしていきなりそんな結論になるんだよ!


 それに〈セイキマツ団〉は全員が揃いも揃ってハゲ頭でしょうが!


 僕たちをきちんと見ろ!


 ハゲなんて1人もいないでしょうに!


 というか、僕たちをみてどうやったら盗賊団に見えるんだよ!


 馬車を盗んだって言うけど、だったら御者ぎょしゃさんがいるのはどう説明するんだ?


 馬車と一緒に御者ぎょしゃさんまで盗む盗賊団なんているはずないだろうが!


「違います! 私たちは嘘などついていません。本当にカンサイさまをリーダーとする領主パーティーなのです!」


 そうそう、ローラさんも言ってやって……うん? 領主パーティー?


「まったく、今からこれじゃとこの先が不安じゃな。とりあえず、門番兵どもよ。ここにおるカンサイは本当にアーカード王から貴族の称号をもらい、このウメダ領を拝領した新領主じゃ。言わばこれからウメダ領というダンジョンを攻略する領主パーティーのリーダーと言っても過言ではない。なのでお主らのような冒険者ギルドの酒場で飲んだくれておるモブ冒険者同然の存在価値しかない兵士どもはさっさと門を開けてわしらを通せ」


 あれあれ? カーミちゃんも何か言っていることがおかしくない?


「皆さんの言っていることはおかしいです!」


 そう言ったのはハルミである。


 おっ、まさか君からまともな意見が出てくるというのか?


 だとしたら、マジでごめん。


 君はまともなことを言える普通な人だったんだね。


「カンサイさんは領主パーティーのリーダーではありません! 僕のサポートを受けて魔王を倒す勇者パーティーの勇者さまなんです!」


 前言撤回、やっぱり君は頭のおかしな子だったよ。


「何をごちゃごちゃと言ってやがる! ただでさえ冒険者たちから近隣の山でS級の〈アイアン・ドラゴン〉の目撃情報があるっていうのに、これ以上俺たちの手をわずらわせるんじゃねえ! おい、この嘘つき盗賊団どもを1人残らずひっ捕えて牢屋にぶち込め!」


 そうこうしている間に、僕たちは剣を抜いた門番兵さんたちに取り囲まれた。


 僕は余裕の表情でため息を吐く。


 こうなったら仕方ない。


【神のツッコミ】を使ってチョチョイと門番兵さんたちを倒すか。


 などと思ったとき、隣にいたカーミちゃんが僕の袖をクイクイと引っ張る。


「カンサイよ、1つ言い忘れておったがお主の【神のツッコミ】スキルの力が使えるのは朝から夕方までの間だけじゃ。完全に日が落ちてからは一切使えなくなるので気をつけよ」


 うえええええええええええええええええええ――――ッ!


 ここにきて実は能力を使うのにも制約があります、みたいな展開はなしだよ!


 そして――。


 僕たちは門番兵さんたちに捕らえられ、牢屋に入れられたのであった。

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