第十話   そのポーター、変身した神様と濃厚な〇〇をする

「話を最初から整理しましょう」


 僕はおっさんに切り出した。


「僕ことカンサイは異世界からの転生者であり、転生後は大貴族の長男に生まれて何不自由のない人生を歩めるはずだった。しかし、あなたの職務怠慢のせいで僕は不幸で不遇な人生を歩む羽目になって16年が経過してしまった」


 おっさんは「うんうん」と首を縦に振る。


「でも、異世界にあるジョブ――【漫才】でしたっけ? そのツッコミ役とやらを前世の僕はしていたこともあり、僕はそのツッコミに似た平手打ちをされたことでスキルが発動した」


 おっさんは「うんうんうんうん」と首を縦に振る。


「だけど、まだ転生変更登記がそのままだったこともあり、僕のスキルは超万能な【神のツッコミ】スキルではなく、半ば欠陥状態な【ツッコミ】という中途半端なスキルが発動してしまった」


 僕は長ったらしい説明を目の前にいるおっさんに言う。


 ちなみにおっさんは、全身ボコボコな状態で地面の上に正座している。


 もちろん、ボコボコにしたのは僕だ。


「これで合ってますよね?」


「相違ございません!」


 それでは、と僕は冷酷な目でおっさんを見下ろす。


「あなたは僕が【ツッコミ】スキルを発動したことで自分の過ちに気づき、急いで本来の【神のツッコミ】スキルを与えるために世界の時間を止めて僕の前に大急ぎで現れた。これも間違いありませんね?」


「い、イエス・アイ・ドゥー」


 正直よくわからない返事だったが、とにかくこれで一件落着だ。


「じゃあ、さっさと僕に【神のツッコミ】スキルとやらをください」


「ぬははははははは、任せたまえ!」


 おっさんは今までの瀕死状態は何だったのかと、それこそ小1時間は問い詰めたくなったほどの勢いで立ち上がった。


「それでは早速、君に超絶万能で世界最強クラスの【神のツッコミ】スキルを与えよう! さあ、カンサイくん! その唇を俺に向かって突き出したまえ!」


 …………は?


 僕は耳を疑った。


 何を突き出せって?


「君の【ツッコミ】スキルを【神のツッコミ】スキルに上書きするためには、神様である俺とキスをしなければいけないのだよ。なので俺に唇を突き出すんだ」


 はあああああああああああああッ――――ッ!


 そんなこと一言も聞いてないぞ!


「まあ、言ってなかったからね」


 なぜか完全回復したおっさんは、僕にじりじりとにじり寄ってくる。


「いひひひひひ……ええやんけ、別に減るもんでもなし。覚悟を決めて俺とブチュッとしようや」


 ふざけるな、そんなこと死んでもするか!


 あんたみたいな全裸でハゲでデブなおっさんとキスをするくらいなら、いっそのことこの場で舌を噛み千切って自殺したほうが1000万倍マシだ。


 おっさんは困った顔で立ち止まった。


「うう~む、さすがに転生者に自殺されると俺の今期の査定評価に響いてしまう……そうだ!」


 おっさんは何かに気づいた表情を浮かべると、掌を上に向けた左手に右拳をポンと叩きつける。


「ようするに、今の俺の見た目と性別が嫌だからキスできないんだな。だったらこうすればどうだ?」


 おっさんは全身をコマのように回転させながら叫んだ。


「メタモルフォーゼ! 人間の女性にな~れ!」


 直後、おっさんの全身が黄金色の光に包まれた。


 あまりの眩しさに僕は両目を閉じる。


 10秒ぐらいだっただろうか。


 僕はおそるおそる目を開け、おっさんがいた場所を見つめる。


「うええええええええええええ――――ッ!」


 僕はあまりの衝撃に変な叫び声を上げた。


 無理もない。


 先ほどまで全裸でハゲでデブなおっさんがいた場所には、150センチほどの全裸の少女が立っていたのだ。


 もう一度、非常に大事なことなのではっきりと言う。


 僕の視界に飛び込んできたのは、12~13歳ぐらいの黒髪のストレートロングで健康そうな桃色の肌をした全裸の少女だった。


 人形のように整った可愛らしい顔立ち。


 ローラさんのような豊満なプロ―ポーションとは正反対なロリロリな体型。


 ぱっと見た感じだとムダ毛などは一切なく、それこそ股間のデリケートゾーンにも毛はまったく生えていない。


「うむ、こんなもんかの」


 見た目の印象とは異なる風変わりな物言いだったが、はっきり言ってそんなことは大陸のずっと向こうにあるという魔界の天気ぐらいどうでもよかった。


 黒髪のロリ娘に変身したおっさん――いや、心の中でもおっさんと呼ぶのはもうやめよう。


 おっさんというキーワードを思い浮かべると頭が混乱してくる。


 なので、僕は秒の速さでおっさんの姿を脳内からかき消した。


 そんなことをしていると、黒髪のロリ娘は裸体をまったく隠そうともせず僕にズカズカと歩み寄ってくる。


「さあ、カンサイ。わしと熱いキスをして超絶スキルを手に入れようぞ」


 僕は抵抗できなかった。


 間近で見る黒髪ロリ娘の美貌と甘い声の響きは、僕の理性を粉々に打ち砕くほどの想像以上の破壊力を持っていた。


 心臓が口から飛び出るほど動悸が止まらない。


 ついでに僕の股間の息子の暴走も止まらない。


 僕が石化したように硬直していると、黒髪のロリ娘は僕の顔を両手で掴んだ。


「え、え~と……」


 極度の興奮状態に陥っていた僕に対して、黒髪のロリ娘は脳みそがとろけそうなほどの笑みを浮かべた。


「ふふ、わしのことはカーミちゃんとでも呼んでくれ」


 黒髪のロリ娘ことカーミちゃんが両腕を引くと、僕の顔とカーミちゃんの顔がどんどん近づいた。


 やがて僕の唇とカーミちゃんの唇が触れ合う。


 軽く触れ合うとかいう生易しいキスではなく、互いの唇を奪い合うという言葉がしっくりとくるほどの濃厚なキスだった。


 あまりの高揚感に頭が真っ白に染まっていく。


 そんな僕の脳内に『ピンポーン』という音色が鳴った。


『カンサイのスキルバージョンがアップしました。これよりスキルが【ツッコミ】から【神のツッコミ】へと上書きされます』


 不思議な声――音声認識ガイドとやらがたずねてくる。


「これからあなたの人生に訪れる、すべての不幸や邪魔に対してツッコミを入れますか?」


 朦朧としていた意識の中、僕は無意識に答えた。


 入れてくれ、と。


 そして――時は再び動き出した。

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