第七話 そのポーター、予想外なピンチにおちいる
ちょっと待って、ちょっと待って!
捕縛するって一体全体どういうこと!
僕は天地が逆転するほどの衝撃を受けた。
「クラリスさま、お願いですから僕の話も聞いてください! 僕はあなたに嘘を言ってはいません! ほ、本当に単なるポーターなんです!」
僕の弁解も虚しく、クラリスさまはキッと僕を睨みつけてくる。
「おのれ……一度ならず二度までも私に嘘を吐くか。もう勘弁ならん――アリッサ! ユルバ! 前に出よ!」
クラリスさまが叫ぶと、2人の女騎士さんが集団の中から一歩前に出る。
1人は燃え盛る業火のような赤毛が特徴的な女騎士さんだった。
身長は今の僕と同じぐらいだろうか。
背中には2メートルを超える長槍を携えている。
もう1人は160センチほどの小柄な女騎士さんだ。
クラリスさまと同じ金髪だが、背中まで髪を伸ばしているクラリスさまと違ってうなじの辺りで綺麗に切り揃えている。
二刀流と言うのだろうか。
小柄な女騎士さんの左右の腰のベルトには、レイピアと呼ばれる細剣が1本ずつ吊るされている。
はっきり言って、2人はメチャクチャ強そうだった。
そして2人はメチャクチャ美人だった。
他の女騎士さんたちも美人揃いだったが、あの2人はクラリスさまと横に並んでも遜色がない。
「アリッサ・ロード! ユルバ・レイン!」
隣にいるローラさんは驚きの声を上げると、その場にぺたんと尻もちをついた。
「ど、どうしたの? ローラさん」
ローラさんは青ざめた表情を僕に向けてくる。
「あ、あの2人はアリッサ・ロードとユルバ・レイン。元S級冒険者で聖乙女騎士団の副団長たちです。〈剛槍〉のアリッサと〈二天剣〉のユルバの二つ名を持っている凄まじい使い手たちで、事実上の聖乙女騎士団の実力を担っていると聞きます」
ふ、二つ名持ち!
僕でも二つ名持ちのことは知っている。
S級冒険者の中でも、特に功績を認められた者だけに与えられる異名だ。
そんな凄い人たちに襲われたら僕などひとたまりもないだろう。
クラリスさまはアリッサさんとユルバさんにあごをしゃくる。
「アリッサ、ユルバ。この不届き物を捕縛せよ。そのさい腕と足の1本ずつは落としても構わん」
「マジッすか。姫さん」と、アリッサさんはにやりと笑う。
「…………………了解」と、ユルバさんはぼそりと答える。
ええええええええええええええ――――っ!
何で捕縛するだけなのに腕と足を切り落とすの!
むしろ余計に捕縛し難くなっちゃうじゃん!
僕は心中で激しくパニックを起こす。
そんな混乱の極みに達している僕に関係なく、クラリスさまは「どちらが腕で、どちらが足を落とすかはそなたらに任せる」と早々に引っ込んでしまった。
妙な空気が周囲に漂う。
僕VSアリッサ+ユルバ……みたいな図式が完全に出来上がってしまっている。
これはマズイ!
本当にマズイ!
明らかにアリッサさんとユルバさんの強さは破格中の破格だ。
ポーターの僕でも皮膚にビンビンと強さとヤバさが伝わってくる。
グレンさんとバトーさんが猫、アーノルド一家が鼠だったらアリッサさんとユルバさんは巨大熊だ。
それぐらいの実力差は軽くあるだろう。
なので僕は考えた。
この状況を打破するにはあれしかない。
僕は心の中で強く念じた。
お願いします、どこの誰かはわからない不思議な声の持ち主さん。
これまでのように、僕に『~にツッコミますか?』と質問してきてください。
そして僕に尋常ならざる力を再び授けてください。
すると僕の頭の中に『ピンポーン』という音色が響いた。
おおおおおおお、きたきたきた――――ッ!
このとき、僕は勝利を確信した。
この変な音色のあとに『~にツッコミますか?』という質問が飛んでくる。
それに僕が「入れる」と答えれば、神のごとき力を得てアリッサさんとユルバさんを倒せるはずだ。
しかし、変な音色のあとに聞こえたのは『エラー、エラー』という聞き慣れない言葉だった。
『――【ツッコミ】スキルの発動に失敗しました。キーワードを発言して再始動してください』
何いいいいいいいいいいいいいい――――ッ!
嘘だろおおおおおおおおおおおお――――ッ!
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