第三市 ロボット県民
風が吹く。草原が広がっていた。
草原には、古びた城のものと思われる瓦礫がところどころにある。
「ここが天空の城、松本……」
イチロー兄さんが唸るような声を漏らした。
そう、ついに長野県に辿り着いたのだ。
長い道のりの果てにようやく来たのだ。達成感が込み上げてくるが、不思議と実感というか感慨のようなものは湧いてこない。
ここが本当に長野県なのだろうか。
「見て」
モモちゃんが声を上げる。
彼女の視線を追うと、巨大な機械の塊が歩いていた。
丸みを帯びた胴体の上に、卵型の頭部がある。そこには三点設置されたスコープが回転しており、これで視界を確保しているらしい。
腕は長く伸びており、地面につきそうなほどだったが、反面、足は短い。よく見ると、キャタピラがあり、補助的に使用しているようだ。
これは、ロボット……か。
のそのそと歩くロボットの歩みが不意に止まる。その足元には崩れた鳥の巣があり、まだ幼い
まさか、あんな雛を排除するというのだろうか。そう思った時にはモモちゃんが駆け出していた。
「やめて、可哀想じゃない!」
そう言って、二倍ほどの背丈のあるロボットを引っ張って止めようとする。
しかし、ロボットは雛と巣を持ち上げると、そっと木の上に戻した。
それを見て、俺もモモちゃんもホッとする。
悪いロボットではなかったらしい。
もしかして、このロボットが長野県民なのだろうか。
「全国観光ガイドブックに記述があります。長野県民には清掃を黙って行う風習があると。
この長野県民とはロボット掃除機のことを指しているのだとすれば、辻褄が合うのでは……」
本をめくりながら、モモちゃんが指摘する。
これにはイチロー兄さんも頷いた。
「なるほど、ロボット掃除機こそが長野県民の起源。そうして多種多様な機能を持ったロボットへと発展し、今はこうして朽ちた天空の城で番をしているというわけか」
人間のいなくなった長野県を
なんだか、寂しいような、気の遠くなるような話だ。
「それで、イチロー兄さん、
俺が声をかけると、イチロー兄さんのメガネが光る。
「当然だ。軽井沢にいるという
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