第48話 安全な場所とは

「あなた様、ここから連れ出されてしまった人達は、無事なのでしょうか」


「外の世界で何をさせられているか、次第かな……きみは、優しいね。顔も知らない人達を相手に、慮ることができるだなんて」


「だって、あなた様の民で、お子のようなものでしょう。そうであれば、あなた様の妻である私にとっても子のようなものです。」


 子の心配をしない親はいないでしょう、と言って、私の母さんのことを少し思い出していた。この世界のどこかに母さんはいて、攫われてしまうかもしれないのだ。兄さんは兵士をしていたとはいえ、父さんと母さんは喧嘩だってしたこともないような、穏やかな人達だった。捕まった時だって、きっと何かの誤解だって言って、乱暴に小突きながら連れて行こうとする兵士達に抵抗は一切しなかった。彼らはある意味職務に忠実で、同僚である兄さんさえも厳しく引き立てていったのだ。……あの時の兵士たちも、この世界にいるのだろうか。


「うまく条件の合うときに、外の世界へ少しだけ手を伸ばすことができてね。その時に、連れ戻したりはしているよ。兵を向かわせたら彼らも囚われてしまう可能性があるから、僕が直々に向かうんだ」


「それは……あなた様も、大丈夫なんですか? お怪我は?」


 大丈夫だよ、と言って彼が触れてくる手が、柔らかくはないことは知っていた。タコがある手……兄さんが剣の鍛錬でタコを作っていたのと、触った時の位置がよく似ている。


「ここで霊や鬼を抑えているのは、単なるお飾りでも憐れみでもないんだよ。僕にそれだけの力があるから、やっていることでね。そんな僕が奪還に行くんだ、ちゃんと連れて帰るどころか、『ついで』もあるくらいだよ。この間も、そうやって連れて帰るついでに、もう一人追加で迎え入れることができたんだ」


 ひとつの世界を作り上げ、それを維持し、民を治める。強い力があると言われれば、確かに納得があった。


「そのお話、詳しく聞きたいです。あなた様の、お仕事のこと……もっと教えてください」


「うん、元気になってきてくれたようでうれしいよ。きみを怖がらせてしまうかと思って、あまり外のことは教えないでいたんだけど……少しずつ、話をしてあげる。外にも連れて行って、きみをみんなに見せびらかさないとね」


 彼はいたずらっぽくそう言って、皆に私を見せびらかす算段を考え始めた。


「皇帝夫妻で顔を現わすための、大きな祭りを開催しようか。きっと、きみにとっても楽しいものにしてみせるよ」


「ええ、楽しみにしていますわ」

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