第46話 明かされる、ほんの少し

 彼は私に触れたまま、「まったくきみに話さないのも、悪いものね」と言って、事情を少し教えてくれた。


「この世界にね、僕が沢山の霊と鬼たちを連れてきていることは、もう話したよね?」


「ええ、聞いたわ。あなた様が治めるこの世界の民として、霊や鬼が暮らしている、って」


 こくり、と彼は頷いた。「だからみたいなんだ」と小さく呟き、どこか呆れたような疲れたような顔になる。


「道士や術師の中には、その霊や鬼を使役する術を使う者がそこそこいる。そんな彼らは、僕が霊や鬼を連れて行ってしまったために困ってしまったんだ。使役されて荒事をしたくないという、穏やかな性質のモノ達は僕がこの世界に呼び寄せた。まあ、もちろんその人によるよ? 逆に報復とかそういうことをしたいモノ達は、僕が声をかけてもこちらに来ていないしね」


「……なるほど、だからここは皆が穏やかに暮らしているって杏杏が言っていたんですね」


「だから、術師の中にはこの世界に手を出し、自分が使役できるモノとして連れ去ろうとする人がいるんだよ」


 私が「同じ人間だったはずなのに」と小さく呟くと、彼も「そうだよね」と言ってくれた。


「僕はね、恨みを晴らしたい人は好きにすればいいと思っている。でも、そうでない人を使役するのはだめだと思っていたんだ。外では僕のことをどう思われているのか、たまに僕のことを狙っている人もいるんだよねえ……きみは多分、僕に巻き込まれちゃったんだと思う」


 きゅ、と彼の手が私の服ではなく、手を握った。


「本当はきっと、僕はきみのことを手放して、自由にしてあげるべきなんだと思う。他の霊と同じように、静かな暮らしを与えてあげてもいいんじゃないかって」


 さらに力が入れられて、少し痛みが走るほどだった。


「でも、僕はきみを手放せる気がしない。きっと、僕は一度きみを手放したとしても、すぐにきみのことを取り戻そうとしてしまうだろう。そもそも、こんなところできみのことを生き返らせたこと自体、そうやって取り戻したようなものだしね」


 だから、ごめんね。手放せないや、と言って、彼は私に口づけをした。唇に唇が落ちてきて、鼻にかかった息をしながらもう死ぬこともないのに息が苦しいと思う。


「んっ……」


「ふふ、かわいい。なんでも好きなものはあげるけれど、僕がきみを手放すことはないし、ずっと傍にはいてもらうからね。それは、変えられない。できることもしてあげるし、お願いも聞くけど、手は絶対に離さないからね?」


 彼の顔が陰になって表情が見えないのが、少し、怖かった。

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