第24話 人魚を観察する
彼からもらった人魚は鳴く。文字通りに鈴を転がすような音を立てて、時折、水の球を揺らすのだ。
「あら、あら。どうしたの?」
「りりりりりりり」
水の球の表面がさざ波を立てて、人魚が私の方に向いたのがわかった。ゆっくり起き上がって、寝台横の小机の引き出しを開ける。その中にはあの人がくれた綺麗な小箱が入っていて、中身は真珠で満ちていた。人魚のえさに、と言われて、上等な真珠を渡されたのだ。米を犬のえさにしていた、親戚のおばさんたちを思い出す。こういう贅沢はよくないと思うのだけれど、この子のえさはこれしかない、と言われたらあげるしかなかった。
「食べる?」
「りりっ」
短い赤い髪は毛先に流れていくにしたがって水色になって、星を象った黄色い髪飾りをしている。瞳の色と魚の尾は、髪と同じ赤色。よく見ると鬼の証なのか、額の髪の隙間には薄紅色の角が生えていた。ひらひらと揺れる長い尾は実利ではなく美しさを優先していた。薄く透き通った衣を一枚羽織っていて、時折、それを私へ見せびらかすようにくるっと回るのであった。かわいい。
真珠を一粒手に載せて、あの人に教えられたように水の球に手を入れる。すると、人魚はかわいらしい声で鳴きながら私の手のひらから真珠を持って啄み始める。小さな口では当然、真珠を飲み込むことはできない。だから、小魚が麩を啄むようにちょこちょこと真珠をつまみ始めた。
「かわいい子ですねぇ……名前は、迷っちゃってなかなか決められないですけれど」
「りりり?」
私が何か呟いていることに気付いたのだろう。意味は分かっていないようだけれど、私の方を見て首を傾げた。
「あなたの名前をどうしようかなって、考えていたのよ。どうしようかしら、ねー?」
「りりー」
鬼、とつくからには、死んでいるのだろうか。でも、この子はとても生き生きとして私の指にじゃれついて遊んでいた。あの人に聞けばどう作ったのかを教えてくれるのかもしれないけれど、私が理解できるかはまた別だった。理解できる気はしないけれど、私のために用意してくれた、その善意だけはわかった。それだけは、信じてみようと思えた。
「赤い花の名前とかもいいかもしれないわね。
私が色々呟いてみるものの、残念ながら人魚には「これがいい」という名前があまり思いつかないらしい。私がいくつかの名前を挙げてみても、目立った反応はなかった。どうしたものか、と考え込むのも楽しくて、彼が私に贈った理由がわかった気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます