ローズちゃんのゼロから始める最強無双〜薔薇の騎士が紡ぐ、闘う乙女たちの物語〜

なー

第一章 ローズちゃん0歳。悪魔を蹂躙する。

 

 ん?なんだ、この状況は?

 気がついたらベッドの上で横になっている。

 目の前には壮年の女性だ。

 格好から推測するに、お産婆さんかな?

 なんとも心配そうな顔で私を見詰めている。

 む、なんだ?身体が全然、指一本すらも動かせないぞ。

 瞼の瞬きもだ。目も瞑れずに視線すらも動かせない。

 目の前のお産婆さんしか認識出来ない。

 金縛りにでもなっているというのか?

 え、ちょっと待てよ。

 これは、呼吸をしていないんじゃないか?

 しかし、苦しいという訳ではない。

 何故だ?

 私はもう死んでいて魂になっているとでもいうのか?

 アレ?アレ?待て待て。

 さっきからお産婆さん、ピクリとも動いていないのでは?

 瞬きすらもしていないぞ。

 ずうっと微動だにせず、こちらを見つめたままだ。

 精巧に出来た人形だというのか?

 む、いや、これは、音もしないな。

 物音一つ、何も聞こえてこないのだ。

 これは、もしかして、時間が止まっているのだろうか?


『これ、そこな赤子よ』


 あれ?今のは確かに聞こえたが、誰の声だ?

 赤子とは?まさかの私のことなのか?


『そうそう、おヌシのことじゃ。赤子のヌシじゃ。

 ワシじゃよ。ワシワシ』


 ぬ?ワシワシだと?

 何かそんな詐欺があるというのを聞いたことがあるのだが。

 騙されるものか!

 ともかく名を名乗れ。

 まさか親戚を語る訳ではあるまいな?

 動けないからと侮ると、痛い目に遭うぞ。

 私はとんでもないスーパーパワーを秘めているのだぞ、多分、恐らくは、きっと、そうであるに違いない。


『威勢が良いのぅ。

 まぁ、落ち着け、赤子よ。

 ワシは全知全能の神ゼウスじゃ』


 え?神?本当?


『本当じゃよ』


 ワシワシ詐欺ではないのか?


『そんな訳あるか。

 まぁ良い。

 唐突だが、これよりおヌシに使命を下す。

 ちょっと時間がないので端的にまとめるが、黙って聞いて欲しいのじゃ』


 うむ。

 ごねたところで進まないだろうから良いぞ。


『話が早くて助かるぞ。

 早速説明しよう。

 まず、おヌシは今生まれたばかりなのだが、不幸な事に心臓を患っておったのじゃ』


 ほう。それは不幸だ。


『そして、その不幸な心臓は、出産の負荷に耐えられずに止まってしまったところを、時間を止めてワシが治してやったのじゃ。

 それで今に至る』


 ほうほう、それはどうもありがとうございます。


『で、だ。

 その見返りとして、ヌシにはやって貰いたい事があるのじゃ』


 ふむ、まぁ良いぞ。


『おお、即答か。本当に話が早いな。時間が無いので助かるぞ』


 この神懸かり的な状況を疑う余地も無し。

 命の恩人だ。

 借りは返すのが道理よ。

 それに、だ。

 何故だか分からないが、貴方のことが、他人の気がしないのだ。

 えらく身近に感じるぞ。


『まぁ、ワシの魂の三分の一を混ぜて癒したからな。

 その事も相成り、ヌシには神レベルの魔力と神眼に、ワシの記憶の一部も引き継いでおる。

 おヌシはワシの娘みたいなもの、いや、新たに誕生した末の女神じゃよ』


 え、そうなのか?

 神が父上なのか?

 それに私は女神、まさかの女、なのか?


『間違いなく女子おなごじゃよ。  

 まぁ、後は色々な英傑たちの叡智も宿っておるはずじゃ。

 細かい事は記憶を探ってくれ。重大な使命がそこでわかる。

 膨大な量があるから、じっくりと吟味して行動を起こすようにな』


 あ、ああ。とりあえずは記憶を確認しておくとしよう。


『人智を超えるとんでもない能力を宿しているが、間違った方向に進むことはあるまい。

 ヌシには神特製の正義の心を植え付けてある。

 その心は代々受け継がれていくのじゃ。

 ともかく、やり方は全て任せる。

 全力で生きてみせよ』


 了解した。ベストを尽くすよ。


『すまん、もう神力が尽きそうじゃ。

 時間だ。

 では達者でな。

 天界から見守っているからな』


 ありがとう。

 まぁ、その、父上もお元気で。


『天寿を全うした後に再び会おうぞ。月の女神、アルテミスよ』


 え、ああ。月の女神?アルテミスだと?


 …………


 いったか。

 ふむ。どうやら死んだら会えるみたいだ。

 どんな顔をしているのか、密かな楽しみにしておくとしよう。

 恐らくはヒゲを伸ばしたシワシワのジジイだな。

 声がジジイだったし。

 そんなことよりも、私は女だったのか。

 どちらかというと女性の方が好みな気が。


 …………


 いやいや、男も好きだな。

 男も女も両方好きだ。大好きだ。

 もちろん性的にだ。

 生まれながらにしての性欲を感じるぞ。


 うーむ。それにしても、私の好みか。


 ぬ?アレ?


 男女問わず、中々の下から壮年の年上まで全然イケるな。

 痩せてても太っていても問題無しだ。

 まぁ、美しくて可愛いらしく、そしてカッコいいに越した事はないが。

 それでもどちらかと言うとに過ぎない。

 ストライクゾーンが途轍もなく広すぎる、そんな気がするぞ。


 …………


 ま、いいか。

 そんなものは楽しいに決まっているではないか。

 幸せになるのが確定だぞ。

 ラブアンドピースで生きていくとしよう。


 お、どうやら止まっていた時間が動き出したようだ。

 目の前でゴクリ。

 お産婆さんが喉を鳴らす音が聞こえてきた。

 我が人生のスタートだ。

 む、背後に気配が。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 荒々しい呼吸を繰り返している。

 ぬ?!こ、これは!

 とんでもない手練れよ。化け物の類いだ。

 寝返りも出来ずに親指をおしゃぶりする事しか叶わないこの赤子の身では対処不能である。

 早速のピンチなのか?


 ……否だ。


 後頭部に感じる暖かな視線に、そこから溢れ出る感情。

 慈しみを注ぐ愛の心、それは、慈愛だ。

 という事は母上様だな。ホッとした。

 お疲れ様でした。

 産んでくれて、どうもありがとう。


 ふむ。まぁとりあえずは。


 怪訝な顔でコチラを見つめている、お産婆さんの対応をしようではないか。

 私が泣かないから心配しているのだろう。


 どれ、ここは一つ、立派に泣いて安心させてやろうぞ。


「………………………ぉぎゃぁ……」


 完璧に決まったと安心したところで、私の意識は消失した。


 後々の月の女神アルテミスとなる薔薇の、長い長い壮烈な一日目が始まる。


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