地面
八瀬女
第1話
友人が死んだ。中学生のときから仲良くしていて、親友と呼べる存在で、最後は自殺だった。葬式に参加したやつは皆んな口を揃えて、自殺するようなやつじゃなかった、いつも明るくて良いやつだったと言っていた。
放心状態で家に帰った。遺族や他の友人たちとどんな話をしたかも覚えていない。とにかくその日は家に着いてすぐに寝た。
朝起きると、死んだ友人が居た。自分の目を疑った。もしかしたら、昨日の葬式は悪い夢で、本当は生きているんじゃないかと、そう願った。けれど、あいつは一言も喋らない。いくら話しかけても、ただそこに立って微笑んでいるだけだった。
それから数ヶ月たったある日、母が死んだ。父は既に他界していて、女手一つで俺を育ててくれていた。たった数ヶ月で大切な人が2人も亡くなってしまって、俺は不幸を振り撒く、生きているだけで迷惑をかける存在なように感じた。たかだか2人いなくなっただけで大袈裟に感じるかもしれないが、俺にとってはとにかく大事な存在だった。自分が居たら、更に他のやつにも迷惑を掛けるような気がして、俺も死ぬことを考えた。
「そんなことしても、何の意味もないよ。誰のせいでも無いんだ」
急にあいつが口を開いた。名前を呼んでも、その日あったことを話しても、何も言わなかったあいつが。
「誰かのせいじゃないことは分かってる。母さんだって結局は病死で、医者にだってどうにもできなかった。それでも、誰かに責任がないと、かわいそうじゃないか。無意味に死んだことになるんじゃないのか」
「そんなことないよ。お前の母さんだって、最期は安らかに亡くなったし。これからのお前を応援してるって言ってたじゃないか。誰もお前が死ぬことを望んでいないよ」
「本当か?」
「本当だよ。俺が保証する。嘘ついたところ、見たことないだろ?」
嘘だ。こいつは意味のある嘘はつかないが、意味のない嘘なら誰にも負けないくらい言っていた。それでも誰からも好かれるようなやつだった。でも、
「お前がそういうなら、信じてみるよ」
また喋らなくなった。
それからの俺は、とにかく真面目にしていた。大学生らしく遊ぶこともあまりせず。講義を受けて、バイトをして、たまに友達と飲みに行く。そんな毎日を過ごしていた。いつしか彼女が出来た。俺には勿体無いくらい美人で優しくて、毎日が幸せだった。
「別に好きな人が出来た」
そう言って俺は振られた。その日はとにかく泣いた。家ではあまり飲まないが、その日限りはたくさん呑んだ。
「あんまり気にするなよ。他にいい人がいるよ」
また急に、あいつは話しだした。
「でも俺にはあいつしかいなかったんだよ。なんで俺ばっかり不幸な目に遭うんだ」
「それは違う。この世には飯も食えない子供だっているんだ。そんな子たちと比べたら、まだ幸せな方だと思わないか?」
「そんな話はしてないだろ。今俺が悲しんでるんだよ。他人の方が不幸だからって、自分が幸福なわけじゃないんだ」
「今はとにかく泣いときなよ。朝起きた時には、忘れているよ」
俺は気がついたらベッドの上だった。
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