殺し屋の憂鬱

ハクセキレイ

殺し屋の憂鬱

 ターゲットを排除して、一息つく

 今日の仕事は終わりだ。

 仕事の後は、いつも虚しくなった

 殺し屋という仕事は、意味があってもやりがいはない。

 命を奪う、たったそれだけ。


 仕事の依頼の理由は様々だが、全て下らないものだった。

 復讐だとか、正義だとか、正当な権利だとか。

 最も私には関係のない話。

 金がもらえればそれでいい。

 そういう私も、周りから見れば下らない人間なのだろう。


 証拠の写真を取った後、いつもの場所に向かう。

 別にそこに行ったからと言って、何かが変わるわけではない。

 だがいつも自然とそこに足が向くのだ。


 目的のビルの前に、煌々と光る自動販売機がある。

 いつものように、いつもの缶コーヒーを買う。

 

 このビルは、バブルの時に建てられたらしいが、いまでは誰も住む人間はいない。

 メンテナンスもされておらず、所々壁にひびが入っている。

 エレベーターもあるが、もちろん動いていない。

 もはや電気が通っておらず、電灯などもってのほか。


 私はこのビルに親近感を覚えていた。

 必要されたのに、用が済むと邪魔者扱いする。

 私も口封じで殺されそうになったのは一度や二度ではない。

 でも私はこうして生き残っている。

 このビルと同じように。

  

 建物に入り、窓から差し込む光だけで、階段を上っていく

 懐中電灯は使わない。

 なぜかと聞かれれば、そんな気分じゃないと答えるだろう。

 階段を上り切り、屋上のカギのかかっていない扉を開ける。


 とある建物の屋上。

 私だけの秘密の場所。

 そこからは見下ろす街も、見上げる月や星も、私が日々神経をすり減らしながら惰性で生きている世界と同じとは到底思えないほど綺麗に映った。

 だから私はここにいる時間が大好きだった。

 どんなに冷たく汚い世界でも、ここから見れば美しく見えたから。


 その景色を眺めながら、缶コーヒーを飲む。

 ここで飲む缶コーヒーは格別だ。

 もし仕事にやりがいがあるとすれば、ここでうまいコーヒーが飲めることだ。

 これが生きるってことなんだろう


 しばらく景色を堪能たんのういていると、遠くの山の方が明るくなっていることに気づく。

 気がつけば朝になっていた。

 長いこと景色を眺めていたらしい

 屋上から出て階段を下りていく

 楽しい時間は終わり。


 また今日が始まる


 

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殺し屋の憂鬱 ハクセキレイ @hakusekirei13

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