A5ランク肉

平良殿

第1話

 ぼくには血のつながらないお父さんとお母さん、お姉ちゃんと弟がいます。

 お父さんはいつも笑っていて、楽しくて、とてもやさしいです。ぼくの好きなものをくれます。

 お母さんは怒ると怖いけど本当はやさしくて料理が上手です。ぼくのたんじょう日にはケーキを焼いてくれます。

 お姉ちゃんはみんなの中で一番やさしいです。ぼくといちばん遊んでくれます。ぼくはお姉ちゃんが大好きです。

 弟はこの前生まれたばかりで、まだ言葉もうまく話せません。

 ぼくはお兄ちゃんになったからしっかり弟を守ろうと思います。

 弟とお話しできる日が楽しみです。


 シグマはそこまで考えてからウーンと唸った。明日はみんなの前で家族について話さなければいけないのだが、どうにもうまくまとまらない。話題を弟に絞っても、終わりがフワフワしてしまってどこで「おしまい」を言えばいいのか分からなくなってしまった。

「シグマくん、ちょっとどいてくれるかな?」

 掃除中だったサーヴマが申し訳なさそうに眉尻を下げて頼んでくる。彼女はいつもそうだった。綺麗好きで、掃除ばかりしていて、そしてシグマのことを尊重してくれる。

「お姉ちゃんのせいで忘れちゃったじゃん」

 床から退かず、むしろ大きくて足を伸ばして文句を口にすればサーヴマは明らかに困り果てた様子で「シグマくん」と名を呼んだ。掃除機を持ったまま立ち尽くす彼女を少しだけ無視したあと、わざと大声で呟く。

「しょうがないなぁ」

 立ち上がり、部屋の隅に移動した。

「ありがとう、シグマくん」

 ふんわりと柔らかな笑みを浮かべ、サーヴマが掃除を再開する。彼女の鼻歌を聴きながらほんのちょっぴり内省した。サーヴマのことは好きだ。それなのに、彼女の困った顔や、わがままを許す姿が見たくて近頃どうにも意地悪をしてしまう。

 これじゃいけない。ぼくはお兄ちゃんになったんだ。お父さんのように立派な大人にならないと。

 シグマは気持ちを新たにして「お姉ちゃん」と声を上げた。サーヴマは掃除の手を止めず「なぁに」とのんびり返事する。

「ぼくも手伝うよ」

「いいのよ。これは私の仕事なんだから」

「じゃあ今日からぼくの仕事にする」

 サーヴマはクスクス笑った。

「シグマくんは子供なんだから。仕事なんてしなくていいの」

 いつもの決まり文句にシグマは口をつぐんだ。シグマがどれほど背伸びしたところで、実年齢ばかりはどうにもならない。それでもちっぽけな反抗心から「お兄ちゃんになったよ」とこぼした。しかし、サーヴマの耳には届かなかったらしい。軽快な鼻歌が続く。

 しばらくその旋律を楽しんでいると不意にサーヴマが歌を止め、ドアを見た。ほぼ同時にドアが開き、シグマの父と母が入ってくる。

「お父さん、お母さん!」

 立ち上がって父に駆け寄れば彼はシグマを抱き上げて高く持ち上げた。

「シグマ! 元気にしてたか?」

「してたよ。お父さんは? 今度はどこに行ってたの?」

「そうかそうか。元気にしてたか」

 相変わらず、父はシグマの話を聞いてくれない。彼はニコニコと笑いながらその場で一回転し、シグマを振り回した。視界と頭の中がぐるぐる回る。それは床に降ろされても続いた。ふらつく彼の頭を父の大きな手がぐりぐり撫で回す。母は呆れた顔でサーヴマに真っ白なトレーを手渡した。

「サーヴマ。今日の食事よ。何かおかしなことはなかった?」

「何もありません。バイタルサインセイジョウ、イジョウコウドウナシ、ストレスチセイジョウハンイナイです」

 トレーに乗っているのがペーストだと気づき、シグマの気分は落ち込んだ。しかし、あまり顔を見せない父母の手前、落胆は飲み込む。父がしゃがみ込んだ。

「いい子にしてたシグマに、ちょっと早いがクリスマスプレゼントだ」

 父が差し出してきたのは少し汚れたボールだった。サッカーボールというやつだろう。サーヴマが見せてくれた映像にそういうものが出てきた。

「わぁ! ありがとう、お父さん!」

 即座に喜んだ顔を作り、シグマはさも嬉しそうにボールを受け取る。大切そうに抱きしめれば父は満足げに頷き、サーヴマを見た。

「サーヴマ、サッカーボールでの遊び方を教えてやれ。運動場への持ち込みも許可する」

「はい。タイショウドウガヲケンサク。ショウニンヲヨウキュウします」

 父の前に四角い光る板が浮かび上がる。彼は光る板の上で人差し指を滑らせた。隣の母を見やる。

「問題ありそうか?」

「なさそう。あ、これはいいんじゃないかしら。プロサッカー選手の育成方法」

「トウジンヨウじゃないか。参考になるのか?」

「同じニンゲンだもの。変わらないわよ」

 母の指が板を叩く。

「初心者のためのサッカー講座第一回目がショウニンサレました」

 父母とサーヴマはよく分からないことを話し続ける。つまらなくてシグマは父の服の裾を引いた。彼はすぐに気づき、穏やかに目を細めてシグマの頭を撫でる。

「気に入るといいな」

「もう気に入ったよ」

 父の足に額を押し付ける。父はハハと笑い、ちょっと乱暴にシグマの髪の毛を掻き回した。きっちり三回掻き回すと彼の手が離れていく。

「それじゃあシグマ、また今度な」

 背中を叩かれ、シグマもしぶしぶ離れた。手を振る父に向かって小さく手を振り返す。二人はそれで満足したらしく、振り返ることなくドアの向こうへと去っていった。置いていかれたシグマはボールをぎゅっと抱きしめ、顎を乗せる。思ったよりも硬い感触が伝わった。

「シグマくん、ご飯にしましょうか」

「……うん」

 サーヴマが手を叩くと床からテーブルと椅子が生えてきた。彼女は大きな四角いテーブルの上に母から受け取ったトレーを置く。一つをシグマの場所に、もう一つをサーヴマの場所に並べると、シグマの椅子を引いた。

「シグマくん。ボールは床に置いて、食べましょう?」

 シグマは顎を引き、そっとボールを足元に置いた。サーヴマに進められるまま椅子に座り、真っ白な四角い皿とそこに盛られた食べ物を見下ろす。

 四つの場所に仕切られた皿にはそれぞれ、右上に野菜のペースト、左上に肉のペースト、右下に日替わりのペーストがあり、左下にはブロック型の粉物が置かれている。そこへサーヴマが牛乳の入ったコップを持ってきて、シグマのご飯、ストレスチセイジョウハンイナイが完成だ。シグマはこの料理が好きじゃなかった。肉と野菜のペーストは毎日同じ味。日替わりのペーストは非常に薄味で一口食べただけで飽きが来る。粉物に至っては硬すぎて味どころでなく、シグマは一口齧るのに精一杯だ。ブロック一塊を食べ終わる頃には顎が疲れ切っているほどである。その上パサパサしているので、お腹がゴロゴロするとわかっていても牛乳を飲まざるを得ないのだ。

 ストレスチケイカイレベルが食べたいな、と思いながらスプーンを手に取る。ストレスチケイカイレベルならデザートがつく上に、その日食べたい味を選べ、そして粉物も柔らかなパンに変わる。

「……ねえ、シグマくん。もしかしてご飯のこと嫌い?」

 サーヴマが恐る恐る聞いてくる。シグマは力強く頷いた。

「嫌い。いつも同じ味なんだもん」

「でも、このご飯は栄養たっぷりで、シグマくんが大きくなるのに一番いいんだよ」

「ストレスチケイカイレベルは? ぼく、あっちのご飯の方が好き」

「あれはね、ちょっとだけ栄養バランスが悪くって、毎日食べるのは良くないの。たまにならいいんだけど」

「美味しい方がぜったい身体にいいよ」

 シグマはスプーンを置き、皿をグイッとサーヴマの方へ押しやる。サーヴマは少ししか減っていない料理を見て眉尻を下げた。

「もう食べないの? まだたくさん残ってるよ?」

「要らない。食べたくない」

 グゥとお腹が鳴るのをシグマは無視する。何か食べたい気持ちはあるが、一口食べるたびに嫌な気持ちが広がってもう食べたくなかった。

 サーヴマはしばらく考え込んでいた。俯き、視線を彷徨わせている。やがて顔を上げると何かを決意したようにゆっくり口を開いた。

「……ちょっと大人のご飯なら、食べる?」

「大人のご飯?」

「そう。本当はシグマくんより大きな子が食べるご飯」

 思いもしない展開にシグマは身を乗り出しそうになった。飛びつきたい気持ちを堪えて腕を組み、そっぽを向く。

「……お姉ちゃんがどうしてもって言うなら、試してみないこともないかな」

「どうしても。お願い」

 手を合わせて片目を瞑られ、シグマはついニンマリしてしまった。机を両手で押して椅子を傾けながら「仕方ないなぁ。試してあげるよ」と答える。

「ありがとう。シグマくん大好き」

 サーヴマは嬉しそうに笑い、壁に向かった。白壁を何やら叩くと帽子のようなものが出てくる。金属で出来ているらしいそれはどうみても食べ物には見えない。近づいてくるサーヴマを瞬きを繰り返しながら見上げ続けた。

「ちょっとチクっとするよ」

 帽子が頭に乗せられる。チクッとは本当にちょっとだったらしく、痛みらしい痛みは感じなかった。少しだけ重くなった頭を動かす。サーヴマの前に光る板が浮かんでいた。

「シグマくん、なに食べたい?」

「……ストレスチケイカイレベル」

「この前食べたカレー味のやつかな?」

「うん、たぶん」

「そっか。シグマくんはカレー味が好きなんだね。じゃあカレーをデフォルトセッテイにするね」

「お母さんのケーキも好きだよ」

「うんうん。じゃあケーキも追加しとくね」

 サーヴマは話しながら光る板を叩く。「これでよし」と頷いて光る板を消した。そのまま向かいの席に戻ってしまう。

「ねえ、大人のご飯は?」

「ふふ。そのままさっきのご飯を食べてみて。あ、粉物は最後にしてね」

 沸き起こる不審を頭を振って追いやる。あのサーヴマがシグマを騙すはずがない。遠ざけた皿はそのままにスプーンで肉のペーストを少しだけ掬い上げ、口に放り込んだ。目を見開く。

「おいしい!」

 驚いたことに、この前食べたストレスチケイカイレベルと同じ味になっている。いや、あの時よりもずっと美味しい。皿を引きずり寄せ、もう一口。やはり同じ味だ。食べるほどに幸せな気持ちが広がる。あっという間にペーストを食べ終えてしまった。その頃にはシグマもこの粉物が何の味になっているのか察していて、ドキドキしながら齧り付く。やはり、甘いケーキの味がした。硬いブロックを噛み砕いているのに、頭にはスポンジの柔らかさが伝わる。

「お母さんのケーキの味だ」

「気に入った?」

「うん! 明日から毎日これにしてよ!」

「そうねぇ。シグマくんがいい子にしてたら特別にあげてもいいかな」

「ぼく、いつもいい子にしてるよ。今日だって発表練習したし」

「ふふ、それもそうね。じゃあ後で発表を聞かせてくれたら明日も用意してあげる」

 サーヴマは優しく微笑むと粉物を両手で持って齧り付く。美味しそうに噛む姿を見つめながら、シグマも持ち方を姉に合わせた。一気に頬張りたい気持ちを堪え、サーヴマのような丁寧かつ綺麗な食べ方を真似した。


 その日からシグマの生活の中心は大人の料理になった。勉強や発表はもちろん、サッカーをはじめとした運動も手を抜かない。お風呂ではしっかり身体を洗い、歯磨きも一本一本丁寧に。そうして、その日のシグマがどんなに立派だったかサーヴマに訴えるのだ。サーヴマはたいそうシグマを褒めた後、大人の料理を振る舞ってくれた。シグマがカレー味に飽きてくるとウインナー味に、その次はオムライス、ハンバーグ……。ペーストのドロッとした食感が嫌だと文句を言えば、カリカリ、パチパチ、パリパリとシグマがこれまで味わったことのない食感に変えた。

 シグマはその日の気分で多種多様な味と食感をサーヴマに要求したが、一方で粉物だけは母のケーキの味から変えなかった。それがシグマにとって世界で一番美味しいものだったからだ。

 一度、こんなに不思議な料理をどうやって作っているのかサーヴマに聞いたことがある。彼女は『デンキシンゴウヲノウに送ってるの』とシグマにはよく分からない答えが返ってきた。もっとも、この疑問は大人の料理の前では瑣末なことで、舌鼓を打つうちに彼は質問したことすら忘れてしまった。


 ふわふわと楽しい気持ちのまま、シグマはサッカーボールを床に叩きつけた。バァンと跳ねたボールが宙を舞い、また床に落ちて転がる。それがまた楽しくて、シグマはボールを蹴った。真っ白な壁と床を白黒のボールが駆け回る。ボールは掃除するサーヴマの頭上を通り過ぎて扉の前に落ちた。シグマがアハハハと笑いながら取りに行くと、扉が開いた。父と母、それに母に抱えられた弟が顔を出す。

「シグマ、元気にしてたか?」

 白い箱を片手に父が両手を広げる。抱っこだと気づき、シグマはボールを脇に蹴飛ばした。勢いよく父に飛びつく。

「してたよ!」

「そうかそうか、元気にしてたか。この前のサッカー、よく出来てたな。みんな褒めてたぞ」

 頭を撫でられ、嬉しくなった。ブヨブヨと柔らかい父の首に顔を埋める。

「サーヴマ、食事の準備をしてくれ」

「かしこまりました」

 父から白い箱を受け取り、サーヴマが去っていく。その動きを目で追った。彼女は部屋の中央で立ち止まると迫り上がったテーブルの上に箱を置く。

「今日はシグマの誕生日だからケーキを焼いたのよ」

 母が笑う。ケーキ。シグマは少し考えて、それが一番好きな食べ物であることを思い出した。

「ぼく、おかあさんのケーキすき!」

「ずいぶんはしゃいじゃって。シグマは本当にケーキが好きね」

 母は暴れる弟を床に下ろす。弟はフオォンと鳴くとボールに向かって走り始めた。シグマはそれらを一瞥し、自分の椅子に座る。頭の中はもう食事のことでいっぱいだった。

「デルタヨリモチノウシスウが下がっているわ」

「ヒンピョウカイは問題なかっただろ。デルタヨリモヒョウカハタカイぞ」

「カシコサモブランドよ。コウキュウロセンではムシデキナイわ」

 父と母の話し声を聞いているだけでシグマは嬉しくなり、フォークを握り締めながら二人に笑いかけた。二人は軽く手を振って笑い返すと、また小声で話を再開する。

「はい。シグマくん、どうぞ」

 差し出された白い皿には三角に切り分けられたケーキが置かれている。真っ赤な苺に手を伸ばし、頬張る。甘酸っぱい。シグマの好きな味だ。シグマは目を瞑りながらバタバタ足を振り、それから首を傾げた。何かが違う。

 もう一口分を切り取って口の中に放り込む。歯には柔らかなスポンジの食感が伝わり、舌にはショートケーキの甘い味が広がる。いつも食べている母のケーキの味だ。美味しい。

 美味しいが、嬉しくない。

 噛む速度が落ち、フォークを持つ手からから力が抜ける。サーヴマが覗き込んできた。

「どうしたの、シグマくん。大好きなケーキだよ?」

「ちがう、すきじゃない」

 フォークを置き、サーヴマに突っ返した。そうだ、こんなのは母のケーキではない。シグマは確信した。母のケーキは一口食べると幸せな気持ちになるのだ。こんな何もないモノが母のケーキのはずがない。噴き上がる激情のまま、シグマはドンと両拳をテーブルに叩きつけた。

「おかあさん! おかあさんのケーキたべたい!」

 サーヴマが困り果てた顔でケーキを差し出そうとするのでシグマはもう一度それを押し返した。

「ちがう! これちがう!」

 伝わらないもどかしさから涙が込み上げてくる。ドンドンとテーブルを叩いて頭を左右に振った。

「タイセイがついてきたのかしら。食事の回数を減らしたら?」

「それだとストレスチガタカクなる。もうすぐシュッカなんだし、それまでは伸び伸び自由に過ごさせてやろう」

 父母が小声で話し合う中、サーヴマが大人の料理を持ってきた。彼女はそれをシグマに被せて「ホルモンシュツリョクサイダイ」と唱える。聞き慣れたそれにシグマは目の色を変え、ケーキを鷲掴んだ。かじりつけばいつもの母のケーキの味がする。目の前が赤くなるほどの幸福感に笑顔が溢れ、手の中のケーキを貪り食った。途中、自分の指も齧ってしまったが、痛みはなく、また苺の味がして美味しかったので無視した。

「にんにん」

 足元で弟の声がする。見下ろせば、ボールを抱えた弟が顔の真ん中に空いた大きな穴を収縮させていた。小さな目でケーキを見つめながら、穴の奥で鋭利な歯を覗かせている。

「だめ、にーにの」

 シグマが首を振るも、弟の視線は逸れない。シグマは大いに悩み、結局、手の中に残っていたケーキを弟に差し出した。

「あげる」

 弟の灰色の鼻がぐにょんと伸び、ふんふんとケーキの匂いを嗅ぐ。

「ぼく、にーにだもん。がまんする」

 弟に食べさせてあげようと手を伸ばした時、母が弟を抱き上げた。

「こーら、ニンゲンさんの食べ物は食べちゃダメよ」

 弟はフシュフシュと不満げに鳴きながらも、鼻を引っ込めた。シグマもまた、残念なような、ホッとしたような気持ちで手を引っ込める。手についたクリームを舐め取った。

「それじゃあ、シグマ。また来るよ」

 シグマの頭を一撫でし、父は母たちを伴ってドアへと歩いて行く。

「子供はニンゲンの言葉がわかるのかな」

「そんなわけないでしょ」

 母の肩越しに弟がサッカーボールを投げた。黄色の目を細めながら彼は「にんにん」と笑う。シグマはピンときて、大きく手を振った。

「うん、つぎ、いっしょにあそぼ!」

 シグマが言い終わる前に扉は閉まり、彼らの姿は見えなくなった。シグマはサッカーボールとグチャグチャのケーキを見比べた後、ケーキを頬張る。それきり、彼はサッカーボールを拾いにいくことを忘れた。



 数日後、電光掲示板には人間の子供の映像が流れていた。子供は黒板の前に立ち、チョークを使ってスラスラと数式を解いた。その次は草原でサッカーボールを蹴る。人間用コミュニケーションロボットと共に美しい所作で食事をし、人間語で家族をテーマにした小説を発表する。映像が切り替わり、子供の暮らした部屋、育成施設、食事が映し出された。彼がどれほど素晴らしい環境で過ごしたのか。生産者であるョウマツァが語る。その証拠として、子供が生まれてから昨日までのストレス値が表示され、掲示板を見上げていたモノたちはジジジとどよめいた。彼らの指が空中ディスプレイを叩き、そのたびに現在価格が更新されていく。

 落札を諦めたモノがため息をこぼしながら電光掲示板から視線を外した。彼の横には解体と洗浄を終えた人肉たちがズラリと並んでいる。A5という等級印を一瞥し、ソレは次の肉の紹介を待った。

 スピーカーからは未だにョウマツァ一家とコミュニケーションロボットの声が流れている。彼らは言葉を尽くして客に語り続けた。

 素晴らしい肉質のため、我々がどれほど愛情を持ってこの人間を育てたのか、と。

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