億万長者の小さな家

マツダセイウチ

第1話

「おい、ビル?ビルじゃないか」


そう呼ばれて、ひょろりとした背の高い、白っぽい金髪の男が振り向いた。

背後にいた、小太りでひょうきんそうな顔をした男を見て、懐かしそうに微笑んだ。


「マークじゃないか。久しぶりだな。ハイスクール以来か?」

「ああ。懐かしいな。テレビ見たぞ。宝くじに当たって資産10億ドルだって?」


アメリカでは宝くじに当たった人間はテレビ出演のオファーが来ることがある。ビルも例外ではない。彼が1日にして億万長者になったことは多くの人々が知っている。


「今日はどうしたんだ。里帰りか?」

「いや、ここに住んでるんだ」

「こんなド田舎にか?ニューヨークでもマンハッタンでもどこにだって住めるじゃないか」

ビルは自虐的にふっと笑って答えた。

「宝くじに当たった当初は浮かれて都会の豪邸に住んでたんだが、何だか落ち着かなくてね。結局地元に帰ってきたってわけさ」

「へえ。恋人は?」

「都会にいた頃はいたんだが、地元に戻るってなって喧嘩になって別れた」

「じゃあ今はロンリネスなんだな」

「ああ。俺にはセレブな生活は合わないよ。お金はあるし、ここでのんびり優雅に暮らすのが一番だと思ったんだ」

「ああ、この街は洒落たものは何にもないが、景色はいいし飯もうまい。のんびり過ごすにはうってつけの場所さ。俺は蟻のようにあくせく働かなきゃ暮せないがな」

そういってマークはガハハと豪快に笑った。ビルもつられて笑った。マークの茶目っ気のある性格はハイスクールの頃から変わっていなかった。


「そうだ、せっかく会えたんだし、今からうちに来ないか?ご馳走するよ」

ビルの提案にマークは顔を輝かせた。

「それはいい。ぜひ行かせてもらうよ。うちからとっておきのワインを持っていく」

ビルは顔の前で手を振った。

「手土産ならいらないよ。マークなら手ぶらだろうが大歓迎さ。それにワインは唸るほどあるから、むしろ在庫を減らして欲しいくらいだよ」

「そういうことなら任せておきな。樽で用意しておいてくれ」

そういってマークは胸をドンと叩いた。それをみてビルも大笑いした。

「決まりだな。じゃあ乗ってくれ」

そういうとビルは近くに停まっていた白いサンダーバードの助手席にマークを座らせた。

「変わったベンツだな。白いし車体も短い」

マークのとぼけたセリフに苦笑しながらビルは言った。

「この街ならこの車で十分さ。ベンツなんて悪目立ちして恥ずかしいよ」

「家はどこなんだ」

「すぐそこだよ。ここから車で10分くらいのところさ」

そういうと、ビルはエンジンをかけ、サンダーバードを発進させた。2人を乗せたサンダーバードは軽快な音を立てて寂れた商店街から去っていった。

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