ポテトサラダ

ノーネーム

第1話 海底の夢

「赤橋巴」は、秋の日差しの中、或る街の公園の山頂にある滑り台から、

はしゃぎながら滑り落ちていた。

「おとーさーん!あははは!」

「30代前半に見える男」は、「巴」を滑り台の下から迎える。

巴の背後から射す日差しは、とても眩しかった。

「おー、巴、気ぃ付けろよー!」

「男」もまた、笑っている。

「誰か」が、二人の姿を写真で撮っている。今時珍しい、フィルムカメラだ。

きっと、この写真も、小さなアルバムに収められるのだろう。

「初老の男女」が、三人の姿を見て、笑っている。

落葉のなか、みな幸せそうだ。

こんな光景はまるで、夢みたいだ。

──ああ、夢見た。頭痛いんだ。

…お父さん。お母さん。…姉貴。ごめん。

…こんな俺でごめん。

…誰の期待にも応えられなくて、ごめん。

…じいちゃんばあちゃん、ごめん。

「男」は、畳の上で、痙攣しながら言葉を絞り出す。

「ご、め、ん…ご、め、ん、なっ、さっ…いっ…」

男の目から、涙が一滴、畳に絞り落ちる。

男は、もう何度目かわからない、‘‘危険な堕落‘‘に甘んじていた。

そしてまた、今日も夢に落ちていった。

夢の中。「巴」と呼ばれた子供は、いつの間にか少女の姿になっていた。

「巴」は微笑む。

「お父さん。」

「…」

「眠ったまんまでいいよ、ねぇ、聴いて?」

「…」

「私、お父さんが‘‘のぞんだから‘‘、こっちに生まれてきたよ。」

「…」

「何回でも、低俗な争いに身を投じて、くりかえして、身を滅ぼしちゃいなさい。ね?」

「…」

「‘‘お父さん‘‘、わたしはここにいるよ。」

「…」

「‘‘呼ぶよ‘‘。」

「…」

「おやすみ。」

────俺は夢を見る。その結果として、悪魔が産まれたみたいだ。「俺の子供」という悪魔が。今も後ろで、俺の記憶を食ってる。

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