第3話 大物への道
ハルトは毎朝、夜が明ける前に目を覚ますと、父親から受け継いだ古い釣り竿を手に桟橋へと急いだ。
ケンゾウから教わったことを心に刻み、彼は海の声に耳を傾けるようになっていた。
今日もまた、海は新しい何かを教えてくれるだろう。
桟橋に立つと、ハルトは深呼吸をし、目を閉じ、波の音に集中した。
海風が彼の髪をなで、潮の香りが彼を包む。
彼は糸を垂らし、海の底へと想いを馳せた。そこには彼の夢があった。
伝説の魚「アズライトブルー」を釣り上げる夢だ。
ハルトはケンゾウの言葉を思い出す。
「海は生きている。そのリズムを理解し、尊重する者だけが、真の釣り師になれるんだ。」
彼は心を落ち着かせ、海と一体となるように自分自身を調整した。
その日、ハルトはいつもと違う何かを感じ取った。海の動きが激しく、糸が微妙に揺れる。
彼の直感が、大物が近くにいることを告げていた。
ハルトは焦らず、ゆっくりとリールを巻き始める。彼の心臓は激しく打ち、手は冷たい汗で湿っていた。
突然、糸が強く引っ張られた。
ハルトは力を込めて竿を持ち、巧みにリールを操作する。
この瞬間のために、何日も何日も海と対話し、ケンゾウから教わった技を磨いてきた。
彼は全てをこの一瞬に賭けた。
長い戦いの末、ハルトはついに大きな影を桟橋まで引き寄せた。
息を切らし、顔に笑みを浮かべながら、彼は水面に浮かんでくる魚の姿を確認する。
しかし、それは「アズライトブルー」ではなかった。
それでも、この魚はハルトが今までに釣った中で最も大きな魚だった。
「よくやった、ハルト」とケンゾウの声が後ろから聞こえた。
ハルトは振り返り、老釣り師の温かい目を見た。彼は気づいた。
釣り上げた魚の大きさは、彼が学んだこと、成長したことの証だった。
この日、ハルトは一人前の釣り師としての自信を得た。
彼にとって大物を釣り上げることは、夢への道を進むことだった。
そして、その道はまだ続いている。ハルトは知っていた。
本当の大物――その心に描いた「アズライトブルー」は、いつか彼の手にすることができると。
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