——4

「俺の仲間になりたいんだろ。わかってるんだ。本来なら出禁だが、ずっと探してた奴を連れてきてくれたし、何よりタイミングがとても良かった」


 詠に向かって、俺は死体蹴りに入った。この能力の、唯一の使い道といっても過言ではない——


「だって、おまえ……俺のこと好きだろ——?」


 最強の煽り。多分、詠に俺の能力は効いていない。攻略者同士ならレベル差や耐性などの関係で。しかし、それでいい——

 詠が何事か叫びかけたのを俺は満足した気分で見下ろした。

 ——だが、

 顔を上げると、いつの間にか近くにいた緋花と目が合ってドキッとした。


「ッ、あ」

「何よ‼︎⁉︎」


 ——条件反射で俺は倒れそうになり、そのまま地面に片膝と持ったままだった武器をついた……。詠を見下ろして立っていたので、その死の絶叫が響き渡った。聞きつけて向こうから咲がガブリエルと来る。

 ——いや?

 戻った……のか? 緋花の能力は1T指定。層攻略が完了したことで失われたはず。


「……もう大丈夫だッ。ありがとう。心配かけてすまないッ」

「ふぇ⁉︎ そ、そう……」


 緋花側には能力がなくなったことが通知されたはず。それに気がついた瞬間俺は……自分でも思いがけないことを言った。

 そうすることは間違っている——

 けれどそうしたい——


「緋花頼むッ、もう一度俺とあのテーマパークに行ってくれ‼︎」

「え⁉︎」

「やり直しをさせてくれ——! あの時の俺はッ、パフォーマンスが完調じゃなかった。俺はもっとやれるんだ! ……ッ、待て⁉︎」


 自分が別物に突き動かされたみたいだった。

 俺は——言ってるうちに気がついた。まだだ。能力が解除されていない。1T能力の消滅は次層へ到達した時なのか⁉︎

 ちょっと気位の高い女の子をデートにさそうのって、こんな緊張が渦巻くんだなと……俺は他人事のように思った。


「——っ、あそこじゃなきゃ駄目なわけ……? また今度ってこと?」


 すると、銀の蛇が装飾された黒頭巾の中でこっくりと俯いて顔を真っ赤にした緋花が、装束の端を少しだけめくって俺を素顔で見た。


「⁉︎ ——違っ」

「今も暇なんだけどっ。〜〜っっ、一番に来たの準備万端だったわけじゃっ……っっ、ないから——」


 だが緋花は背筋を震わすと驚き、慌てて身じろぎした。俺の背後から、咲に手をつながれて、ガブリエルが死んだ牛の如き目で来て緋花を見ると目が覚めたかのように言ったからだった。



「ゔぇ——ええああ、御調緋花‼︎⁉︎」



 ? 咲に愛おしげに撫で撫でされるのも構わず、妹はぴょこんと跳ねると(※着地は流石の重量感があった。『これ、空中下ハイスラのモーション』と言われても納得するほど)、しかし続け様に言った次の言葉が俺たちに極限の衝撃を与えた——ようだった。


「——お兄ちゃんっ、まっ。まさかっ、あれからずっとつきあってたぎそ‼︎⁉︎」



 ……? 俺には何のことか、わからなかった。しかし緋花が——

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