ダンジョン攻略者をしていますが、『全ての女の子が俺にデレデレ』という最悪のチートスキルのせいで難易度がHELLモードな件
——俺にだけ目を合わせてくれなかった美少女が実はアイドルで、しかも喋ってくれるようになった(※結果だけ言葉にすると、すごく良いことが起きている)。
——俺にだけ目を合わせてくれなかった美少女が実はアイドルで、しかも喋ってくれるようになった(※結果だけ言葉にすると、すごく良いことが起きている)。
◇
俺は、どうしたいんだ——?
向いていると思ってダンジョン攻略者になった。偶然能力を手に入れたけど、そのせいで苦労している。それを得たことが間違っていた。
だから——別の能力を取り直すために。でも、その先は?
得たことが間違いであったとしても、欲しかったことは本当だ。
それを手放すことができたとして、俺は……?
……どうしたいんだ?
「——正解なんてッ、最初から全部決まってる」
俺は待つことにした。……だが、ダメだ。話ができるのは、今しかない。
一秒も待ってはいけないと気がついた。
「やるかッ——!」
◇
すっかり夜の帳が降りた通りの水たまりに、光る画面が反射した。スマホでスキルを選択。
発動して加速し、俺は中へ突っ切る——温泉施設だが水着着用の混浴なので、通報という最悪の事態をギリギリのラインで回避した(※と思う)俺はタイミング悪く、一番目立つところにその姿を見つけると、プールのような浴場の中心。
噴水風のお湯の出るモニュメントを蹴って、水飛沫を噴いてブレーキした。
呼びかける。
「雛ッ——!」
「——スイくん……‼︎⁉︎」
そのまま噴水の縁に立ち、そこにいた雛蜂をやや上から俺は見下ろした。
「頼むッ、戻ってきてくれ‼︎ 俺には——力が必要なんだ!」
「雛じゃなくたっていいんでしょ……雛じゃなくてっ、っっ。ごめんね、つらいよねっ。雛のこと嫌いになったのっ、雛には言いにくいよね。でしょ? つらいことさせてごめんスイくん……」
※これが俺の能力。
「でもでもでもでも雛はスイくんと一緒っ、ずっと一緒だって思ってたずっと一緒にダンジョン攻略したよね……? 雛はスイくんのこと大好き大好き大好きだもん。スイくんも言ってくれたよね? 大好きって。違う? 言ったことない? 嘘だよ。それ嘘ついてる……嘘吐きの舌切っ——あ……⁉︎」
来た。
圧に耐えながら対峙を続け、タイミングを見て俺は言った。
「違うッ! 俺は間違ったんだ。ずっと前にな⁉︎ おまえが俺を好きなのは俺が——〈そういう能力〉を持って、ダンジョン攻略者になったからだ‼︎ そんな力を持つべきじゃなかったッ」
俺が言うと雛蜂は水飛沫に光のパーティクルを飛散させながら、何かを探すように身をよじった。そう、武器がない。
今、この場所なら——狂化効果によって制御不能であっても、どう思ったとしても、話を聞くことしか雛蜂にはできない。
「——やり直したいんだッ、俺はッ‼︎ 俺は……能力じゃなくて俺自身を好きになってほしい! そのためには俺だけの力じゃ足りないんだ……ッ」
今だ。伝わってくれ——⁉︎ と、祈る気持ちを込めて俺は噴水の側、
あのブーストが、かかってくればッ‼︎
「全部終わったら俺はみんなと、もう一度出会い直したい。この仮面を取って、素顔の本当の俺として——! もう一度‼︎」
「スイくん……——」
来た。
……効いたっ。
「好きっ……!」
「……ああ‼︎」
※俺、死んだな(俺は全てが終わった後、仮面の俺に全てを押しつけて消える決意をした。せめてそれまでの間が、雛にとって良い思い出であるよう——)。両手を広げた雛蜂と抱擁を交わし、俺はその場を離脱した——
——
莉玖を本部に案内した帰り(※莉玖は——〈彗星の騎士団〉の一員になった。絶対に逃がしたくなく、登録は本部でしか行えないのですぐに行動に出た)、俺は並んで歩いていると言われた。
「——そういう能力なんですねっ。あたしっ、っっぅぅ、キスしちゃ……ぃ……ましたけど。初めてのっ」
「……ッ」
登録を終えて帰るまでずっと、莉玖はたっぷりした太ももの大半まで裾のあるパーカーのフードを両手で顔に引っ張り続けながら、お腹に力の入ってない声でふわふわ浮くように喋った。
本当にもうしわけない、と思った。思い過ぎて言えなかった……。
「いいんですっ……ぅぅ。あたしが勝手にしたんですぅっ。つきあってるんですかー……? ですよねぇ……? あの御調緋花だもんっ、ぅぅぅ。本物のアイドルがいたんじゃあたしなんて、どうせっ。どうせウシ柄ビキニでも着てろって思ってっ」
「えっ——?」
俺は足を止めた。……え? 一歩後ろをついてきていた莉玖は、袖は爪の先まであるのに前が止まらず、パーカーから溢れた胸を腕で挟み(※そうしないと顔の方へ手がいかない)ながら、揺らして振り向いた。
「? なんですか」
「——緋花がアイドル……? んっ⁉︎ いやッ……」
「へ? ぁっ、知らなかったフリですか。いいんです。いいんです……あたしにお気遣いなくっっ、あれ。本当に知らなかったんですか……?」
俺は思考の裏側を擦られたような、何故かわからないがそんな気持ちがしてその時立ち止まった……頭の中の手の届きそうなところに答えがあって——届きそうだったが、
「じゃあ、あたしはこっちですから。〜〜っっ」
届かなかった。
「……」
震撼。
「——⁉︎」
瞬間、俺は真横へ疾く退いた——切り裂かれていった空気に斬痕、霧散。
「——これは⁉︎ ——誰だ!」
地面に投剣が突き刺さっていた。
「知ってしまったようね!」
「緋花か⁉︎」
「言っておくことがあるわッ……こうなったからには、覚悟してもらうんだから‼︎」
「本当に緋花か⁉︎」
ずっと背後にいたのか……⁉︎ 一瞬、俺たちはそれぞれ身構えていた……俺たちは何をやってるんだ⁉︎
「——あたしのウィキとか公式とか見たら、ちょっとでも見たら殺す!」
「殺す⁉︎」
「いい⁉︎ それとっ……っっ——」
突然現れた緋花が突然、強烈な圧を発した。
「——〜〜っ、絶ッ対あたしを推させてやるんだからぁ‼︎」
◇
————
——
——五分後。
「……あれ。……まだ? ……。……まだかっ。……いやっ、そんなはずはっ」
……。
——十五分後。
「追いかけて来ないんですか……⁉︎」
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